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「知」と「教育」を巡る世界規模の競争について考える

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先日、エコノミスト誌が行ったサミットに参加した。サミットの名前は「The Ideas Economy: Human Potential – When the world grows up」(仮題:世界経済の現在:世界成長に向けた人間の可能性)というものだ。このサミットに参加して、人間の持つ可能性というものを少しも活用できていないのだという思いを強くした。また、現代は世界中の才能を活かすことのできるユニークな時代なのだということもわかった。とくにシリコンバレーはアイデアこそが貨幣として機能しており、これがまたイノベーションと経済的成功への鍵となっている。知はグローバルに生み出されるものとなっており、才能を求めて世界規模の競争が行われている。この競争がもたらす影響にはさまざまなものが考えられるが、私たちには選択肢がある。保護主義的に障壁をあげて競争に敗れるか、あるいは新たな現実を受け入れて協調イノベーションの機会を活かしていくかだ。

サミットではKauffman FoundationのシニアフェローであるBen WildavskyがThe Great Brain Raceという著書に挙げた事例を紹介していた。紹介によれば学生が学ぶ場所として外国を選択するケースがかつてないほどに増えているのだという。自国以外で学ぶ学生は300万を超え、ここ10年間で57%増えているのだという。この傾向はさらに続き、2025年までには3倍近くとなる800万人に達する見込みなのだそうだ。地球規模での勧誘合戦が続いており、生徒獲得競争は激しさを増している(ニュージーランドはバイラルビデオまで活用している。画面には一緒に入浴する男女学生が映し出される。カメラが引くとその2人を険しい表情で見つめる両親らしき人物が映る。そして画面には「Get further away from your parents」というキャプションが表示される)。

欧米の大学は世界規模での学生募集を行うのが一般的となっている。中東やアジアにブランチキャンパスを設ける大学も増え、ここ数年で43%の増加となっているそうだ。

このような動きの中、Wildavskyがとくに重要な動きとして強調するのは中韓やサウジアラビアなどがアメリカやイギリスの研究機関に匹敵する大学を設置しようと目論んでいることだ。大学というものがイノベーションや経済成長に及ぼす影響をよく理解し、海外やブランチキャンパスに学生を送り込むだけの役割から脱却しようとしているわけだ。自国独自の研究機関を産み出そうと努力しているようだ。そうした国々では次のような動きが見られる。

  • 教育に対する投資を増やしつつある。中国は数十規模で大学を増設して設備の充実をはかっている。またエリート養成機関として中国版アイビーリーグの創設を発表している。またサウジアラビアではアブドラ国王が私的ファンドを通じて新しいKing Abdullah University of Science and Technology(KAUST)に$10B(100億ドル)出資した。これは開始時の予算としては世界中で第6位となる額だ。
  • 優秀な人材を世界規模でリクルートしている。中国は欧米で学位を得た中国人を呼び戻すための努力も続けている。韓国ではエリート養成のためのKorea Advanced Institute of Science and Technologyに外国人を多く招聘しようとしている。またサウジアラビアではKAUSTが最近National University of Singaporeの総長を初代総長として招聘した。
  • 外国機関とのパートナーシップ。シンガポールはグローバルなアカデミックハブを目指して、外国との提携関係を進めている。この一環としてDuke大学のメディカルセンターやシカゴ大学のビジネススクール、あるいはMITなどの招致に成功している。韓国は仁川国際空港付近にアカデミック版フリートレードゾーンを作り、多くの欧米ブランチキャンパスを招致している。

但し、現在のところは世界中の才能を集めているのはアメリカだと言える。自分の国以外で学位を得た人の3分の2がアメリカの大学を卒業している。しかし現状に安閑としてはいられない。

  • 他国がリクルーティングに力を入れる中、アメリカの市場シェアは縮小傾向にある。OECD加盟国の中で、外国人学生を迎え入れている数のうちアメリカの占めるシェアは1998年の32%から2007年の23%に低落している。かつて学生の送り込み元であったアジアの国々も近隣国からの外国人学生の受け入れに積極的となっている。
  • 才能豊かな人材の獲得合戦は激化している。世界中でみても、自らの国で仕事をしている物理学者は半数に過ぎないという現状になっている。アメリカの大学で活動する若き経済学者のうち4分の3はアメリカ以外で学部教育を受けている。
  • 外国人学生たちが母国に戻りつつある。私の行ったリサーチにも記したように、インドや中国からきた学生たちは自分たちが歓迎されているとは感じておらず、またアメリカに大きなチャンスがあると感じていないようだ。アメリカは史上初めてとなる頭脳流出期を迎えているわけだ。
  • 精華大学と北京大学を併せると、アメリカでのPhD獲得者数でUC-Berkeleyを上回ってトップとなっている。

アメリカを巡る現状は上記のように変化しつつあるのに、門戸を狭めるような誤った対応を採ろうとしているリーダーもいる。この件についてはTechCrunchの記事にも書いている。こうした動きは優秀な人材の流出を早め、アメリカにやってきて勉強ないし仕事をしようと考えるベスト・アンド・ブライテストの足を停めてしまうことにもなる。

学問の世界における保護主義は世界的にも見られるようだが、病的と言うべきものだろう。インドでは教育に対する熱望があるにも関わらず、ずっと外国大学の進出を拒み続けてきた。今になってようやく市場開放の議論を始めているが、制限も多く実効性をもつようになるかどうかは不明だ。インドにおける教育保護主義はかなり徹底的なもので、教育システムを大いに弱体化することに繋がってしまった。数年前にもIndian Institute of Technologyのプレジデントが、優秀な人材の国外流出を妨げることを目的として海外留学を禁止する措置をとった。マレーシアでは公立大学における外国人学生の割合を5%までと制限している。アメリカでもUniversity of Tennesseeは10年ほど前まで各学部毎に外国人学生の比率を20%までと制限していた。

Wildavsky曰く、「知恵」というものは金やダイアモンドのように有限な資源というわけではない。育てることができるものなのだ。育成することが可能な公共財という性格を持つものなのだ。また、「知恵」というものが国境の内側に閉じ込めておけるものでもないと言っていた。つまり世界中のイノベーターやアメリカのアントレプレナーも中国やインドなどにおける研究開発の進展から恩恵を受けることもあるのだ。私たちは人的資産の育成に注力していくべきだ。高度教育のグローバル化は恐れることは生産性の低下に繋がる。グローバル化はむしろ歓迎すべきことだと言える。テック業界のエグゼクティブたちが既に認識しているように、真の競争は排除することからでなく、有能な人材を見つけ次第採用していくことで実現できるものなのだ。

編集部注:本稿を執筆したVivek Wadhwaは、アントレプレナーから学者に転身した人物だ。現在はUCバークレーのSchool of Informationの客員教授、ハーバード・ロー・スクールのSenior Research Associate、およびデューク大学のResearch at the Center for Entrepreneurship and Research Commercializationのディレクターを兼任する。Twitterアカウントは@vwadhwaで、彼の研究成果はwww.wadhwa.comにも掲載されている。

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(翻訳:Maeda, H)