[jp]噂のベンチャーファーム、Y Combinatorの実態に迫る(その2)

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時間があいてしまったので忘れてしまった人もいるかもしれないけれど、いまみんなが注目するベンチャーキャピタルファームのY Combinator(以下YC)についての解説の第二弾を掲載しよう。忘れてしまった人は前回記事でおさらいしてほしい。

前回はYCにどうやって応募者が採用されるのか、そして、採用されたYC採用の創業者たちがなにをしているのかという話をした。今回はその後の話となる。インタビューに答えてくれたのはYCのパートナーのHarj TaggerとYC採用の創業者で今年の春先まで日本に在住だったGinzaMetricsのRay Grieselhuberだということ、改めて付記しておこう。

■さあて卒業間近、どうする。

3カ月なんてあっという間だ。きっと誰でもそう思う。YCで投資を受けた創業者たちはひたすら製品を作っているだけだからなおさらそう感じているのかもしれない。

3カ月でとにかく動く製品を作る。これがYCのやり方だから3カ月後にはベータ版か、それ以上のものが眼に見える成果として現れる。だからそれを手にして、次のステージとして、次の資金集めに創業者たちは奔走しなくてはならなくなる。もちろん資金が底をつかないくらい稼いでいる企業ならいいけれど、そうでなければYCが提供してくれる最初の投資は数カ月でなくなってしまう分しかない。

だからYCではDemo Dayというイベントを設けている。ここでは、有力なエンジェル投資家やベンチャーキャピタリスト、メディアなどがイベントに参加し、卒業間近の創業者たちの成果を見に来る。

創業者たちはDemo Dayで(あるいはそれ以前に紹介を受けて)知り合った投資家たちと話を進めて、うまく行けば次の資金を得ることになる。ただ、驚くなかれ。なんとYCを卒業する85パーセント、いまでは90パーセント近くの企業が卒業時の投資ラウンドで資金を得ているのだという。つまり、YCに応募してパスして3カ月で製品を作れば、有力なエンジェル投資家やベンチャーキャピタルから投資を受けることができるのだ(もちろん、それはそれで大変な道のりなんだろうけれど)。

Harjによれば、これはYC自体が有名になったから、それだけ実力がある人たちが応募してきているということと、もう1つはシリコンバレーの景気がひところよりはよくなったということに起因しているらしい。

Rayの会社GinzaMetricsも複數のエンジェル投資家から資金を得ることができたらしい(よかった)。Rayが言うには、YCのブランドは絶大で、とにかく誰にでも会って話を聞いてもらえるのだという。有力な投資家たちに時間さえとってもらえない起業家がたくさんいるシリコンバレーでのことを考えると、これはアドバンテージだ。

■うまく資金を調達できなかった。どうしよう。

YCだからといってみんながうまく行くわけではない。最終的に資金が調達できなかった創業者もいる。彼らはどうするのか。

ケース・バイ・ケースだが、たとえば、昼間コンサルティングをやりながら引き続き夜にスタートアップ企業の仕事を続けるパートタイム型の人もいる。あるいは自分がやっていたことを辞めて、ほかの会社、たとえばグーグルのような大企業にいく人もいる。

興味深いのはYCで知り合った友人の会社に参加するケースもあるということだ。同じ創業者同士としてスタートアップ企業を立ち上げるマインドは共通している。そういう意味で、たとえ自分がやりたかったことにお金がつかなかったとしても、ほかのスタートアップ企業の立ち上げに加われるのだとしたら、アントレプレナーシップをもつ人にとって幸福なことなのかもしれない。

■そして卒業。YC卒業生とその後のYCとの関係は。

3カ月が終了すればみんなYC卒業となる(いや別に学校じゃないから本当に卒業するわけではないが)。Harjによれば、YC卒業生のその後については、彼ら自身が積極的にかかわることはないのだという。エンジェル投資家や有力なベンチャーキャピタルから十分な資金を得た企業は、次のビジネスを広げていくことや市場を拡大していくことについては、投資してくれたベンチャーキャピタルと一緒に考えていく。

YCスタッフとの濃密な時間は3カ月ということになる。

だが、Rayによれば火曜日のディナーはその後も続いているようだ。卒業後も火曜日はYC同期生が集まって、互いに状況を報告しあい切磋琢磨する。そこには、YCを立ち上げたPaul Graham(PG)やHarjやそのほかのYCのパートナーたちが参加することもある。つまり、YCは人と人とのつながりだということを意味している。YCでできた「人間関係が大事だ」とはRayの弁。3カ月でYC自体が提供するプログラムは終了するが、あたりまえだが人と人とのつながりは変わらないということだ。

■とにかく製品を作ることに集中させるといこと

僕が聞けた情報はざっとこんなところだ。

3カ月という短いタームで「製品を作ること」と「人との関係を作る」こと、そしてその大前提となる「ビジョンを作る」こと。たぶん、これがYCでやることのほとんどなんだと思う。HarjもRayも異口同音にビジネスプランは作らないといっているから、彼らがいかに製品を作ることを大事にしているかがわかる。

面白いのは、応募したときとはまったく違うビジネスを3カ月の間にスタートさせる創業者もいるということだ。YCと創業者が協議をした結果、その製品に期待するほど大きな未来がないと判断すれば、まったく別のことを始めることもあるとHarjはいう。だからこそ、面接のときには応募者のビジネスモデルや市場を見るのではなく、人となりを見て採用を決めているのだという。

最後にHarjにYCのスタッフはオフィスアワー以外に何をしているのかと聞いたら、スタートアップ企業が普通にはとりあってくれない大企業との交渉(YCのブランドはシリコンバレーでは知られていて、YCであればいい担当者と直接交渉できる)や投資家との関係作りなんかをやっていると答えてくれた。創業者たちが製品作りに集中している間、彼らは外側との交渉をしている。これはとても素敵な関係だと思う。


YCがスタートして、シリコンバレーの投資のスタイルも様変わりしたという。それはウェブのサービスはものすごくコストが安くビジネスを始められるということにも起因しているのだと思うけれど、お金よりもビジョンや製品を作るための具体的なアドバイスのほうがこれから起業する人にとっては重要で、そういうことをやることでYCは名声を結果として得たのだと思う。それはそれまでのベンチャーキャピタルではできなかったことだ。

たとえば製品づくりの具体的なアドバイスができるのは、PGをはじめ、自分たちに製品を作った経験があり、具体的に何をどう直したらいいのかが見えていることと、過去にYCを巣立っていった企業の製品ができる過程を見ているため、蓄積された知見があるからだろう。

YCはセコイアキャピタルから資金を調達している。有力なベンチャーキャピタルが手の届かいないことをうまくやれているから、こういった資金調達が可能なのだろう。

ほんの少し前はベンチャーキャピタルが力を持ち、彼らがスタートアップの運営ルールをすべて決めていた、とRayが教えてくれた。たとえば、MBAホルダーがマネージメントをつとめマネージメントを採用して……といったように会社が組織されていた。だが、いまではコードを書いてものを作る人たちがやりたいことをやる、そこから会社がスタートする。シリコンバレーはそういう場所だったはずで、いままたそういう場所に改めてなっているきているのかもしれない。

日本でもデジタルガレージやネットプライスが運営するOpen Neworks LabやサイバーエージェントインベストメントのStartups、GMOのアプリやろうぜ!アンドロイドやろうぜ!インキュベイトファンドのIncubate CampなどYCと近い意識をもった投資活動が出てきている。YCに注目するとともに日本でのこういった動きにも注目していきたい。