[jp]誰がソーシャルアプリ市場の未来を担うのか――ディー・エヌ・エー対グリーのその後

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ディー・エヌ・エーのソーシャルアプリプロバイダーに対する囲い込みの第一報を報じた僕が、公正取引委員会(以下、公取)の立入検査についても含めて、なぜ続報を書かないのかと多くの人たちから指摘を受けた。実際、今回の公取立ち入りの以前にもいくつか報道しなければならない局面もあったのだけれど、この話題は個別の問題を抱えながらも、そろそろ終焉を迎えるだろいういう気持ちもあったので、いまさら火種をほじくり出す必要はないだろうとそれまでは考えていた。

だが、みんながいう通り、やはり何かを書いておく必要があるのだろう。なにせ公取の件の引き金は僕の記事なのかもしれないのだから、その責任を果たさないといけないと思って、いま重い腰を上げながらこの記事を書いている。

公取の立入検査のあった12月8日は、僕は京都で開かれていたインフィニティ・ベンチャーズ・サミット(以下、IVS)に参加していた。あの場は関係者も多かったので、事態を把握するのにある意味容易だったのかもしれないが、実際は騒然としていてそんな雰囲気ではなかった。一部のソーシャルアプリブロバイダーの経営者の中には、東京のオフィスに公取に不意をつかれたかたちで検査が入り、急遽京都を後にする人もいた。参加していたディー・エヌ・エー取締役たちも現地で公取にヒアリングを受けていたようで、スピーカーを予定していたディー・エヌ・エーの守安功氏も出演をキャンセルする事態となった。

公取の調査の内容については、いくつものメディアで報道がなされているのでそちらを参考にしてほしいが、最終的な判断は公取がすることなので、それまでは調査を見守ることにしたい。

IVSの会場は公取調査の噂で持ちきりだったが、僕と話をする人たちはこの問題に対して異口同音に「とはいえ、グリーも同じことしているのじゃないか」と唱える人が多かった。その根拠については、ほとんどははっきりとは語ってくれなかったが、何か噂めいたものなのかもしれないし、ソーシャルアプリプロバイダーとして過去にグリーから厳しい条件を提示されていたのからなのかもしれない(実際グリーはオープン化した当初はソーシャルアプリプロバイダーに厳しい条件を提示していたのを認めている)。

こんな話もある。

11月18日にあるソーシャルアプリプロバイダーがモバゲータウンにあるゲームを提供したら、GREEに提供していたゲームへの導線が切られたというのだ。

そのプロバイダーは以前から、モバゲータウンにもグリーにもゲームを提供していた会社だ。ただ、今回の問題の発端となったディー・エヌ・エー側からの通達によって、次回作をどちらのプラットフォームに提供するのかを決めかねていた。そして最終的にモバゲータウンに提供することを決めたわけだが、とたんに、それまでGREEに提供していたゲームが、トラフィックの導線となるGREEの人気ランキングなどから消えたというのだ。「モバゲータウンにゲームを提供したらトラフィックを流さなくする」という構図は、まるで、ディー・エヌ・エーが行ったとされる行為と同様である。これを指して「グリーも同じことをしている」とみんなが噂していたのも事実だ。

たしかにこの言い分だけを取り上げれば、グリーも同じじゃないかと言えなくもない。が、どうしても1つだけ疑問があった。というのも、今回のケースが適用されたのは1社だけだったからだ。たとえ、1社であっても事態としては問題は問題なのだけれど、当事者同士の複雑な事情が多分に絡みあって起きたことかもしれないので、単純に問題を把握できないからだ。したがって、この事実について以前から知っていたのにもかかわらず、記事にすることを悩んでいた。

そこにきてこの公取の動きときた。だから、改めてこの件について、グリー側に確認をした。その回答としてはこうだった。

11月18日以前にはGREEでの継続的なゲーム提供を期待して優遇策として、そのプロバイダーのゲームの露出をGREE上で増やしていた。ところが、今後のゲーム提供をディー・エヌ・エー側に優先するという話だったために、それまで提供していた優遇策を止めざるをえなかった。ランキングなどから消えたのは、その優遇策を止めたためだということだった。

その後、公取の調査が始まった12月8日には人気ランキングに当該のゲームが復活するのだが、ここまでに到るまでに細かな経緯もあったようで、予想したとおり、非常に複雑な問題をはらんでいた。その内容は両社の契約にあまりにも差し障りのあるものなので、ここでは明らかにすることはないが、グリーしかりディー・エヌ・エーしかり、互いにソーシャルアプリプロバイダーをめぐって、自陣営への取り込みをいろいろと画策していることは事実のようだ。

ただ、有利な条件を提供されようとも、厳しい条件をつきつけられようとも、競争するプラットフォームの間では、ソーシャルアプリプロバイダーは右往左往せざるを得なくなる。ソーシャルゲームの世界では、トラフィックをコントロールできるプラットフォームを提供する側に交渉の有利さがあるということだ。プラットフォームを超えた交渉力を持てるのは、よほどの交渉カードを切れるだけの開発力や誰もが知る人気キャラクターやゲームなどの知的財産を持っているところに違いない。それとて、ソーシャルゲームという新しいノウハウが必要な分野では、完全なデータを取得できるプラットフォームに、もはや太刀打ちできないかもしれない。

この1年で大きく台頭したソーシャルゲーム市場は、早急にマネタイズができる可能性を秘めていて、多くのスタートアップ企業が夢見て参入してきている。インターネット企業のスタートアップとしては少し大きめの資金調達をできた会社もあるが、その多くはプラットフォームから直接、間接的に資金を調達していることも少なくない。それに、グリーとディー・エヌ・エーの両社で言えば、いずれも自社でキラーアプリとなるゲームを提供しているため、まずはそれを優遇せざるを得なくなる。

だからといって、プラットフォーム側がなにをしてもいいということにはならないだろう。

結局は「選択される」プラットフォームとして事業を行わなければ意味がない。それには、たとえライバルの競争が激化しようとも、ソーシャルアプリプロバイダーに支持される体制を築かなければならないだろう。

奇しくもIVSの会場でグリー代表取締役の田中良和氏は「5年後には今のガラケーの市場がなくなりグリーのビジネスがゼロになるという前提の元にスマートフォンへのビジネスを始めた」と語っている。

グリーもディー・エヌ・エーも現在の彼らの事業はフィーチャーフォン、いわゆるガラケーの世界でのビジネスでしかない。最近、グリーはスマートフォン向けのプラットフォーム提供自社のゲームを提供し始めたが、5年後にはスマートフォンがケータイ市場の主軸になっているだろう。そのときに、いまのビジネスが同じように成立しているのかはわからないといことだ。それに日本だけでなく、海外からも国内のユーザーの高いARPUを狙って参入者は増えてくるだろう。

そのときに果たして誰が勝つのか――。いまは、そのための布石が必要なのであって、プラットフォーム事業者が担う役割としてやるべきことは、その動きについてこれるソーシャルアプリプロバイダーを育てることだろう。それは決してソーシャルアプリプロバイダーの手足を縛ることではないと考える。

[photo:Kym Roberts-Jones]