リアル書店の脅威、Amazonは出版社をも脅かす?

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[jp]Facebookの成長の裏側を知る書籍「フェイスブック 若き天才の野望」は今日発売

もちろんAmazonは小規模な書店を意図して潰しにかかったわけではない。単にAmazonは大勢のユーザーに便利なサービスを提供しただけだ。現在Amazonはあれこれの「小さな機能」をサービスに追加しつつある。こうしたサービスは全体としてみると著作者にとっての伝統的な出版社の役割を次第に小さくする方向に働くように思える。

こうした事態に一番ショックを受けているのは他ならぬ私自身だ。なるほど私はニュース記事やビデオに関してははっきりニューメディアに転向した。しかし私は電子書籍による自費出版は多くの著者―少なくとも大量の読者を獲得しようという野心のある著者には受け入れられないだろうと信じている。

第一、それでは満足感が得られない。本を書くということは、他の分野に比べて少額の報酬しか得られないにもかかわらず、人生の何年分かを賭ける事業である。苦労した分だけ後に残るものが欲しい。私は自分の本をコーヒーテーブルの上に置いて眺めたい。ニューヨークタイムズの書評欄で取り上げてもらいたい。本屋に入っていって自分の本が積み上げられているのを見たい。ほとんどの場合、こうしたことは伝統的な出版社を通さなければ不可能だった。

誤解しないでいただきたいが、今後私の電子書籍の販売数は紙版より多くなるだろう。しかし、大手出版社の著作に対する選択眼、マーケティング力、販売力等がなければ、電子版にせよ紙版にせよ、大量に販売することは難しい。本を書いた人間に対する最初の質問は「それはどこの出版社から出ているのか?」だ。ウェブサイトの WashingtonPost.com が紙版のWashington Postのブランド力と名声に頼っているのと同様、著者自身が非常な有名人でないかぎり、電子書籍にしても有名出版社から出すのでなければ真剣には受け取ってもらえない。好むと好まざると、それが現実だった。

しかしこの現実も変わるかもしれない。Amazonは静かにAuthor Centralに著者を助ける小さい機能を追加し続けてきた。私の2冊目の本が今月末に出版される予定だ。そこで私はAmazonの著者向けサービスを詳しく調べてみたところ、私が1冊目を出版した2008年からドラマチックに変わっていることが分かった。

Amazonは最近、Facebookと連携してAmazonのアカウントを通じて本に対して「いいね!」を投稿できるようにした。これ事態はあまりにも当然というか平凡な機能に思える。しかしAmazonの膨大な在庫とそれにもまして膨大なFacebookユーザーの投ずる「いいね!」は実際に売れ行きに影響してくる可能性が高い。現在、Amazonではある本のレビューの数が多いと売上が大きくアップすることが知られている。「いいね!」はレビューよりずっと簡単にユーザーの意見をWebに反映させる方法だ。

さらにAmazonの著者ページには使い方が非常に簡単なソーシャル・ネットワーク機能が用意されている。たとえば、著者は自分のブログの記事をRSSを通じてインポートすることができる。本のサムネールの下の著者名をクリックすれば、その名前で書いた本の一覧が表示される。著者はAmazonの顧客アカウントを利用して本人確認を行えば、ほんの数分で自著の販売数、レビューなどの関連データ一式をダウンロードできる。

現実の販売データが得られるというのは革命的だ。アメリカの出版産業は販売データの把握をBookScanというサービスに頼っている。Amazonは書名ごと、バージョンごとにBookScanデータを著者に提供してくれる。つまり著者はAmazon上でどれだけ売れたかを知ることができるだけでなく、全米でどれだけ売れたかを知ることができる。詳細な情報を提供するダッシュボードが用意され、地域別、販売チャンネル別の内訳も見ることができる。また時系列のAmazon順位のグラフも用意されている。私の最初の本について、どこまでランクが落ちるのか見届けようと、ずっと再読込ボタンを押し続けてきた。今度出版される本については、最低順位は1月3日だった。1月3日に何があったのか分からないが、それ以後順位は上がっているし、発売後は詳しい情報を得るのは簡単だ。

これらは小さなことのように思われるだろう。しかし著者にとってはこうした情報がリアルタイムで得られるというのは革命的だ。昔、自分の投資の成績を証券会社から送られてくる四半期報告やウォールストリート・ジャーナルの記事で読むしかなかった投資家がウェブでリアルタイムで株式情報を得られるようになったのと同様のインパクトなのだ。私がこの話を同僚でやはり著作家であるPaul Carrにしたところ、ダッシュボードを実際に見せてあげるまで彼は信じようとしなかった。著者は検索キャンペーン、ターゲット広告などのセールスプロモーションを仲介者抜きで自ら実験することができる。

考えてみれば面白い。Marc BenioffはSalesforce.comの顧客管理サービスのルック&フィールのインスピレーションをAmazonから得たと語っていた。やり手のAmazonはなんと今や著者に対してSalesforce.com風のセールス管理ダッシュボードを提供しているのだ。

もちろんAmazonがベストセラー以外の本の著者に対して行った最大の貢献は(そもそもAmazonというサービスが存在することを別にすれば)、Kindleストアの開設だ。オフラインであれオンラインであれ、本の衝動買いを可能にした初めてのサービスだ。Kindleデバイスやスマートフォンを持っているユーザーにとっては革命的な体験がもたらされた。それまで本の販売というのは、消費者がカクテルパーティーで小耳に挟んだその本の噂を次に本屋に行ったときにたまたま思い出す、というような当てにならないプロセスに頼っていた。今やユーザーはKindleや携帯電話を取り出して一回クリックするだけで本が買える。AmazonがKindleをWebAppleの各種デバイス等に拡大したので、「速攻で購入」のチャンネルはさらに広がった。Borders〔アメリカ最大の書店チェーンの一つ〕の経営が瀬戸際に追い詰められ、大手書店がまた一つ減りそうな現状では、Amazonの影響力は以前にも増してさらに大きくなっていきそうだ。

もちろん、これらの現象はどれもそれだけを取り上げればさほどショッキングなニュースではない。しかし全体としてみると、Amazonは読者と著者の間に横たわる数多くの障害を一つずつ着実に解消しつつあることが見えてくる(Kindleにページ番号を振らないという頑なな姿勢は困りものだが)。

私の版元のような賢明な出版社はAmazonの提供するツールをとことん使いこなすよう著者に要求してくる(Wileyの皆さんへ:はい、著者ビデオの制作にとりかかっておりますよ!)。しかしKindleの登場も生かせないようなそれほど賢明でない出版社はこうしたAmazonの動きにパニックを起こすかもしれない。Amazonは自分が書いたことをできるだけ多くの読者に読んでもらいたいと考える人々をすべて著者にすべく、出版ビジネスの再編成を着実に進めている。

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(翻訳:滑川海彦/namekawa01