支払いサービスがAppleやGoogleにさえ難しい理由

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編集部注:本稿のゲスト寄稿者、Ohad Sametは、支払いシステムにおける詐欺その他のリスク管理の専門家である。同氏はPayPalの元上級管理職で、ブログ「As Risky At It Gets」を書いている。

最近の新しい支払いサービスに関して、プレーヤーは誰か、そしてもちろん誰がこの大きな市場を勝ち取るのかについて、多くの議論がなされている。AppleGoogleが最近、相次いでデジタル出版の一環として新支払いシステムを発表し、ちょっとした小競り合いもあった。果たして両巨人は近々PayPalに取って代るのだろうか。

支払いシステムに関する議論で問題なのは、事情を理解していないことだ。支払い分野を支配するためには、ユーザーのクレジットカード番号を一番多く集めることやデジタルコンテンツの視聴率を上げる以外に、やるべきことが山ほどある。支払いエコシステムは複雑だが、典型的なタイプがいくつかある(私の分類は財布、ネットワーク、メソッド、およびエンゲージメント・ドライバー)。GoogleとAppleはいずれもネットワークの領域にいる ― 支払いをする顧客との関係を所有している。AppleはiTunesの先を、Googleは広告の先を ― いずれも利幅の大きいデジタル分野 ― それぞれ見据え、一般市場に打って出ることを狙っていると想像できる。面白いのは、両社がこの点に関して似たような戦略を取っていることだ。

両社共に中刻部分に関していくつかの困難に直面している。互いに相手の弱点を強みとしていることは興味深い。Googleはカスタマーサービスに弱く、Appleはテクノロジーに起因するリスク管理に弱い。

カスタマーサービスは支払いサービスで非常に重要だ。そこにはお金のやりとりがあり、アカウントの制限、詐欺行為や損害への対応などによって事態は複雑化し、買い手、売り手双方からの質問の原因となる。Googleは、人間の対応が絡むことでは必ず失敗するところを見せてきており、Google Checkoutユーザーからのフィードバックもこれを裏付けている。つまり、今後の成長のカギはGoogleがいかにうまく顧客に対応し、カスタマーサポートのスケーリングを行っていくかにかかっている。これは、過去Googleが得意としてこなかったことの一つだ。

二番目のポイントがテクノロジーだ。私はよく、支払いにおけるリスク評価はテクノロジー主導であり、(業務遂行、ユーザー体験と共に)サービスの主要部分であると言っている。支払いサービスに参入しようとする企業には、詐欺行為をリアルタイムで発見し、資金移動を追跡してマネーロンダリングを防ぎ、侵入されたアカウントを検出して停止するなど、することがたくさんある。Appleはユーザー体験とカスタマーサービスに関してはすばらしいが、中核となるソフトウェア技術、特に支払い部分に関しては欠けているようだ(昨年のiTunes詐欺事件でアカウント侵入や偽支払いが起きたのが良い例)。PayPalで、Max Levchinをはじめとする多数の優秀な人が、詐欺行為を防ぎリスクを管理するために夜を徹して働かなくてはならなかったのには理由がある。これはきつい仕事だ ― しかも10年間にわたってリスク対応を最適化してきたPayPalの上を行かなくてはならない(そのPayPalも多くの問題に直面している)。大企業の中でこの機能を作り上げることは容易ではなく、Appleにそれが可能であるかどうか私にはわからない。

コストの問題もある。たしかに両社とも、クレジットカード番号と結びついたアカウントを持つユーザーを何百万人と抱えている。しかし、クレジットカードによる大規模な支払いは、あることを意味している ― 手数料でクレジットカード協会を儲けさせることだ。すぐにもっと効率の良い方法に代えたくなり、多くの場合それは銀行直接支払いだ。銀行支払いにはいくつもの課題がある。インフラが脆弱で、標準化された検証手順がない(ある銀行口座から直接引き落としができるかどうかを知らせるサービスのことで、海外には殆ど対応していない)。しかも、支払い後に銀行から確認が来るまでに3~5日(米国内)から3週間(一部EU諸国)もかかる。つまり、即時支払いに銀行口座を使うことは、問題の多いインフラに支えられた短期クレジットという複雑な業務であり、まさ別の種類の問題を数多く引き起こす原因となる(中でも大きいのが債権取り立て)。

私が懸念している最後の大きな課題は、売り手、買い手双方と共に真のエコシステムを維持していくことだ。両社ともこれまでは主として売り手であり、顧客の購入における提供者だった。AppleやGoogleが「提供者」(アプリ、コンテンツ、あるいはウェブサイトの広告枠)と維持してきた関係というものも確かにあるが、これは完全に双方向で対等な資金の流れではない。小規模な売り手という独特のタイプの顧客による、本格的なストアドバリュー型アカウントシステムを維持していくことは、多大な経験を要する大きな挑戦である。以前売り手の詐欺行為のためにAlibabaのCEOが辞任した時、売り手の世界に門戸を開くことは新たな問題領域であり、誰もが成し得ることではないことが明らかになった。Apple、Google共に自分自身に関してこれを解決できていない(30%の手数料で損失補填しながらパブリッシャーに制約を課すことは、問題を「解決」したことにならない)。これは、大きな問題であり、満足のいく解決ができた会社は(PayPalを含め)未だにない。

結局、PayPalが10年前に取ったのと同じやり方使って、支払いサービス分野で戦うことは、益々難しくなってきている。既存の方法に基づいてもう一つネットワークを作ることは、単なる「模倣」戦略であり、GoogleとAppleが現在提供している非常に限定された用途を除いて、マーチャント(売り手)には乗り換える動機がない(30%の取り分に対する反応を見る限り、その限定用途においてすら安心できない)。支払いサービス業界の中で、この種のアプローチでチャンスを持っているとすれば、唯一Amazonであるが、ここもサートパーティーと大規模な取引きはしていない。これは、本物の破壊ではない。では何が破壊なのか。私は2つのトレンドに注目している。給与(財布となり常に持ち歩けるようになる)と短期クレジット(堅牢なシステムを一から作り上げる)だ。これには全く別の議論が必要になる。しかし今のところGoogleとAppleには、この道を進むことも他の方法をとるつもりもないようだ。そして彼らがそうするまで、本格的支払いサービスの主役になることはないと私は信じている。

写真提供:Flickr/ Dave Barger

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(翻訳:Nob Takahashi)