クーポンビジネスが崩壊する理由

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編集部注:本稿のゲストライター、Rocky Agrawalは1995年以来地域サービスに取り組んできた起業家である。彼のブログ、reDesignとツイート、@rakeshlobsterはこちら。

GrouponがIPO申請したことでもあり、今この業界を根本から見直してみる価値があると思う。これまでの成長ぶりは目を見張るばかりだ。しかし、果たしてこれは維持可能なビジネスなのだろうか。

みんなが日替りクーポンを好きな理由は単純。驚くほどお得だからだ。最初のインターネットバブルでの収益成長のしくみが、1ドルを50セントで売ることだったとすれば、日替りクーポンビジネスの成長は、誰かに〈その人の〉1ドルを50セントで売らせておいて、権利の代償として25セント徴収することで成立している。

生涯最悪の不況下で暮らしていると、そんな割引きがますます魅力的に感じてくる。

クーポンはあきれるほどお得だ。私はGoogle Offers初のクーポンをFloyd’s Coffeeで使った。3ドルで、10ドル分の食べ物が手に入った。言っておくが、コーヒーショップで10ドル使うのは容易ではない。私の注文は、レッドビーンズ・ライス、メキシカンCoke、ドーナッツ、それにチョレートチップ・クッキー。合計9ドル95セントだった。

私にとってはすばらしくお得だが、店にとっては維持不可能だ(このケースでは通常の日替りクーポンとは異なる経済が働いていると思われるが、それについては後ほど)。

殆どの地元レストランでは、料理の原価は売値の25~30%だ。維持可能な割引は15~30%だ。断じて75%ではない。日替りクーポンビジネスは、経済的に維持不可能な価値提案に基づいて動いている。

クーポン経済

一般的なクーポンの構造はこんな感じだ。

  • 通常価格の50%がディスカウントして顧客に提供される。
  • 価格の25%が、店舗に入る
  • 価格の25%が、クーポン提供会社に入る

実際のパーセンテージはさまざまだろうが、概算はこんなところだ。価格を半分にして、残りまた半分を誰かに渡して儲けを出せるビジネスなど存在しない。

これは三者によるゼロサムゲームだ。金の行き先は、顧客(支払はない)、店舗、クーポン提供者のいずれか。

もし店舗がちょっとでも儲けを増やそうと思えば、その金は、クーポン提供者の取り分を減らすか(マージンが減る)、顧客への割引率を下げるか(クーポンの魅力が減る)のどちらかによって絞り出すことになる。

このクーポンで儲からなくても心配ありませんよ、と店は言われる。すべては顧客獲得のため。新規顧客が増えれば将来たくさん稼げますよ、と。これには少しばかり問題がある。

  • 店にやってくる客の多くは、既存の客である。値段を変えて収益を75%減らすだけだ。例えば、40ドル分の料理を20ドルで売るとしよう。売るのは2000食だ。クーポンを還元する客の25%は既存の顧客なので単に損するだけだ(25%というのは、実際に私が店主たちから聞いたよりも少ない数字だ。この値が大きくなるほど、ビジネス状況は悪化する。ある店主はGroupon利用者の90%が既存顧客だったと言っていた)。さらには、顧客の店の価値に対する期待度がリセットされるという、長期的影響を与える可能性もある。
  • 客の多くは、店の主要対象地域外からやってくる。地元のレストランにとって、通常の市場地域は5マイル圏内だ。最近の地理別市場セグメントをもってしても、クーポン業者はそこまで狭いターゲティングはしない。もっと広い地域を対象にした方が効率が良いからだ。もし誰かが25マイル運転してあなたの店に来るとすれば、恐らくそれは来てほしい客ではない。みんなが1時間かけて出かけて正価を払う、というレストランは存在する ― しかしそんなレストランはクーポンを出す必要がない。
  • クーポン業者は、店主にクーポン購入者の連絡先情報を教えない。個々の客を捕まえてリピートされるかどうかは店次第だ。それをやる方法は間違いなく存在するので、クーポンを出す時は必ずやるべきだ。顧客に店のTwitterやFacebookのアカウントをフォローするよう薦める。メールアドレスを聞く。客を繋ぎとめるのだ。しかし、地元店舗がこれをやるところをめったに見たことがない。
  • 客がいつやってくるかを店はコントロールできない。ある店主は、売上1ヵ月分のクーポンをGrouponプロモーションで販売したと言っていた。別の店では、長い行列が出来たために通常のサービスを維持できなかった。そんな環境の下で、誇れる商品を売ることができるのだろうか。

これを経済的に埋め合わせているのが、還元されなかったクーポンによる店の収益だ。

クーポン業者は、このビジネスが店舗のためになっていることを請け負う必要がある。私が店主と話したところでは、彼らがクーポンの飛び付いたのはそれが流行だからであって、綿密にROIを計算したからではない。

こうしたクーポンの状況を店にとって好転させる一つの方法は、オフピーク時間にのみ使えるよう利用制限をかけることだ。しかし、これは消費者へのアピールを減らすことになり、クーポンサイトがメインで取り上げる可能性は低くなる。店舗がクーポンを最大限に使えるよう支援、教育する方法もある。

現段階で店舗の満足度を測ることは難しく、主として逸話的なものになる(GrouponのIPO申請書類は殆ど参考にならない)。Rice School of BusinessのUtpal M. Dholakiaの研究によると、Grouponを使用した店舗の42%が、二度とGrouponを使わないという。「ソーシャルプロモーションのユーザーは、店が望むような関係を結ぶ顧客、即ち店の長期的成功に必要とされる顧客ではない、というのが多くの店主にある共通認識である。そして、そんな極度に価格に敏感な客特質と取引姿勢性には幻滅する、と多くの回答者が言っている。

Aランク企業

すべての企業が平等ではない。中にはAランク企業というものがあり、殆どがそうではない。全国レベルのAランク企業には、Amazon、Costco、Starbucks、Target、Appleなどがある。この種の企業のギフトカードをPlastic Jungleで調べてみると、ほぼ額面価格で売られていることがわかる。人々は現金同様だと捉えているのだ。彼らから大きなディスカウントが提供されることはめったにない。Appleは自社ブランドに対して極めて保護的であり、同社の製品を無料で配ることさえ望んでいない。

消費者はそういうブランドが大好きなので、クーポン会社の中には自腹を切って割引分を出すところもある。私はノードストロムで50ドルの買い物をして、25ドル戻ってきた。

Grouponが初めて全国展開したGapクーポンを覚えているだろうか。このクーポンのために約20万人のユーザーがGrouponに登録した。私の試算による一人あたりの顧客獲得コスト、26.50ドルに基づけば、Grouponはそのクーポンによって530万ドルの価値を得たことになる。仮にGrouponがGapから全く手数料を取らなかったとしても、Gapとの繋がりと、これだけの定期購読者が出来たことで十分元が取れる(さらには広告キャンペーンによって生み出されたパブリシティーもある)。Livingsocialが行ったプロモーションでは、Amazonのギフト券に補助金を出すことで100万枚を売った。顧客リストを作り話題をふりまく方法として、これはすばらしい。

同じことが地域市場分野についても言える。リストを作るために利用できる店舗がある。儲けを出すために使える店舗もある。昨年冬以来ポートランドではGoogleが大がかりなキャンペーンを展開している。地元企業のために広告掲示板を買い、バスや電車にラッピング広告を仕掛け、地元バスケットボールチームのイベントのスポンサーになり、プライベートなコンサートを開く等あらゆることをやった(詳しくはこの記事を参照)。

そうしたイベントの大部分が、Voodoo Doughnutをはじめとするポートランドを象徴する企業が中心に展開されている。しかし、Voodoo Doughnutのような企業は、Google Offer(クーポン)を必要としていない。そうでなくても40分待ちの行列が出来るのだ(実際待つ価値がある!)。もし私がVoodoo Doughnutの経営者なら、たとえGoogleが手数料を請求せず、さらに〈値引分を持つ〉と言ったとしても、クーポンを発行しないだろう(ブランド価値を下げるから)。他に何かを考えるとしても、それは人気絶頂のドーナツを値引きすることではない。

しかし、こうした注目企業に頼ることは、リスト作りにおいては重要だ。Googleが発行する「Offer」が増えていくにつけ、彼らがどんな企業をターゲットにするのか興味深い。もしビッグネームが次々と出てくれば、それはGoogleが手数料を放棄しているか、さらには割引分を持っているという証拠になる。Floyd’s Coffeeの70%ディスカウントを考えると、手数料はゼロあるいはマイナスだったと思う。

全国クーポンと偽価格

最近の6ヵ月で私が気付いたトレンドは、クーポン業者が全国クーポンを増やしていることだ。花屋、フォトブック、写真スキャンサービス、カスタムTシャツ、旅行等。しかし、現実はといえば、50%ディスカウントは実際には20~30%のディスカウントにすぎない。この差は偽価格にある。

全国展開企業の多くが、日常的に偽価格を利用している。Macy’sで定価を払ったとすればそれは相当に払いすぎだ(CostcoとNordstromは稀な例外)。偽価格の使い方で特に悪質なのが花屋チェーンのFTDだ。この会社は通常価格から大幅にディスカウントしたプロモーションを頻繁に打つ。ある時私は、マイレージと花の両方を、航空会社からそのマイルだけを買うよりも安く手に入れることができた。

FTDはGrouponでも偽価格を利用していることが発覚した。Grouponを利用するためには、専用のGrouponブランドのFTDサイトに行く必要があった。そのサイトでは、直接FTD.comに行くよりも高く値付けされていた(ちなみにFTD.comは数あるFTDプロモーションのどこよりも高い)。それが発覚するとFTDは、GrouponクーポンをFTDのメインサイト価格に対して適用する、という正しい行動に出た。

旅行もまた、偽価格をフル活用している業界だ。私のお気に入りの例はStarwoodの50%オフギフト券だ。1000ポイントを使って、ホテルの宿泊料が50%オフになるギフト券がもらえる。しかし、基準はホテルの正規料金であり、それはほぼ誰も払ったことのない金額だ。試しに私は、Palace Hotelの明日の宿泊料金を電話で調べてみた。Starwood SPD50プランは299ドル。電話による最低価格は199ドル。私の企業割引価格は169ドル。ネット最低価格は161ドルだった。大した割引である(私はStarwood Hotelが大好きだが、この価格はブランドを傷つけるだけだ)。

全国クーポンを増やしつつ、その一方で衝撃的な収益を維持し、原価を下げようとするやり方には問題がいくつかある。

  • まずこれはクーポン業者の価値提案を損う。Grouponにはかつて、Costcoのようなシンプルさがあった。ここで何かを買えば、必ず得をした。必要なのは、その製品やサービスが欲しいかどうかを決めることだけだった。偽価格のおかげで、得なのかどうかを調べなくてはならなくなった。
  • 全国クーポンには制約も多い。一部のブランドが除外されていたり、セール品には無効だったり、一定期間のみ有効だったりする。旅行なら「空室がある場合に限る」がしょっちゅうだ。独立記念日にミネソタの湖に浮かぶキャビンに泊まりたいって?たぶん2月なら予約できるかもしれない(厚着が必要。零下30度かもしれない)。
  • その規模の大きさから、全国ブランドは価格交渉力が強い。即ちクーポン業者のマージンが減る。

GrouponのIPO申請書には多くのリスクが挙げられている。しかし何といっても最大のリスクは、地域企業が損をして商売するわけにはいかないことに気付き、ユーザーが全国クーポンはお得でも何でもないことに気付くことである。

(日本版編集部注:この記事は米国TechCrunchでは現地時間で6月3日に掲載されました。長文のため翻訳に時間がかかり掲載が遅くなりました。この話題については議論の余地があると思います。ぜひご意見を下記コメント投稿欄にお寄せください)

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(翻訳:Nob Takahashi)