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音楽の祭典MIDEMに登場した音楽系スタートアップを厳選して紹介

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(編集部注)これを寄稿してくれたのは、Orinoco Peatixの共同創始者でチーフ・マーケティング・オフィサーの竹村詠美氏(@tokyopingu)だ。竹村氏は90年後半からインターネットのビジネスに携わっている。OrinocoPeatixではイベント運営とeチケットの管理ができるサービスのPeaTiXに加え、SurveyMonkeyやbitlyの日本のエンタープライズ市場向けのマーケティングを行っている。Socialnomicsの日本語版書籍『つぶやき進化論』(イースト・プレス)共翻訳者、『Facebook ページプロフェッショナルガイド』(毎日コミュニケーションズ)共著者でもある。

MIDEMは75カ国から6900人の参加者が集まる(2012年の結果)、世界最大の音楽業界の見本市の1つです。今回で46回目を迎える伝統のあるMIDEMは、元来レコードレーベルや音楽プロダクションの業界参加者が中心で、音楽の著作権のやりとりをするというのが主眼のコンベンションでした。しかし、音楽のデジタル化が進む中で、業界のビジネスモデルの見直しや、ウェブサービスやテクノロジーの前向きな活用が求められる中、この数年は、音楽系ネットベンチャーのピッチコンテストもプログラムに組み込まれるようになり、SpotifySoundCloudNext Big SoundEchonestなど今注目される音楽系のスタートアップ企業がデビューをするイベントへと進化を遂げて来ています。

この1月28日から1月31日の4日間、世界中の国から音楽レーベルやYoutube、Amazonなどのネット企業のブースに加え、5カ所を使った118のセミナーが行われました。また夜には街中のパブや特設会場でクラシックからヒップホップまで、幅広いライブが行われ、正に24時間音楽の話題で盛り上がる祭典でした。

ピッチコンテストでは、デジタル化で大量の音源がアクセスできる中、ユーザーがいかにキュレーションされたコンテンツを便利で有益な形で入手し、その結果音楽の消費が増えてマネタイズされていくのかという大きなテーマへの解決がさまざまな形で取り組まれていました。そして、この大きな課題に対して3部門に分かれ、それぞれ10企業が争う30社が参加していました。今回はそれぞれの分野の優勝者と、各分野で個人的に注目したサービスを紹介したいと思います。

音楽の発見・レコメンデーション・創作部門(Music Discovery, Recommendation & Creation)

優勝:MPme(Apsmart社):キュレーションラジオアプリ (イギリス)
昨年末12月にiPadバージョンがリリースされて、現在 iPhoneとAndroid版が開発中のMPme.comは、ShazamのiPhoneアプリの創始者、Rahul Powar が始めたスタートアップです。世界中にある5万以上のラジオステーションが放送するリアルタイムのデータに、自分の持つ音楽と、聴く音楽、友達の聴く音楽のデータを掛け合わせることで実現するという、音楽の新しい楽しみ方を提案するサービスです。

現在膨大な音楽コンテンツが日々生まれる中、ユーザー一人一人が好む曲を、ストレス無く楽しめる形で提案してくれるサービスで、バックエンドは複雑であることを想像させない、シンプルで美しいユーザーインターフェイスを備えています。

本部門の他の注目サービスは以下の通り:

Chartnow: ヒットソングにフォーカスしたアプリ (イギリス)
ほとんどの音楽ファンは、ヒットソングで満足をするという仮説のもと、さまざまなジャンルのTop40の曲を毎晩シンクすることで、ネット環境にかかわらず常に最新の曲を聴けるというユーザーに選択の自由を狭めることで利便性の向上を狙った購読型音楽サービス。音楽の他、アーティストのニュースもシンクされる。無料トライアルの後は、毎週1ポンド(約110円)の利用料。

Musicplayr: 無料の楽曲のプレイリストによるディスカバリーサービス (ドイツ)
Musicplayr LogoYoutube、SoundCloud、Vimeo、アーティストページといった無料で楽しめる楽曲のURLをコピーすることで、マイプレイリストが作れるソーシャル音楽サービス。現在プライベートベータのサービスだが、一週間に1000人以上のユーザーが増え、デイリーの利用率も3割近くあるとのこと。

Rexly: プラットフォームを超えた、音楽のソーシャルコミュニティ (アメリカ)
REXLY LogoiTunesやSpotifyなど、複数の視聴プラットフォームがある中、1つのアプリで、プラットフォームに関わらず、友達が聴いている音源を発見したり、自分の好きな曲をリコメンドできたりするサービス。友達の曲にも評価を付けることで、リコメンドされる曲が進化していく。友達ではなく、スーパートラストという彼ら独自のレコメンドのベースラインを持っている点も特徴的。Apple のPingが進化した形と評価する人もいる。

WhoSampled: 世界最大のサンプル音源のデータベース (イギリス)
whosampled logo近年のヒット曲にはサンプルされていることが非常に多いという傾向を踏まえ、過去1000年のあらゆるジャンルの音楽のなかで、サンプリングされている音源をデータベース化したサービス。4万8000アーティスト、12万8000曲が登録されている。ニッチだが、データの価値に希少性が高くB2Bでのビジネスが見込めるサービス。

マーケティング・ソーシャルエンゲージメント部門

優勝:CrowdSurfing by LiveOne: ソーシャルライブ体験をプラグインできるサービス (アメリカ)
ライブ中継を一方通行で提供するのではなく、CrowdSurfingのプラグインを導入することで、ユーザー間でコミュニケーションを取り、ECなどの購入にも結びつけられるサービス。 ライブやスポーツイベントの ライブ中継を1人で楽しむのではなく、場所にとらわれずソーシャルメディアで繋がる友達と一緒に楽しめるようになる。

本部門の他の注目サービスアは以下の通り:

BandApp: 無料でアーティストやDJ、イベント主催者などがモバイルアプリを作成できるサービス。デジタルストアページから楽曲のアップロードも可能。(イギリス)

Webdoc (Vivendi 賞を受賞):
誰でもインタラクティブなページを作れ、ソーシャルに共有できるサービス。SlideshareやTwitterなどのアプリとも連動し、とてもシンプルにコンテンツをマッシュアップして表現できるところが特徴。

OleaPark: イベントの前中後でネットワーキングができるモバイルアプリ。友達とイベント情報を共有し、参加イベントに誰が来るのかを事前に確認したり、プロフィールを見て興味のある人とコミュニケーションをとったりできる。

一般消費者への直接課金・コンテンツの収益化部門(Direct to Consumer Sales & Content Monetisation)

優勝:Wildchord by Ovelin: ギター練習を楽しくする音楽ゲームアプリ (フィンランド)
世界中のギタープレイヤーを増やしたいという夢を持つOvelinが開発したのは、誰でもあきらめずにギターの練習ができる音楽練習アプリ。初月で10万ダウンロードされ、34カ国のAppStoreの音楽カテゴリで1位になっているそうだ。アプリで表示されるコードを上手に演奏すると登場する動物が睡魔にかかってしまうというアプリで、現在1週間で終わるアプリシリーズが5作制作されている。蛇足だが、OvelinはかのAngryBirdを作るRevioと同じオフィスビルとのこと。

本部門の他の注目サービスアは以下の通り:

Bander by Musicsoft Arts: アーティストページをサポートする事で、無料ダウンロードが可能になるファンコミュニティアプリ (アメリカ)
DJ Mixerなどのアプリで累計1000万近くのアプリユーザーを持つMusicsoft Artsの新サービス。既存ユーザーへのクロスセルによる普及を狙う。アプリそのものだけでなく、流通力もあるところが強み。

Cleeng: あらゆるデジタルコンテンツの都度課金を簡単に実現するプラグイン (オランダ)
画像、音源、文章など、コンテンツのタイプに関わらず、簡単に都度課金を実現するサービス。ブログ向けのワードプレスなどのプラグインを利用すれば、5分でコンテンツ課金が実現するとのこと。企業向けのより高度なソリューションもあるそうだ。

Sonicangel: アーティストにフォーカスしたクラウドファンディングプラットフォーム(ベルギー)
sonicangel logo誰もが参加できる通常のクラウドファンディングとは違い、彼らのA&Rチームがスカウトもしくはウェブのオーディションで認可したアーティストが活動している。現在はベルギー中心だが、クオリティを担保する事で95パーセントのファンディング率と、ヒット曲を産み出す仕組みを作り出そうとしている。

今回の4日間を通して繰り返し語られた今後の音楽業界の潮流の中で、今後日本でも重要性が増すと考える点は以下の3点だと思う 。

1)音楽サービスベンチャーと、レーベルの歩み寄りが進み、ユーザー志向のウェブサービスが躍進を遂げていく。

アメリカでは昨年デジタル音楽の売り上げがCDの売り上げを超え、デジタル化の波は抑えるのではなく如何にユーザーの支持を得ながら合法なデジタルサービスを伸ばすべきかを考える時になっていると言えます。そういった中、レーベルなど既存の音楽業界のプレイヤーが、ネットベンチャーの付加価値を前向きに受け止め、違法でない形で音楽の消費を促すサービスに対して非常に積極的な姿勢を見せ始めている様子がうかがえました。

2)音楽ビジネスでの新たな収入源・ビジネスモデルとして、ブランドの貢献が非常に期待されている。

コカコーラなどのブランドが、ユーザーとのコミュニケーションやブランディングの新しい形として音楽に注目をし、新しい投資をすることで新しい音楽の制作やアーティストの活躍の場がうまれています。特にコカコーラは、昨夏Music Dealersというブランドとアーティストのマーケットプレイスの企業に投資をしており、今後さらなるスタートアップへ投資を含め、積極的に音楽コンテンツに投資をすると発表がありました。今年だけでも2億ドルを音楽関連に投資するのだそうです。ロンドンオリンピックに向けて同社のテーマソングの制作を始め、コカコーラが積極的に音楽の制作・流通プロセスにも関与していることがわかります。

Move to the Beat: ロンドンオリンピックのコカコーラテーマソング制作メイキング

3)時代が転換点に到達していることで、新しいチャンスも生まれている。

アーティスト側の収入モデルも多様化しており、インディペンデントアーティストが、自らマーケティング活動に取り組む事で、作品がより広く広まるという成功事例が生まれています。またDtoF(Direct to Fan)マーケティングに関する教育に力を注ぐ音楽学校も増えアーティストのビジネススキルアップに貢献して います。

MIDEMのような業界イベントとのコラボの場で行われるピッチコンテストは、テクノロジー業界だけではなく、パートナーや顧客となり得る業界の主要メンバーが集まる事も参加者への大きな魅力となっています。来年度は日本の音楽系ウェブサービスもMIDEM から世界に羽ばたいていくのを期待したいです。