Eコマースを巡る次の革命的発展は利用者次第?!

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AmazonEコマースにはパーソナルなレコメンド機能が欠かせない。しかし、10年前にAmazonがプロダクト販売の場面に「パーソナライズ」の概念を持ち込んで以来、この面における進化というのはほとんどないという状況かもしれない。但しEコマースで利用できるデータは一層膨大なものとなっており、まさに今、新たな「パーソナライズ」時代へとジャンプする直前期にあるのではないかと思われる。

現状は確かに、Amazonで導入した「パーソナライズ」の仕組みからほとんど進化していないのが実際のところだ。たとえば自分が買ったのと同じ物を買った人が、他に何を購入したかという情報が提示される。あるいは購入したものの類似品などもお薦めされるようになっていることが多い。しかし今やソーシャルデータが大量に流布している時代であり、小売店側からしてみれば、売上をさらに伸ばすために各種情報を探しだしてそれを活用することができるようになりつつある。

Kleiner PerkinsのパートナーであるAileen Leeも同様のことを言っている。すなわち「将来的には、小売店側が消費者について知っている情報は格段に増えるはずです。そしてその情報をもとに、より消費者の欲しがるものを提示してくるようになります」。ちなみにLeeはOffermatic、One Kings Lane、Plum District、Rent the Runway、およびTrendyolなどに投資家を引っ張ってきた経歴を持っている。またGapやNorth Faceではサービス運用についての助言等も行なっている人物だ。

Leeは「私たちは電子商取引の革命前夜とでも言う段階にいるのだと思うのです。電子商取引サイトは、購入に関するエクスペリエンス(経験、体験)を一層個人に特化した形式で提供できるようになっていくでしょう」とも述べている。

「エクスペリエンスのパーソナライズというのは、10年前のAmazonにても大きな役割を果たし、そのおかげもあってAmazonは優位に立つことができたのです」と、RichRelevanceのCEO兼共同ファウンダーであるDavid Selingerも述べている。このSelingerはAmazonでConsumer Behavior Research部門のManager職にあったこともあり、Amazonにおける「パーソナライズ」の実現にいろいろと寄与している。「Eコマースにおいてはパーソナライズこそが差別化の基本要素であり、とくにオンラインで幅広い商品を扱おうとする企業にとって、見逃してはならないポイントです」とも話していた。

「パーソナライズ」の第一世代においては、AmazonとNetflixが時代を先行したと言って良いだろう。これからは、データマイニング手法も一層発展し、そこから売上や商品クリック率を大いに伸ばしていくという、新たなる「パーソナライズ」時代に入っていくのだと思われる。

読者の方も、これまでAmazonやNetflixでの購買履歴ないし他の消費者の購買行動に基づいて表示されるおすすめ本や映画などのプロダクトを、ついクリックしたことがおありだろう。両者ではおすすめ商品のクリック率が相当の高率になっているようだ。「パーソナライズ」に基づくレコメンド機能があまりに自然な形で実装されおり、買い物する際にはすっかり自分の意志のみで買い物をしているように思ってしまうほどだ。

もちろん、他の小売系サイトでも「パーソナライズ」機能は大いに導入されている。たとえばeBayもマーケットプレイス商品について、同時に閲覧されたり購入されたりすることの多い関連製品などをレコメンドしているし、PayPalを利用した「パーソナライズ」強化策も練っている。また、昨年末にはHunchも買収し、データマイニングにも注力しているところだ。

また最近はGilt Groupeからも、ショッピングサイトで買い物候補リストに入れたイヤリングと同じようなものをすすめるメールがくるようになった。この件についてGiltは取材に応じてくれなかったが、どうやら今後の商品販売において、「パーソナライズ」こそがキー戦略になるということを強く意識して強化を図っているようだ。そしてSaks Fifth Avenueなどのリアル店舗も、「パーソナライズ」したメール配信を行い始めている。

「パーソナライズ」実現に向けての問題点

「パーソナライズ」ということが今後もたらすであろうチャンスを考えるにあたって、まず「パーソナライズ」の実現に向けて問題となることをきちんと理解していくことが大切だ。たとえばGreylock PartnersでData Scientist in Residenceを務めるDJ Patilは次のように述べている。すなわち「Nordstromのような実店鋪に出向けば、顧客の買い物を手伝ってくれるショッピングアシスタントがいて、客のどのような要望にもすぐに回答してくれる。オンラインの小売サイトでのサービスは、まだまだこうしたレベルにはったしていない」。

また、小売サービスを展開するサイトにとって、個々人の購入行動をサポートするために十分なデータを集めることがそもそも困難だろう。購入者のほとんどは、特定のサイトを訪問して買い物をするのは数カ月に一度か、あるいはそれよりも少ないくらいの頻度だ。このような顧客に対しては、なかなか同時購入用の製品などの提案もしにくいのが実際の所だろう。

こうしたデータ不足こそが、オンライン販売運営企業にとって最も深刻な問題となり得る。しかし、大勢についてのデータはなくとも、頻繁にサイトを訪問して購入していくような上得意の顧客については多くの情報を持っているはずだ。どの商品をクリックしたのか、購入履歴がどうなっているのか、ショッピングカートに入っているものは何か、共有したり「いいね」をクリックしているのはどのような商品に対してなのかという情報が手元にあるはずだ。データ入手についてと同様、所有しているデータをどのように蓄積して活用していくのか、どう「パーソナライズ」したレコメンデーションに役立てるのかを考えていく必要がある。

またデータの集め方にも工夫が必要だ。利用者がページのどこをクリックしてどのような経路をたどったかというようなことから自然に集まってくるデータもある。またサイト上で行われる調査や質問事項に回答してもらうことによって得られる直接的なデータもある。これまで、商取引サイトでは自然に集まってくるデータをどう活用するかに注力してきたように思う。その分、直接的なデータをどう集めるのか、それをどう活用するのかについてはあまり考えられていないように思うのだ。

ここに目をつけたのがGoogleの始めたBoutiques.comであったと言えよう。検索エンジンを運営していることも強みに、利用者が事前に指定した「好み」以外にもさまざまな情報を集約して洋服やアクセサリーのレコメンドができるようにしていた。しかし昨年9月、Googleはこのサービスを停止してしまった。

ちなみに「直接的」なデータ収集といっても、利用者にアンケートを依頼してブランドや色、スタイルなどの好みを尋ねれば良いというわけではない。Patil曰く、こうした情報収集は「対話」の中で行われるべきものだとのこと。医者の問診のように、あれこれと問いただして回答を得るというスタイルは好ましくないようだ。

但し、利用者からこうした情報を集めることができるようなUIやフローを構築するのは難しいことであるとも述べている。実店舗の主人や店員が、誕生日のプレゼントに何か面白そうなものを探している人を相手に対話するような仕組みを目指すべきだというアドバイスをしている。たとえば、何かお薦めの商品を提示してみて、それを気に入ったかどうか、あるいは他にどういうものが良いのかを問いかけるようにすれば良いとのこと(Pandoraではこうした工夫がなされている)。Patil曰く「利用者は積極的に修正情報を与えてくれて、有益な提案ができるまで付き合ってくれるものですよ」とのこと。

こうして関係を築くことができれば、利用者側もどんどん情報を提供してさらなる「パーソナライズ」を行うというPandora風好循環を生み出すこともできるようになる。

利用者の好みのものを提示することと、セレンディピティの要素を与えることのバランスもまた難しい問題だ。小売店として利用者にサプライズも提供したいと考えるものだろう。しかし個人の嗜好にぴったりのものを提示していけば、そこから驚きの要素は排除されてしまうことになる。小売サイトとしては、消費者が欲しいと考えるものを揃えることが大事なのはもちろんのことだが、サイト利用者が「発見した」と感じられるような製品も揃えておく必要がある。

Patilは食品雑貨店における、利用者の求めに応じつつ、セレンディピティ的要素を配列するアイデアについて説明している。「スーパーマーケットではミルクを購入する人が多いのです。したがってミルクをあえて店の一番奥に配置し、途中で目的のもの以外にもさまざまなものと“出会う”ように仕組むことがよくあります。オンラインショップでも同じような仕組みを考えてみるべきではないでしょうか」。利用者にとって予想外のことまでをも、ショップ側としては「パーソナライズ」して商品提案を行うことができれば素晴らしい。

また、収集した膨大なデータを適切に分類するのもなかなか難しいことではある。しかしSelingerが言うように、ここできちんとした分類ができるかどうかで小売サイトの売上は大きく左右されることになる。こうしたデータ処理をきちんと行うことのできる技術者にはなかなか出会えないし、また幸運な出会いがあったとしても非常に高価であることも多い。これも「パーソナライズ」に向けた「問題点」と言えるかもしれない。

ソーシャルデータの今後

今後、ソーシャルデータ(Facebookでの「いいね!」や、FacebookないしTwitterを通じた友人へのレコメンド)が今以上に大事になっていくだろう。現在でも、多くの小売サイトがFacebookのプラグインを活用しているし、友人が購入したりシェアしたり、あるいは「いいね!」と評価した製品データなどを活用するために、Facebook Connectの機能を利用している。

問題は、こうして「ソーシャル」から得られるデータというのはたいてい構造化されておらず、またAmazonが購入履歴データを活用して成し遂げたような成功体験を、まだ誰も成し遂げていないという点にある。Blippyが購買行動のソーシャル化を試みはしたが、結局失敗に終わった。AmazonもFacebookと繋げて友だちのLikeなどお気に入り情報と連携できるようにしてはいるが、UIも洗練されておらず、またさほど役立つような仕組みにもなっていない。

SelingerはEコマースにソーシャルデータを活用しようというアイデアは、実際的な成果を上げる前に流行らなくなってしまうのではないかとも考えている。というのもかつて電子メールについても同じようなことがあったからだ。「一時期、電子メールとEコマースを結びつけようというアイデアを持ってVCを訪問すれば、即座に追い出されてしまうような時期もありました」とのこと。ソーシャルデータには、間違いなく企業が活躍することのできる種々の価値が埋もれているが、これを活用できるようになるまでは相当の時間がかかるかもしれないとSelingerは言っている。つまりメールとEコマースが連携するようになるにも、相当の期間が必要だった。「いかに為すべきかを発見して、そして成功をおさめる企業が出てくれば、あとはそこに追随する企業が多数出てくることでしょう」とのこと。

小売サービス提供者にとって、まず考えるべきはFacebookのニュースフィードを活用することだと言えるかもしれない。レコメンド情報、商品情報などをフィードに流すことで、買い物をする人に有益な、「パーソナライズ」した情報を提供できるようになる。ソーシャルネットワークそのものに、情報を流すフィルタリング機能なども果たしてもらうという発想だ。

またPatilはデータマイニングの際の困難についても言及している。曰く、製品やブランドについてFacebookni投稿された非構造化データから、製品に対する好悪の感情を読み取らなくてはならない。また分析対象となるデータがすべて公開情報でないことにも注意を要する。

こうした側面については新しい動きもある。1月半ば、Facebookは60のサービスと提携して、各サービスの提供するアプリケーションが、「タイムライン」に記事を掲載できるようにした。サービスの種類はフード、ファッションなどから旅行関連までと多岐に渡る。また「いいね!」以外にもタイムラインに追加するアクションを導入している。「bought」(買った)や「want」(欲しい)などがその一例だ。

これまでのように、広すぎる文脈で利用されてきた「いいね!」を利用するよりも、「bought」や「want」の語があった方が開発者としても販売業者としてもデータの活用が行い易い。ソーシャルショッピングモールのPayvmentが、この新しい仕組を利用してどのようなことを行なっているのか、こちらの記事が非常に参考になる。リンク先にはいろいろと詳細事項についても書いてあるが、要するに、必要とするアクションを自分たちで定義できるようになって、Eコマースにおけるソーシャルディスカバリーのあり方が全く変わってしまったのだということが書いてある。

プライバシー問題

Lee同様に、Patilも「パーソナライズ」とEコマースの世界に新しい動きがもたらされるに違いないと考えている。しかし活用すべきデータがなければ「パーソナライズ」もあり得ない。したがってFacebookや小売サイトなどから買い物をする人は、購入履歴や「いいね!」履歴、あるいはその他のソーシャルデータ、加えて位置情報なども売り手側に伝えてやる必要が出てくるだろうと述べている。

購入者側がこうしたデータを渡すようになるかどうかは、販売者側がデータを有効に使っているかどうかというのが判断基準になるだろう。もちろん仕組みはオプトイン形式であるのが当然だ。

Selingerも、「パーソナライズ」の世界でのイノベーションについてはプライバシーが大きな問題になると述べている。Selinger曰く、消費者側のプライバシー意識は以前に増して高まってはいる。しかし販売側は購入者のファイナンシャルデータやクレジットカードデータを扱うのであり、売り手側には一層のプライバシー意識が必要であるとしている。プライバシーとデータ共有のバランスの上で、どのような方向に進んでいくのかを常に意識しておくことが必要なのだそうだ。

BlippyやBoutiques.comは若干時代に先んじてしまい、消費者が購入履歴データや支払いデータなどを渡すことなどとんでもないという時期に登場してしまったのかもしれない。しかしメールデータを取得して、すべての購入履歴を蓄積するようなアプリケーションは出てくるであろうし、そうしたデータに基づいてレコメンドを行うようになってくるだろう。メールを読み取って、そこから購入データを取得するアプリケーションは既に存在する。そうしたアプリケーションは今後も進化していくに違いないのだ。

また、Eコマースサイトに広がりつつある「パーソナライズ」戦略は、既に他種サイトにも広がりつつある。Eコマースサイトがソーシャルデータを用いて売上や利益を最大化しようとするのと同様、コンテンツサイトもソーシャルデータ等を用いて、興味を持つ利用者を惹きつけようとしているのだ。

ショッピングサイト利用者は、運営者側に多くのデータを与えることに慣れる必要があるのかもしれない。今年中にもさまざまなショッピングサイトで、データを投入すればするほど面白い発見をもたらせてくれるようになりそうだ。ソーシャルデータなどの活用を疎かにするEコマースサイトは、「パーソナライズ」の面で進化する新時代のAmazonやNetflixの後塵を拝し、そして消え去っていくことになるのだろう。

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(翻訳:Maeda, H)