スタートアップは行動科学を学べ―習慣は第2のバイラルだ

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編集部: この記事は起業家でベイエリアの多数のインキュベータでアドバイザーを務めるNir Eyalの寄稿。Nirは自身のブログ、nirandfar.comでテクノロジーと行動科学について書いている。

率直に認めたまえ。諸君は習慣の虜だ。

どうしても携帯でメールをチェックせずにはいられない。数分でいいからFacebookやTwitterを訪問したいという欲望を抑えることができない―そして1時間経っても憑かれたようにスクロールを繰り返している。もし私がこれこれの本は有益だから読むべきだと推薦したとすると、諸君の頭の中には、まるで照明にスイッチが入ったかのように、ぱっとAmazonという文字が浮かんだはずだ。「習慣」とは自動的に繰り返される行動だ。テクノロジーは諸君の頭にさまざまな形で強固な習慣を植えつける。

情報がますます洪水のように溢れかえるオンライン世界で習慣はきわめて大きな役割を果たすようになってきた。いろいろなウェブ上のビジネスの経済的価値はユーザーの行動習慣に依存するところが多い。習慣はいろいろな形でスタートアップの成功と失敗を分ける。

習慣をキャッシュに転換する

はるか以前、Web 1.0時代にオンライン・メディアが初めて登場して以来、ウェブ企業はユーザーの行動に基づいて収益を上げてきた。しかし初期のオンライン企業、AOLやYahoo!はユーザーのアテンション〔注意が持続する時間〕を広告表示回数という形で広告主に販売した。 Web 1.0企業は自らの価値をページビューやCPMといった数値だけで量り、ユーザーの習慣の強度には無頓着だった。こうした企業はダイアルアップ接続の黎明期にあってユーザー数が順調に増加していることにまったく満足していた。

自己満足に浸っていたWeb 1.0企業は続いて登場したソーシャル企業からの挑戦に対して脆弱だった。Facebook、YouTube、Twitterなどは訪問行動を習慣化するためにさまざまな手法を用い、ユーザーベースの強化に務めた。いったんユーザーベースが臨界量(クリティカル・マス)に達すると、こうしたソーシャル・メディアはユーザーの行動を販売し始めた。しかしWeb1.0企業の場合とは異なり、ソーシャル・メディアの習慣化の力は大きく、ユーザーは自らの属性情報をソーシャル・メディアが広告に利用することを喜んで許可した。これによってソーシャル・メディアの利益は率、額共に急上昇した。

バイラルは役立つ―しかし習慣化は必須だ

現在はウェブは全面的なキュレーション化の入り口にいる。膨大なオンライン上の雑音にさらされているユーザーの注意を惹きつけ、新たにユーザーにすることはますます困難になっている。

金を払って広告しても投資に見あうような数のユーザーを獲得するのは困難だ。バイラル〔クチコミ〕も依然それなりの効果は発揮しているものの、ユーザーはソーシャル・アプリを通じた「友だち」からのしつこい勧誘メールのたぐいにうんざりし始めている。Facebook、Apple、Androidなどのプラットフォームはユーザーからスパムの苦情に対して次第に敏感に反応するようになっており、バイラルな勧誘もプラットフォーム側から厳しく規制されるようになった。

バイラルに頼りすぎるのはビジネス戦略としてすでに不適当だ。シリコンバレーは「穴の空いたバケツ」戦略で失敗した企業の例で溢れている。こうした企業はアグレッシブなバイラルで急成長するものの、結局大勢のユーザーをうるさがらせ、反発を受けて結局は閉鎖の憂き目をみる。もちろんこれは純然たるスパム企業ばかりではなく、一定の価値を提供する企業も含まれる。しかし習慣化に失敗した点では変わりない。

〔日本版:上図の縦軸はバイラルの強さ、横軸は習慣性の強さを表す。左上はスパム性の高い「穴あきバケツ」、左下はバイラルも習慣性もない「ゴミ」。右上は「宇宙ロケット」、右下が「コミットメント・ビジネス」と分類されている。〕

バイラルな成長のメカニズムに習慣化も組み込まれていれば理想的だ―それがこの図で私が「宇宙ロケット〕と名付けた種類のビジネス―Facebook、PayPal、Pinterestなどだ。しかし、バイラルな成長のメカニズムを欠いていても、習慣化に成功し、巨大化するビジネスも確実に存在する。私はEvernote、Amazon、Pandoraなどの例をコミットメント・ビジネスと呼びたい。ユーザーはこれらのサービスに慣れれば慣れるほど利用頻度が高くなっていく。Evernoteの利用頻度グラフはユーザーを習慣付けることによってコミットメント・ビジネスが成立するという例を非常に雄弁に物語っている。当初Evenoteの投資家は成長速度が遅いことに不満を感じていた。しかしEvernoteは短期的なユーザー数獲得を追い求めることなく、長期的なユーザーの習慣作りに焦点を合わせる戦略に賭けた。その忍耐は報われたというべきだろう。PandoraやAmazonも成長速度よりコミットメントを優先させて成功した例だ。

習慣づけられたキュレーション

ソーシャル・ビジネスは経験を積む中でユーザー習慣の形成に熟練してくる。最近のキュレーション・サービス企業はこの手法を活用して成功を収めている。キュレーション・サービスは、ユーザーが関心を持つ分野に関連する情報を効果的に発見、共有できるようにする。爆発的な人気を集めているPinterestやTumblrなどがその例だ。これらのサービスのDNAには習慣化がしっかりと刻み込まれている。なぜならキュレーション・サービスの核心をなすデータの収集にあたっては、それぞれのユーザーがどんな情報を欲しているかを正確に分析、把握できなければならないからだ。

キュレーション・サービスの精度を向上させるためには、ユーザーが頻繁に「どんな情報を探しているのか」をシステムに知らせる必要がある。ユーザーがサービスをたまにしか訪れない場合、満足度は低いままに終わる。逆にユーザーがサービスを訪れる頻度が上がれば上がるほど、サービスがユーザーの志向について得られる情報は増え、それだけユーザー体験を向上させることが可能になる。このプラスのフィードバックサイクルは上で論じたどれにも増して強力な習慣化の要因となる。

画像: My Lot

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+