Nir Eyal
Desire
Addictiveness

「願望創出エンジン」の仕組みと実際(常習的ユーザの作り方)

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モバイル版Facebookで「いいね!」がワンタッチになった

Nir Eyal2編集部注本記事はNir Eyalの寄稿によるもの。氏は2つのスタートアップのファウンダーであり、またベイエリア地域における多くの企業のアドバイザーでありまたインキュベーターでもある。nirandfar.comにて、テクノロジーと行動科学に関するブログも展開している。

人気のある消費者向けウェブサービスの名前を検索ボックスに入力して、そこに「addict」(依存症、中毒などの意味)という語を付け加えてみてほしい。そして検索をしてみて欲しいのだ。どうか実際にやってみて欲しい。「Facebook addict」でも良いし「Zynga addict」で良い。最近の流行りを意識するのなら「Pinterest addict」と入れてみても良いだろう。熱狂的な利用者や、そうしたサービスを利用する中毒患者のような人を揶揄するようなページがいくつも表示されることだろう。こうしたサービスは、あまたある他のサービスといったい何が異なるのだろう。利用者の心までコントロールするような仕組みはどうして生み出しているのだろう。これらのサービスがかくまでに常習者を生み出している理由を探り、そしてこうしたサービスが今後のウェブサービスに与える影響というものを探ってみたい。

まず、現在がウェブ新時代の幕開けの時期にあるということは、多くの人の賛同を得られるのではないかと思う。人々の注意を引き付けるための競争を通じて、サイト運営者側は人々の心や生活に「関与し続ける」技法を学んできている。そう、何100万もの人々の注目を集めるだけでは十分ではないと考えられるようになってきているのだ。自らの産み出す「習慣」の強固さによって経済価値が決まってくるということに、企業は気づきつつある。もちろんここに気づいて新たな動きを始めている企業もあれば、今まさに新たなスタイルに気付きつつあるところという企業もある。

利用者が理由なく想起するサービスを(FIRST-TO-MIND WINS)

利用者の「習慣」にまでなったサービスは、さまざまな利益を生み出すようになる。こうしたサービスは利用者に「内的動機」(internal trigger)を形成させているのだ。つまり外部からの刺激を何ら受けることがなくてもサービスを利用しにやってくる。つまり高価なマーケティングや、他との差別化などを行う必要もない。「習慣化」に成功したサービスは利用者の日常行動や感情の動きに組み込まれるようになる。そして利用者は「自発的動機」(self trigger)によってサービスを利用するようになるのだ。動機が条件付けされることにより、たとえば「退屈だな」と感じた瞬間にFacebookをのぞいてみようかと心が動くようになる。あるいは「いったい今、何が起こっているんだろう」と考えると自然にTwitterを見て情報収集をするような行動に走る。利用者の中に何らかの感情の動きが生じた際、まず心に浮かぶサービスが大きな成功をおさめることになる。

願望創出(MANUFACTURING DESIRE)

習慣化に繋がる「内的動機」を形成させるにはどのようにすれば良いのだろうか。そのためには「欲望のデザイン」とでも言うべきものが必要となる。ドラマ「マッドメン」を見ていた方は、マディソン街華やかなりし頃、いかに広告業界が「欲望のデザイン」を成し遂げたか、よくご存知かもしれない。むろん、そんな時代は遠く過去のものとなってはいる。消費者が賢くなり、広告にも疑問の目を向けるようになった。ROIの観点からも旧来のやり方が見合わないものとなり、Don Draper風消費者洗脳作戦は、相当の大手企業にとってしか見合わないものとなり果てている。その代わりにさまざまな企業は、利用者の「習慣」を形成させるためのエクスペリエンスをデザインして、「願望創出」に注力しているのだ。個人的には習慣化を促すこの仕組を「願望創出エンジン」(desire engine)と呼んでいる。利用者はエンジンに促された体験を繰り返すほどに、「内的動機」を一層強固なものとしていく傾向にある。

「願望創出エンジン」の概念を提出したのは、習慣形成技術をよりよく理解して頂くためだ。ビデオゲーム業界や、ネット向け広告業界にいたときに得た知見を元にしている。「願望創出エンジン」の概念は他の分野にも見られるものだが、ここではコンシューマ向けインターネットサービスについて見ていこうと思う。

動機(TRIGGER)

「動機」というのは、人の「行動」を生み出すきっかけとなるものだ。エンジンで言えばスパークプラグにあたる。そしてこの「動機」には「外的」なものと「内的」なものがある。習慣形成技術はまず、メールやリンク、格好良いアイコンなどのような「外的」なものからスタートする。利用者はこの外的動機に誘われて「願望創出エンジン」の動きに何度も巻き込まれ、そして「内的動機」を形成するにいたる。利用者の一般的な行動や感情の動きがそのまま「内的動機」に結びつくようになる。そしてこの「内的動機」がルーチン化され、ここに「習慣」が生まれることになる。

たとえば、ペンシルバニアに住むBarbraがFacebookのニュースフィードで、家族の撮影した街外れの写真を見たとしよう。兄弟のJohnnyと郊外へのピクニックを予定していたこともあり、彼女はこの写真によって大いに心動かされることになる。

行動(ACTION)

刺激を受けることによって、行動が生じる。ここでサービス提供者は、行動に繋がる2つの滑車をうまく利用しようとする。その2つとは動機とアビリティーだ。人に特定の行動をとらせるために、まずは行動自体が簡単なものである必要がある。またその行動をとろうとする動機を与える必要もある。「願望創出エンジン」は、ユーザビリティデザインの知見を駆使して、利用者がまさに望んだ行動をとるように入念にデザインするわけだ。

再度バーバラの例で考えよう。ニュースフィードに現れた面白そうな写真をクリックすることで、これまで訪問したことのないPinterestというサイトにジャンプすることになる。意図された通りの行動をすることで(この場合は写真のクリックを指す)、彼女は次にはどのような面白いものを見ることができるのかと、新たな期待を胸に抱くようになるわけだ。

可変的報償の導入(VARIABLE REWARD)

「願望創出エンジン」と、単純なフィードバックループの違いは、利用者の中に新たな期待を生み出すかどうかにある。フィードバックループも、特定の入力がある結果に繋がっていることを言う。しかしここでは入力と結果の結びつきは機械的なものであり、そこから「願望」が生じることはない。冷蔵庫のドアを開ければ庫内電気がつくからといって、何度も何度も冷蔵庫をあけてみようという願望は生まれないのだ。しかしここに時により異なる報償システムを導入することで、すなわち冷蔵庫を開けるたびに何か異なる結果が生まれるとすると、ここに願望が生まれてくる。スキナー箱の中のネズミのように、何度も何度もドアを開けるようになるのだ。

こうした報償の可変性というのは、利用者の心を引き付けるのによく使われる手法だ。調査でも明らかなように、報償を期待するときに、ドーパミンが活性化される。そして報償分配に可変性を与えることで、この活性化効果を高めることができるのだ。意欲や欲求に関わる神経を刺激することで、脳内で合理的判断を下すための部位が活性化する。昔からスロットマシーンや富くじの例で説明される現象だが、「習慣化」技術の中でも利用されている方式だ。

バーバラはPinterestにたどり着いている。彼女がそこで見るのは自ら進んでクリックした画像だけではない。そこには他にも面白そうなものがたくさん表示されているのを見ることになる。基本的にはペンシルバニア郊外の面白そうなものが集められている。しかしそれだけでなく、つい興味を惹かれてしまうものが他にもある。予測可能な範囲のものと意外なもの、興味をかきたてるものとそうでもないもの、美しいものとふつうのものなどが並置されることにより、ドーパミンが活性化され、報償に対する期待感が生まれることとなる。彼女はPinterestに夢中となり、驚きにみちた発見を探し求めることになる。ふと気づけば45分間もサイト内を徘徊することになる。

利用者の関与(COMMITMENT)

「願望創出エンジン」の最終段階では、利用者自身による行動が求められることとなる。そしてこの段階には2つの目的がある。まずは次に動機に遭遇したときも、この「願望創出エンジン」を回そうとするように、深く動機付けておくことだ。もうひとつある。前フェーズで報償を受け取りドーパミン漬けになっている脳に対して、今がまさにちょっとした依頼を投げかけるタイミングであるのだ。利用者に時間、データ、ちょっとした労力、ソーシャルな繋がりに新たなサービスを加えること、あるいは対価を支払うことなどを要求することで、利用者の関与が生まれる。

但し、セールスファネルの場合とは異なり、購入者が財布を開いてここでひとまず終了という目的段階になるわけではない。利用者はこの「願望送出エンジン」に関与することにより、サービス自体を一層便利なものへと変えていくことになる。たとえば友人を誘ってみたり、各種詳細情報をシステムに入力したり、あるいはシステム上にバーチャルな資産を構築したりするようになる。また新たな利用方法をマスターしたりすることにより、このサービスが利用者にとってさらに使いやすいものとなっていく。すなわちいったん関与させることに成功したなら、そこからさらに利用者の動機付けを強固なものとして、サービスを利用することへと行動を駆り立てることができるようになる。各フェーズに可変的報償を組み込むことにより、利用者はさらに熱狂的利用者へと育っていくことになる。

例に出ているバーバラについていえば、いくつでも面白い写真が見つかるPinterestにすっかり夢中になる。そして、面白い物はいつでも見られるようにしておこうという段階に入るわけだ。興味深く感じたものをどんどん集めていくことにより、そしてその関与行動自体がシステムにデータを供給することになる。バーバラはさらに誰かのPinterestをフォローしたり、re-pinなどをもするようになる。そうしてサービスへの関与を一層高め、願望創出エンジンの働きでさらに次のステップに送り込まれることになるのだ。

依存症要因(SUPER POWER)

「悪いことに繋がるのでなければ、依存症という言葉を用いる必要もないと思うのです」と言う人がいる。もちろんそれは正しい。しかし「習慣化」形成のステップはまさに人を依存症にもなし得るものだ。正しく活用するならば、面白くて健康的なルーチンに人々を誘い込んで、人生に寄与するすばらしいものとして動作もし得る。しかし悪意を持って活用するならば、直ちに習慣化した悪癖に繋げるようなことも可能なのだ。

但し、もはや「習慣化」の良し悪しを語る段階ではない。今ではさまざまなデバイスからインターネットが利用できるようになっており、それはすなわち、サービス提供者の側が私たちの情報を得るのが簡単になったということも意味する。データの収集と処理能力が向上して、その能力を十分に活用するならば全てが中毒的となる未来に繋がることになるのかもしれない。アクセスの容易性、データの膨大さ、そして処理速度向上というものがあいまって、これまで以上に利用者を惹きつけるための習慣化エンジンを構築することが容易になっているのだ。サービス提供者側には、この「願望創出エンジン」を十分に制御して、人々の生活に役立つ方向で活用することが求められている。一方で消費者の側も、単純に「操作」されてしまうことのないよう、行動制御の仕組みなどをしっかり理解して行動する必要がある。

「願望創出エンジン」はすでに私たちの身の回りに数多く存在する。自分の人生に関与する形でもエンジンが回っている。読者の方々は既にお気づきだろうか。

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(翻訳:Maeda, H)