オープンソースのCEO: Red HatのJim Whitehurstインタビュー

次の記事

スタートアップ諸君、15秒で答える練習を―Y Combinatorの面接で聞かれる質問はこれだ! 

JimWhitehurst-01

Red HatのWebサイトには、オープンソース協力的開発などに対する会社の姿勢を説明しているページがある。それは一見、どの会社のサイトにもあるマーケティング的な決まり文句のようにも読める。でも、Red Hatの場合はやや違う。同社はまさに日々、オープンソースによる協力的開発を主業務として実践しているのだ。

最近Red HatのCEO Jim Whitehurstに、Red Hatにおけるオープンソース文化について話を聞く機会があった。そのとき彼は言った、それは目的地ではなく旅そのものである、と。Whitehurstによると、オープンソースの思想はRed Hatの企業文化のあらゆる面に浸透している。

Whitehurstはインタビューの冒頭で、最近の18か月はRed Hatの転換点だった、と述べた。彼によれば、オープンソースが信頼と信用を勝ち取るための、長年の厳しい戦いがやっと終わり、顧客との最近の会話はパフォーマンスよりも価格が主な話題になる。また、Red Hatがエンタプライズマーケットプレースのプレーヤーとして、その能力を危ぶまれることは、もはやない。

Red Hatは売上が10億ドルを突破という偉業を成し遂げたが、おそらくそれは、完全にオープンソースの企業としては初めてのことだ。しかし一部には、Red Hatは純粋にオープンソースではないという異議もある。Red Hatは本当に、オープンソースの10億ドル企業なのか、それともサポートとサービスを提供する10億ドル企業なのか? この問いに対してWhitehurstはただちに、“うちはソフトウェアを売っている”、と答えた。

個々のソフトウェア製品を売るというよりもむしろ、Red Hatが売っているものは同社のソフトウェアへの会員権のようなものだ。Red Hatのソースコードは無料で入手可能だが、会員権に含まれるコンパイル後のビット集合は有料だ。Whitehurstによると、Red Hatから買うものは、厳しく試験され、品質が実証され、そして完全にサポートされるソフトウェアだ。

彼によると、Red Hatのエンタプライズソフトウェアの長期サポートにかかる費用は会社の全経費の6%を占める。Whitehurstは曰く、同社は“大量のエンジニアを雇用して、向こう10年間の互換性を維持している”。ただし、新しいソリューションの開発に投じる費用は、これよりもさらに多い。

それでは、オープンソース文化が企業としてのRed Hatにどんな影響を及ぼしているのか? とりわけ、オープンソースの思想、考え方、原則などがマネージメントにどう影響しているのか? ぼく個人的には、この質問が今回のインタビューのいちばん重要な部分だと思える。

Whitehurstは答えて曰く: “これまでの階層的な組織構造は、固定資産(資本的資産)をコントロールし管理するために発展してきた。しかし階層的組織構造はイノベーションに向いていない。主製品が情報である企業では、階層はそれを駆動する最良の方法ではない”。

彼が語るエピソードの一つは、CEOに成り立てのころの経験だ。彼は就任早々、会社の使命宣言が弱いと感じた。従来的な経営畑の出身である彼は、そういうときに世界中のどんなCEOでもやりそうなことを、まずやった。どこかの保養施設に幹部社員全員を集め、プロのコンサルタントにその場を仕切らせて、新しい使命宣言を起草した。この新しい宣言を、次は全社員に伝えるのだ。

しかしそのとき幹部社員たちは彼に、“ちょっと待って、頑張り屋さん。社内の合意が必要だよ”、と言った。そこで社内的なコラボレーションサイトが作られ、メーリングリストやwikiやブログを利用して、使命宣言に積極的な関心のある社員全員による議論が始まった。そういう議論のインフラができてから以降は、活動はほぼ自動的に進み、結果的に15〜20名の検討委員会のようなものが形成された。Whitehurstはその過程を、“磨いて、磨いて、また磨くの繰り返しだった”、と表現する。

このボトムアップ手法で彼がとくにおもしろいと感じたのは、会社のあらゆる部分からの参加が見られたことだ。コードを書いているデベロッパだけでなく、アーチストやデザイナー、UI/UXのエキスパートなど、いろんな人たちが議論に加わった。そうやってできあがった使命宣言は、いわば全社的合意の結晶である。経営陣が社員に“売り込む”という性質のものではない。

“多くの人たちが関わるから、時間もかかる”、とWhitehurstは言う。“でもそうやってできた決定は、執行にあたって問題が生じない”。

彼によると、“オープンソース的なやり方(open source ways)”というものを本当に理解するまで1年かかった。そしてそのためにはリーダーは社内の触媒である必要がある、と理解するのに次の1年。“オープンソースは、民主主義ではなくて能力主義だ”、と彼は言う。だから、彼の社員たちは彼に二つのことを求める:

  1. 意思決定をする前にできるかぎり多くのフィードバックを求めること。
  2. 意思決定の実行に関しては説明責任を果たすこと。

Whitehurstは、これによって会話がより骨太になり、大幅に良好な結果が得られる、と主張する。

Red Hatにおけるオープンソースの能力主義の実例の一つ: Whitehurstは社内にいわゆる‘社長メモ’を回したことが一度もない。Red Hatでは、すべてのコミュニケーションが、上意下達でなく、対話性が保証されなければならない。言い換えると、メッセージを受け取った人からの応答が可能であること。Red Hatには、そのための社内メーリングリストがいくつかある。また特定の話題に集中するためのミニサイト(ブログ、wiki、MLなど)は、誰でも自由にセットアップできる。

本稿を書いているぼく自身は、もう10年以上もオープンソースコミュニティの住民だから、Whitehurstの話はぼくにとっては常識だ。でも、世の中の10億ドル企業の役員たちにとっては、まだまだ日常化していないだろう。彼に、“マネージメントのレベルではオープンソース信者だけを雇用/起用するのか、彼らと“伝統的なビジネススクール出身者タイプ”たちとのあいだに確執はないのか?”、と聞いてみた。

Whitehurstによると、彼は長年、新しい役員や管理職を‘仕込む’努力をしてきた。しかし極端な例としては、最初の一日で、“ここはカオスです、たえられません”、と言って辞めた人もいる。今では新たな雇用の半分以上が既存社員との縁で来る。それは、新人レベルから役員レベルまで、すべての職階においてだ。そのほうが、新社員がRed Hatの社風になじみやすく、他のテク企業によく見られ摩擦も少ない。過去数年では、VIPレベルの者が一人辞めただけだそうだ。

Whitehurstの冒頭の言葉を受けてぼくは、Red Hatの成長の持続が営業のやり方にも影響を与えているか、と聞いてみた。とくに、Red Hatが10億ドル企業になったことで、新たな機会が開けているか? 彼は短く、“それはないよ”と答えたが、でも、ここ2年ほどのRed Hatの好調で顧客たちのあいだには、Red Hatの今後の長期安定性に関する安心感のようなものが生じているそうだ。これは好調がさらなる好調を生むというサイクルで、それがどういう結果をもたらすかは言うまでもない。

Linuxは信じられないほど急速に、HP-UX、AIX、Solarisといった古い私企業規格的なUNIXシステムを駆逐していった。このオープンソース化の傾向が、ほかの分野でも強力に起きるのは、いつのことだろう? たとえば伝統的な関係データベースにおいてOracleを脅かすオープンソース製品は、誰だろう? これに関してWhitehurstは、明答を避けた。彼はむしろ、Google、Facebook、Twitterなどの名を挙げて、これらWeb 2.0企業によるオープンソースに対する貢献が起爆剤となって、人びとはますます“オープンソース的なやり方(open source ways)”で自分たちの問題を解決しようとしている、と指摘した。

“結局のところ、最終的にはすべての企業がオープンソースに向かう”、とWhitehurstはきっぱり言い切った。

企業は今、関係データベースのような既存のシステムの利用をより広めるよりもむしろ、“新しいやり方で問題を解決しようとしている”。最先端のイノベーションが、問題解決のまったく新しいやり方を推進している。ぼくは質問の中でOracleの名を挙げたが、WhitehurstはNoSQLデータベースと“ビッグデータ”を扱うコンピューティングニーズの急成長を指摘した。これらの新しいソリューションが今のRDBなみに末端まで普及するには時間がかかるだろうが、でも最終的にはそうなるだろう。

Whitehurstとの会話は思考をとても刺激し、次々といろんな考えがぼくの頭にも湧いてくる。しかも話題が多岐に亘っているので、限られた時間内に用意した質問をすべて聞けなくなった。Whitehurstは、メールによるインタビューの続編を許してくれたので、以下にそれを引用しよう。

Scott Merrill: オープンソースは誰に対してもオープンであるはずですが、でも現状は主に男性が支配している西欧的世界のようです。Red Hatはこの状態を打ち破るための何かを、考えていますか?

Jim Whitehurst: オープンソースが特定の地域や国や人種などにより適している、と見えたことはない。しかしオープンソースのコミュニティは一般的に、それを使うことから構築される(ユーザが貢献者になる)。そのためにネットワークや、大学などからの協力、世の中をもっとおもしろく良くしたいという欲求、などが相乗効果を発揮する。プロジェクトの多くは、友だちの集まりや、みんなのために問題を解決したいと望む個人が起源だ。プロジェクトが成長して露出と利用が増えると、多様化する。このパターンに当てはまらないものの例が、VMwareのオープンソース版oVirt.orgだ。このプロジェクトには、合衆国、イスラエル、中国、日本、インドなどなどに活発なメンバーがいる。タイプは異なるがLinuxもその例の一つで、世界中のほとんどすべての国と人種民族に貢献者がいる。

SM: AmazonがEucalyptusと提携しましたが、OpenStack離れに向けてのプレッシャーは感じますか?

JW: 実はうちは先週、OpenStack FoundationにPlatinum Member(プラチナ会員)としての参加を発表し、今後もこのコミュニティにリソースを注いでいくつもりだ。ある調査によると、 OpenStackへの貢献量ではうちが第三位だ。うちのクラウド戦略の重要な部位の一つとして、OpenStackへの投資は続けていく。

SM: Red Hatの社内ITのどれだけの部分が私企業ソフトで動いていますか?

JW: たぶんもっと良い質問は、どれだけの部分がオープンソースか、だろう。社内で使っているオペレーティングシステムはほとんどすべてRed Hat Enterprise Linuxだ。開発の100%と、プロダクションインフラの60%が仮想化されている。それらもすべて、Red Hat Enterprise Linuxだ。うちのEnterprise Service Bus、アプリケーション層、それにうちのWebサイトredhat.comはJBossがベースだ。社有のラップトップ4000台はすべてLinuxで、その半分以上がRed Hat Enterprise Linux、残りがFedoraだ。メール、カレンダ、チャット、イントラネット、オフィスソフト、ブラウザ、メールのクライアントは、いずれもオープンソースだ。ドキュメントコラボレーションとか休暇管理などさまざまな専用アプリケーションも、オープンソースのソリューションを使っている。最近は海外等の事業所との連絡のためにオープンソースの電話ソリューションを導入した。これは将来、全社化を予定している。というわけでうちは、自社製品を使っているし、そのほかのオープンソースソリューションについても指標的なユーザたるべく努力している。

SM: デスクトップのLinuxは、もうだめでしょうか? この方面でRed Hatは何か取り組んでおられますか?

JW: Red Hatは消費者市場向けのクライアントオンリーのデスクトップ製品を提供していないし、予見できる未来においてはその計画もない。しかし今では、Red Hat Enterprise Linux DesktopとFedoraを提供しており、うちが選んだ市場と顧客ベースのデスクトップニーズを満たすことには成功している。

SM: Red Hatの次の一歩は、何でしょうか?

JW: 今Red Hatが力を入れているのはデータセンタービジネスだ。弊社のコア製品の上で好結果を上げるために、努力している。次はおそらく、クラウドとビッグデータだろう。昨年Glusterを買収してストレージまわりの開発に注力したから、クラウドとビッグデータでもうちに大きな機会があると思う。それは、Linuxビジネスよりもずっと大きな機会だろう。


Red Hatは1993年の創業から今日までの道のりが、とても長かった。たしかに、相当な数の失敗も犯したが、しかし全体としては十分に成功企業だ。同社は数多くのオープンソースの上流プロジェクトに幅広く参加することによって、Red Hatの基盤製品に目に見える利益をもたらしている。またそれによって、全オープンソース世界の技術向上にも貢献している。オープンソース文化と、それが企業文化に与えた効果、これらに関するWhitehurstの観察は、とても勉強になるね。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))