ジョブズの誇り:AppleがFlashとの戦いに勝つまで

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木曜(米国時間6/28)の遅く、極めて異例なことが起きた。Adobeが、Android 4.1搭載デバイスでのFlash Playerサポートを中止し、8月15日にGoogle Playストアから同プラグインを引き上げるとブログで発表したのだ。この撤退は、iPhoneの登場から5年後の出来事だった。iPhoneはFlashのモバイル進出という野望を、殆ど始まらないうちに阻止した。

Adobeがこのような発表を、最初のiPhone発売から5年近くたった今行ったことは、滑稽にすら感じる。私としては、Flashチームにユーモアのセンスがあり、このブログ記事を公開するタイミングをよく分かっていたと思いたいが、同時にこの記事が意図せぬ皮肉になっているように思える。いずれにせよ、これで5年にわたるモバイル分野での戦いに幕が下ろされた。Adobeは敗れた。

iPhoneが発表されたとき、Adobe Flashのサポートがないことは、ポータブル・コンピューティング・デバイスを目指すプラットフォームとして明白な欠陥のように思えた。しかし、2年半後のiPad登場とともに、Apple対Adobe、Flash対HTML5、そして「オープン」対「独自」の戦いは最高潮に達した。

iPad効果

iPadは2010年1月のWWDCで発表されたが、実際の発売は3月になってからだった。そしてついにiPadを入手した人たちは、Flashがないことに気付いた。当時のウェブにおけるビデオ再生と対話機能のデファクト・スタンダードが欠けていたわけだ。iPhoneに関しては、Flashがないことは大きな問題ではなかった。他のスマートフォンでもFlashをまともにサポートしているものは殆どなかったからだ。しかし、少なくともメディア消費に関してはノートパソコン代わりに使われることの多いiPadにおいて、これは大問題だった。

すぐにGoogleがこれに目をつけ、「欠陥」Appleデバイスの代わりに、フルウェブを、パブリッシャーの意図に沿った形でユーザーに表示することを約束した。今となっては信じられないが、ある時期モバイル機器上のFlashはウリの一つと考えられていた。GoogleのAndy Rubinnは2010年4月に、時期OSバージョンであるFroyoでFlashをフルサポートすると発表している。

“Thoughts on Flash”のインパクト

戦線は張られ、わずか数日後にスティーブ・ジョブズがその歴史的声明「Thoughts on Flash」[Flashに関する見解]を発表した。そこには、なぜAppleが同社のモバイルおよびタブレット機器でFlashをサポートせず、今後もサポートしないかの理由が明確に述べられていた。理由はたくさんあった。ジョブズはFlashが「オープン」である、あるいはAppleデバイスが「フルウェブ」をアクセスできないとするAdobeの欺瞞を暴露した。彼はさらに、Flashを使う際のセキュリティー、性能、バッテリー寿命の問題を指摘した。

しかし、何よりも重要だったのは、AppleがAdobeデベロッパーに対して、最新の機能、開発ライブラリー、ツールなどを活用しないクロスプラットフォームアプリを作って欲しくないと言ったことだった。ジョブズはこう書いている。

われわれの動機は単純だ。それは当社のデベロッパーに最先端のもっとも革新的なプラットフォームを提供することであり、デベロッパーには世界で誰も見たことのない最高のアプリを、直接このプラットフォームの上で作ってもらいたい。われわれはデベロッパーが今以上にすばらしい、強力な、楽しい、有用なアプリケーションを作れるよう、このプラットフォームを強化し続けていきたい。全員が勝者になれる。最高のアプリのおかげでわれわれのデバイスがさらに売れ、どのプラットフォームよりもすばらしく幅広いアプリの品揃えのおかげでユーザーは喜びをえられる。

結局ジョブズは正しかった。Flashが初めてAndroidデバイスで提供されたとき、ユーザーは約束されていたフルウェブをアクセスできなかった。例えば、FlashでHuluを見ようとしたAndroidユーザーは、そのコンテンツはモバイルウェブではまだ利用できないというメッセージを見ることになった。同じくFlashを使っていたGoogle TVの有料ビデオサイトでも同じ事が起きた。そして何よりも重要なのは、そうしたビデオやFlashの対話機能をAndroiデバイスで使えた時でも、動きはしばしば不安定であり、高性能デバイスでさえまともに動作しなかったことだ。

その結果ユーザーはモバイル機器上でFlashを見ることを止め、デベロッパーもサポートを止めていった。

Flash問題はモバイルだけではない

しかし、戦いの影響は携帯電話におけるコンテンツ鑑賞方法に留まらなかった。殆どのデベロッパーがネイティブアプリを開発したりモバイルウェブ用のコードを書くことに落ち着いたが、この戦いはデベロッパーたちのマルチプラットフォーム・ウェブ開発への取り組み方そのものに影響を与えた。4インチ画面のために作るとき以外でも、彼らは新しいユーザー体験や対話型アプリの開発にも、FlashではなくHTML5を使うようになったのである。

ビデオは、コンテンツの表示方法に関してAdobe Flash Playerが支配を続ける最後の分野かもしれない。しかしそれでさえ、多くのサイトがビデオ配信にHTML5を使い始めている。YouTubeとVimeoはその先陣を切り、HTML5プレーヤーがある時はまずそれを使ってビデオを表示し、サポートされていない場合に限りFlashに戻る。そして多くのサイトがこの先例に倣っている。

正直なところ、Flashはウェブサイトの対話システムとしての需要が高かったころでさえ、大きなビジネスだったとは言い難い。時とともに、さらにその重要性が失われつつある。Adobeの売上の大部分を占める開発ツール群がターゲットとしているデベロッパーたちは、関心をHTML5ベースのウェブアプリ開発へと移しつつある。プラグインを必要とせずブラウザーだけでできることが増えれば、それはユーザー、デベロッパーどちらにとっても嬉しい知らせだ。

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(翻訳:Nob Takahashi)