データについて考える

次の記事

グループメッセージングアプリRingReefが写真チャットにフォーカスしてアップデート

「会議にはうんざりだ。これがビジネスだと勘違いしている。」
「我々は、問題を解こうとしているんだ」
「では何が問題なんだ?」
「……皆問題は分かっている。」
「いや違う、何が問題なんだ。いやそうじゃない、何が問題なんだ。」
「我々には長年の経験があるんだ。」
「で、何が問題なんだ?」

映画『マネーボール』の中で、ブラッドピットが演じるオークランド・アスレチックスのGMであるビリー・ジーンが、ベテランのスカウト陣に対して、こう問いただし続けたシーンを覚えている読者も多いのではないかと思う。データに基づいた球団経営をしようとするビリーが、経験に基づいた野球業界の慣習と対峙する象徴的なシーンだ。

6月22日に東京・恵比寿で開催されたONLab [Data] Conferenceのために来日したPete Skomoroch(LinkedInのプリンシパル・データ・サイエンティスト)は、”Practical Problem Solving with Data”と題した講演の中で「映画マネーボールを観た人は何人くらいいますか?」と満員の聴衆に対して問いかけた。Peteは、ビリーの仕事を「アルゴリズムに基づいた直感」と呼んで紹介した。

「マネーボール」の写真提供はソニー・ピクチャーズ エンタテインメントより。(C) 2011 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.

Peteによれば、データに基づいて実践的な問題解決をするために、「分析、即興、予測、適応」が大事だと言う。「特に、分析については、統計的にデータを扱う際に、平均値だけを観るのではなくて深掘りし、個々の事例についても見てみる。マネーボールでも描かれていたように、“アルゴリズムに基づいた直感”というのは大事で、データと直感は相反するものではない」という。

プロダクトや組織に関する意思決定をするためにデータを使うことは、スタートアップにとって重要なアプローチとなっている。シリコンバレーでSteve BlankやEric Riesらが提唱する”Customer Development”や”Lean Startup”は、特にスタートアップをする人たちにとっては、今や、ある種の前提知識と言っても過言ではない。

Onlab [DATA] Conferenceは、こうした潮流をシリコンバレーの専門家達を招いて紹介しようというカンファレンスだ。第1回目となる今回は、顧客分析、A/Bテスト、SEO、Email分析の各分野のスペシャリストを招いて、アクセス解析、KPIの設定、デザイン・機能の検証、検索エンジンの最適化、メール配信と分析など、サービスを提供していく中で切り離すことのできない課題を解決に導くための方法や経験について、 数百人にも及ぶ満員の聴衆とともにディスカッションが行われた。

招待講演者は以下のとおり。

Peter Skomoroch氏(LinkedIn Principal Data Scientist)
Hiten Shah氏(KISSmetrics CEO)
Pete Koomen氏(Optimizely 共同創業者 兼 President)
Ray Grieselhuber氏(Ginzamarkets 共同創業者 兼 CEO)
Chris Palmieri氏(AQ 代表取締役)
Taylor Wakefield氏(Mailgun 共同創業者)

以下、それぞれの講演内容の一部を紹介しよう。

KISSmetricsのHitenは「行動に直結するデータの分析(actionable metrics)」の重要性を強調した。「たとえば、ページビューが伸びたら気分が良いけれど、そのデータ(vanity metrics)から、ビジネスをどう成長させるべきかは解らない。それに基づいて何をすべきか解らないことは問題。だから顧客にフォーカスして、ウェブ解析ではなくて顧客分析をする必要がある」ということだ。そして、アーリーステージのスタートアップやローンチしたばかりのプロダクトの場合も、データが少ないとしても、個々のユーザーにフォーカスして話を聞くことはできるので、「人にフォーカスすることが大切」とのことだ。

また、「新しい機能を追加する理由を知らずに追加するのが問題」だという。仮説がない上に、その機能によるインパクトも分からずに機能の追加をしている場合が多いという。ここでも「Build-Measure-Learnのサイクルでユーザーの声を聞きながら仮説を検証ししていくことで、プロダクトをシンプルにしてエレガントにできる。Instagramもはじめは多機能のburbnというプロダクトを提供していたけれど、”Customer Development”、”Lean Startup”を実践して、データと顧客にフォーカスしていくなかで、写真にフォーカスすべきだということに気付き、優れたプロダクトを作れた。同様に、Facebook MessengerやFacebook photoなんかもシンプルでエレガントなアプリになっている」と例を挙げていた。

OptimizelyのPeteはデータ分析をすべきタイミングについて語った。「A/Bテストは大事だけれど、ユーザー数が十分になければしない方が良い」とのことだ。プロダクトのフェーズに応じて、「たとえば、β版のフェーズであれば、データ解析は不要で、Steve Blankもいうようにビルの外に出てユーザーに話しかけることが大切」と語っていた。特に、「ユーザーがサービスを退会しようとしているときに話しかけると最も良いフィードバックをもらえる」とのことだ。一方で、「成長のフェーズに入ったら、このときが、まさにデータ分析を始めるのに最適なタイミングであり、Google AnalyticsKissmetricsFlurryKontagentといったツールを使ってデータの分析をしつつ、常にテストをし続けることが大事」とのことだ。A/Bテストをする期間としては「最低2週間という単位で、テストを重ねていくと良いのではないか」とのことだ。

GinzamarketsのRayは、データを用いたオーガニックなマーケティング方法について語った。「顧客にリーチする方法は2つあって、その1つは広告などにお金を払ってユーザーの行動に割り込む方法(pay money to interrupt them)であり、ブランディングなどには一定の効果はある」とした上で、もう1つの方法である「興味深いコンテンツを提供し続けること(be interesting)」が大事だと語った。「SEOでユーザーが何を求めているのかを知り、それに応じてユーザーの求めるコンテンツを生成し、ソーシャルメディアなどの上でそのコンテンツが拡散していることを確認しつつ、成果を計測して、精錬するというプロセスを継続して行うことが」大事だという。

特にスタートアップの創業者であれば、とにかく「沢山書く」ことが大事とのことだ。「ブログでも良いし、Twitterなどでの発言でも良いし、メディアなどへの寄稿でも良いし、コンテンツを沢山作って、信頼してもらえるようにすることが重要」とのことだ。

また、データを扱いながら、その先にいるユーザーにフォーカスすることが大事であり、「たとえば写真共有のアプリを作っているのであれば、SEOで”photo sharing”というキーワードを取るのではなくて、どんな人に使って欲しいのか、どんなふうに使って欲しいのか、個々のユーザーの属性を明確にすることが大事」とのことだ。

モバイルについては、「SEOはまだ”Wild West”(未開の西部状態)であり、ウェブサイトでいうところの『10年前に近い』」という。それでも、「柴田(尚樹)さんが創業したAppGroovesのように、モバイルでユーザーにリーチする方法に取り組んでいるスタートアップがあって、これからに期待ができる」と語っていた。

AQのChrisは、User Experienceデザイナーの視点からデータの重要性について語った。「UXデザインは、定量的なデータだけでは決まらず、一方で、フィーリングだけでも決められず、この両方を組み合わせることが、製品に対して一番優れた青写真を創れる」とのことだ。特に「データを集めるためには、ユーザーに直接インタビューをすることが大切であって、データの分析からは解らないことが沢山解る」という。また、ユーザビリティテストも重要で、CamtasiaSilverbackといったツールを使ってユーザーが製品をどのように使うのかを分析する方法を紹介してくれた。

最後にMailgunのTaylorは、Emailとそれに関連したデータを用いてユーザーのエンゲージメントを高める方法について語った。「Emailにマジックはないけれど、送信できたか? 届いたか? 跳ね返されたか? 開封されたか? クリックされたか? スパムに入れられたか? といったユーザーのアクションに加えて、時間帯や地域、GmailとYahoo Mailといったメールソフト別の分析ができるので、データが重要な質問に答えてくれる」とした上で、「Emailは常に双方向のコミュニケーションなので、no-replyメールを送るのは以ての外であり、Emailを最もエンゲージングにするための方法は、メールの内容をパーソナライズすることだ」とのことだ。「誰もロボットからのメールを受け取っても嬉しくないからね。」

どれも興味深い内容であり、フェーズに応じて、また、媒介に応じて、様々な視点で、様々な方法で取得できるデータを活用してプロダクトのローンチ後の成長戦略について学ぶことができた。けれど、もっとも印象深かったのは、彼らの講演に共通するテーマが「データ」である一方で、「常に人が大事」という指摘だ。LinkedInのPeterによれば、「データを創っているのも人だからね」とのことだ。