米ベンチャーキャピタルの現状:量より質

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編集部注: これはIT市場の上場および非上場企業の傾向調査に関するRedpoint VCのTomasz Tunguzのシリーズ第2回目の記事である。

本稿では上場IT市場の4つのトレンドを議論した。今日は米国ベンチャーキャピタルの現状と過去を比較したい。

まず、ベンチャーキャピタルへの流入額、つまりベンチャーキャピタルによって調達された資金について調べてみる。その後は流出額、つまりベンチャーキャピタルの投資ペースを時期ごとに使用された資金を対比させながら見ていく。最後に、市場センチメントやそれによる価格変化を調査する。

ベンチャーキャピタルの調達金額は15年間の中央値より27%減

ベンチャーキャピタル業界は縮小の最中にある。2001年以来、有限組合員(limited partners) がベンチャーキャピタルに毎年投資した額は中央値で220億ドル(1兆7,200億円)である。過去三年間では毎年この数字は50%減の160億ドル(1兆2,500億円)となっている。

ベンチャー資金は14%縮小

2011年には過去12年間の平均に比べてより少ない数のベンチャーキャピタルが、より小さな資金から小額の投資をしている。2011年には182のベンチャーキャピタルがファンドを立ち上げており、その数は過去12年の中央値よりも16パーセント少なかった。2011年のベンチャー資金の平均値は12年間の中央値よりも14パーセントも小さい。

しかし、よく知られたベンチャーキャピタルに対しては資金が集中し、増加している。これが質への転換現象だ。それまでは、トップ25のベンチャーキャピタルがすてのベンチャー資金の約30%を調達していた。ところが2012年前半ではトップ10のベンチャーキャピタルが全資金の69パーセントを調達し、とてつもない集中度となっている。これらの大きなファンドが平均資金額を上に引き上げており、一方で有限組合員の資金が落ち込むことでファンドが縮小させられるという偏った影響が小さなベンチャーキャピタルに起きている。

ベンチャーの投資ペースはほぼ平均的

こうした資金調達市場のトレンドにも関わらず、2011年はベンチャー投資にとって平均的な年だった。過去12年間では、ベンチャーキャピタリストは年平均で3076社の米国のベンチャー企業に投資してきた。2011年には、3206社のベンチャー企業がベンチャーキャピタルから調達した資金はわずか4パーセント減であった。過去10年以上に渡り、ベンチャーキャピタルは年間平均338億ドル(2兆6450億円)を投資してきたが、2011年も平均水準の326億ドル(2兆5500億円)を投資した。投資ペースと投資額の両方が伸びており、一見前向きな兆候に見える。

ベンチャーキャピタルの流入額が減少しているので、投資ペースが永遠に一定であることはない。しかし、このペースは数年間は維持されるかもしれない。ベンチャーキャピタルは10年間の資金を調達し、一般的には最初の4年以内にすべての資金を投資する。調達資金と投資資金の差はオーバーハングと呼ばれ、このオーバーハングが現在の投資ペースを維持するための余剰資金を提供する。

投資額はレイトステージで増大

ほとんどの投資額のデータは公開されていないが、ベンチャーキャピタルが投資時に得るオーナーシップ率が一定期間同じであると仮定すれば、投資前の企業価値の代わりに投資額の中間値を使える。

多くの投資については公表されてはいないためシード期のデータは限られているが、シード投資額は過去10年間で比較的一定に保たれている。シリーズAの投資は過去10年間でマイナス5パーセントの割合で少しずつ減少しているが、一方でシリーズBや成長投資は金融危機の間にかなり落ち込んだ。公開市場の株価が下がっているように、シリーズBやグロースの評価額も落ち込んでいる。しかし、こうしたネガティブなトレンドは昨年には逆転している。シリーズBとグロースラウンドの投資は規模が大きくなり、今は両方とも12年間の平均値より10パーセントも大きい。

これらのデータは、よりよい適正価格でより大きなラウンドをという市場の認識に矛盾している。

2つの市場の物語

投資額の中央値で分析するのは、ニュースのトップ記事を飾るような異常値の影響を排除し、結果として資金調達市場の状況に関する最も分かりやすい指標となっている。

すべてのステージにおける投資の平均額は2008年から25パーセント増えており、異常値の企業がもの凄く高い価格で資金を調達することで、中央値に比べて平均値を劇的に高くねじ曲げていることを示唆していている。これらの企業に投資するベンチャーキャピタルがいるのと同様に、いくつかの関心を集めたスタートアップは不釣合いな額の資金を調達している。ここ12年間の投資額の平均値や中央値の差はこの2年間で最大となっている。2010年と2011年では、投資額の平均値は中央値の2倍となっている。

こうした企業評価のトレンドは2つの市場を物語っている。少数のブランド化されたベンチャー企業が高額の資金を持つトップ投資家からの高く、甘く評価されたラウンドで資金調達し、業界全体のデータを高い数字に見せかけてしまう。一方、残りのベンチャーキャピタル市場は縮小し、投資家は厳しい評価への態度を維持し、比較的低い額での小さなラウンドに投資している。

平均への逆戻り

ベンチャーキャピタル市場は進化している。ベンチャーキャピタル業界のトレンドを示す多くの指標が平均に近づくと予想するのは合理的だ。すなわち、 ベンチャーキャピタルに投資された資金は微増であり、投資ペースと資本の分配は維持されて、アーリーラウンドでの企業価値は変わらないがレイトラウンドでは減少するといったことだ。こうしたトレンドの反転には時間がかかるだろうが、結局のところ2012年初期の資金調達市場のデータは、縮小トレンドが続いていることを示している。少なくとも今のところはマーケットはディケンズの「二都物語」ではないが、「最良であると同時に最悪でもある」ような錯綜した状況が今後も続くものと思われる(日本語註:原文では単にDickensian stateとなっていますが、前段で『2つの市場の物語/A Tales of Two Markets』とあるので、ディケンズの小説の『二都物語/A Tales of Two Cities』 からの引用ととらえてこのような訳としています)。

注: 本分析に使用されたデータはDow Jones VentureSourceとNVCAで公開されており入手可能。

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