サムスン vs アップル。特許における「自明性」とは何か

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編集部注:Leonid (“Lenny”) Kravetsはペンシルベニア州フィラデルフィアの法律事務所、Panitch, Schwarze, Belisario and Nadel所属の特許弁護士。同氏はコンピューター関連分野の特許訴訟および知的財産権(IP)取引に特化している。新進のテクノロジー企業のIP戦略策定を得意としており、その話題に関するブログ、StartupsIPも書いている。Twtterアカウントは、@lkravets、および@startupsIP

AppleのSamsungに対する特許訴訟での10億ドル超の勝利を受けて、話題は特許システムの欠陥に集中しているように思われる。多くの人々がこの裁判に関わる特許を「自明」なものであり、Appleは弱いものいじめをしていると言う。これらの議論は、特許審査官による特許申請と先行技術の確認作業や、裁判で聴聞、裁定を下し、両者の言い分を聞き特許が有効であると判断した陪審員たちの仕事を、あからさまに軽視するものだ。

自明性に関する議論は、特許システムに対して多くの人々が持つ誤認識を浮き彫りにしている。特許法は、申請案件の自明性を、発明がなされた時点で考慮することを要求している。つまり、担当する特許審査官は、その発明が特許の出願日(あるいはそれ以前)に自明であったかどうかを判断しなければならない、ということを意味している。その発明が特許審査中に自明であったかどうかは無関係であり、ましてや特許が市場に出された何年も後に自明に見えるかどうかはさらに無関係である。よって、多くのインターネット評論家が提示している事後の自明性の議論は、現行の特許システムにおいては不適切である。

Apple vs Samsungに関連する特許は、この自明性基準が適切であることの理由を示す絶好の例である。最先端技術(そして即ち、何が自明であるか)の認識は急速に変化する。例えば、2007年にBlackBerryがまだモバイル市場に君臨していた時、iPhoneにキーボードがないことに関して、多くの人々がAppleを冷笑した。今日、物理的キーボードの付いた携帯電話は稀少になりつつある。よって、AppleによるiPhone発売が携帯電話市場に革命をもたらしたと言っても過言ではないと私は考える。AllThingsDのJohn Paczkowskiによるこのが、SamsungのiPhone以前と以後の製品ラインを比較している。、

陪審員の一人、Manuel Ilaganは、この証拠物件が陪審員団の決定を支持したことを指摘し、こう語った。「Samsung幹部の間でやりとりされた、同社のデバイスに採用すべきAppleの機能に関するEメールが、私にはかなり決定的だった。また、最終日に、SamsungがiPhone発売前に作った携帯電話とiPhone発売後の写真を見せられ・・・」

ではなぜSamsungは自明性を立証できなかったのだろうか。承認された特許には正当性が推定され、否定することは難しくなる。そうしたハードルの高い裁判で、SamsungはAppleの特許を無効化する先行技術の発見に多大な時間とエネルギーを費やしたに違いない。最大の努力にも関わらず、裁判の結果はSamsungが結局その探索に成功しなかったことを示している。ただしこれは、有効な先行技術が存在しないことを意味するのではなく、単にSamsungが、Appleの特許が無効であると陪審員を説得する先行技術を提示できなかっただけである。多くの人々が、この点に関して陪審員団は間違っていたと信じている。しかし、彼らが特許の有効性の決定方法について詳しい説明を受け、両者から提示された証拠を確認する機会を有していたことを踏まえると、特許の有効性に関する彼らの意見は、外部から裁判を見ていたわれわれの大多数よりも、はるかに多くの情報に基づいている。

では、このテクノロジーの巨人2社から、スタートアップが学ぶべきことは何か。第一に、米国における特許は驚くほど価値が高く、当分その価値は続くだろう。第二に、もし自分の技術に何らかの価値があると信じるなら、それを知的財産権によって保護することはおそらく十分に価値があるだろう。これは、そのスタートアップが競争の激しい分野にいて、ライバルの既存製品やデザインを改善することによってのみイノベーションを実現できる場合に特に重要である。Appleが例示したように、こうした改善は、たとえ僅かであっても、適用が可能であり、実際そのスタートアップの市場において当たり前になることさえある。これについてBenedict EvansがTwitterであまりにも雄弁に語っている。「Appleの業績の大きさ:2006年には想像もできなかったものが、今や人々にAppleはそんな特許を保有すべきでないと言わせるほど自明に思えている。

最後に、もしあなたがスタートアップで、ライバルに訴えられて破滅することを心配しているなら、Samsungの決断に関するRobert Scobleの見解を考慮されたい。「私はこれをSamsungにとってかなり大きな勝利だと思う。なぜか? たった10億ドルで、世界で2番目に儲かるモバイル企業になれたのだから・・・RIMは、もっと早くiPhoneをコピーすればよかったと思っているに違いない。NokiaもHTCもその他多くのメーカーも。Samsungがこれらのどの会社よりも好調なのはiPhoneをコピー〈したから〉だ」。私は特許弁護士として、故意に他人の特許を侵害することを擁護することは決してないが、特許をライセンシングあるいは購入することによって、Samsungが直面した問題の多くを回避することができる(もしSmasungがAppleのライセンス提案を呑んでいれば、費用総額は陪審員評決の半額で済んでいた)。Samsungは、Appleをコピーし、侵害したとされた今でも、全くコピーしなかったよりも良い状況にいるのかもしれない。

特許弁護士のJoseph Holovachuk(@twitchuk)には、本稿を書くにあたってコメントをいただき大変感謝している。

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(翻訳:Nob Takahashi)