teachers
lessons
edtech

教育界に広まるテクノロジープラットフォーム。億万長者となった教師も登場し、教育内容の充実化にも寄与

次の記事

スティーブ・ジョブズがGoogleを「嫌悪」したのはiOS版Googleマップのルート案内を保留したから(Bloomberg発)

Screen shot 2012-09-28 at 4.25.15 AM教育現場で利用できるテクノロジーが増えてきたことにより、教育界での話題は生徒のエンゲージメントや学習効率の話が主なものとなりつつある。どうやら教師の能力についての話題は置いていかれがちになっているのだ。しかしテクノロジーが教師を無用の長物とするわけではない。このことはスタートアップ、アントレプレナー、教育関連企業および教育産業に関わろうとする人のすべてが意識しておくべきことと思う。もちろん教師の役割というのは昔とは変わってきているだろう。しかし生まれつつあるテクノロジーを利用して、教育革命を推進するのはやはり教師の役割であるのだ。

しかし現在、その重要性や潜在的価値、ないしは日々に行う業務からみてみると教師(とくにK-12段階で公立教育機関で勤務する場合)の給与は重要性とのバランスで見合わないものとなっているようだ。こうした現状を打破しようとするサービスにつき、5月にも記事にした。そこでも取り上げたが、TeachersPayTeachersは、世界中の収入の少ない教師たちを支援しようという目的を持つサービスだ。このサービスを通じて、教育関連のオリジナルコンテンツ、独自の指導プランを購入・販売ないしは共有することができる。このTeachersPayTeachersが、ひとつのマイルストンに到達したという話なのでご報告しておこう。薄給にあえぐ教師たちは皆、興味を持つことだろう。ついに、本サービスを通してのミリオネアが登場したというのだ。

ミリオネアとなったのはDeanna Jump。ジョージア州ワーナーロビンズのQuail Run Elementaryで園児および1年生の指導を行う43歳の教師だ。売上げが100万ドルを超えたのはプラットフォームを通じて初めてのこと。彼女には17,000人のフォロワーがいて、3年前に参加して以来、これまでに160,000のアイテムを売り上げた。TeachersPayTeachersのファウンダーであるPaul Edelmanによれば、ミリオネアに向けて邁進している人が他にもいるのだとのこと。2人が既に30万ドルを売上げ、そして23人が10万ドルの売上を達成しているのだそうだ。

不確実な時代

Deannaが成し遂げたことの意味は大きく、他の教師にも大きな影響を及ぼすことは間違いない。教育業界にとって、今は最高の時代であり、かつ最も先の見えない時代でもある。時が進むとともに、デジタル技術が発達して学習という行為が、学ぶ側からの参加を促すものとなり、またパーソナライズされた指導計画が立てられるようになり、達成度合いをきちんと把握しつつ、さまざまな共同作業も行えるようになってきている。

但もちろん、良いことばかりではない。教育費の高騰により、大学の卒業証書を取得するための費用は上がり続けている。おかげで奨学金の借入額は史上最高を記録している。おかげで卒業まで辿り着く学生は減少し、そして卒業した学生も、今度は職を見つけることができずにいる。理工系へのニーズが高まる中、そうでない学生の方が多いというSTEMエデュケーションギャップ(STEM:Science, Technology, Engineering, and Mathematics)というようなこともよく耳にする。

こうした教育コストの問題や、インフラ面での遅れがあればこそ、創造的破壊への道を切り開いたとは言えるだろう。テクノロジーの進化により、スキル、知識、資格取得などは、既存の教育システムから外れたところでも行えるようになってきた。新たな学習方法の登場で、より効率的に学習することができるようになってきた。こういうオルタナティブが生まれてきて、大学の学位や、あるいはクラスルーム形式の教育スタイルなどというのは全く廃れていくものなのだろうか。教師の役割というのはどうなっていくのだろうか。テクノロジーが旧来のものすべてを消し去っていくことになるのだろうか。

問題解決の手段としてのテクノロジー

おそらくそうはなるまい。しかし教師の役割が変わっていくことに間違いはないだろう。もちろん低賃金のつまらない仕事に終始するというケースも出てくるだろう。教師という職業を単なるルーチンワークとせず、教師本来の努力(指導案の作成など)に報いるためのサービスとして、TeachersPayTeachersなどのサイトが登場してきているわけだ。他の教師からコンテンツを購入することにより、自身の指導内容のレベルアップを行えるようにもなっている。これはつまり、既に誰かがやっていることをすべて自力で準備するというような、日夜行われている非生産的行為から教師を解放するという役割も果たすことになる。

もしかすると、ひと月ごとに生まれたばかりのスタートアップが100万ドルの資金を調達するようなバブル風ニュースの中では、Deannaの100万ドル達成も何か表面的かつ投機的なものに感じてしまうかもしれない。しかしそうではないのだ。

3人の子どもの母である(孫も2人いるそうだ)彼女は、17年間教壇に立ち続けてきた。そして同僚の誘いをうけて2009年にTeachersPayTeachersへの参加を決めた。幼稚園などでは小学校と異なり共通のテキストがないことに問題を感じ、TeachersPayTeachersを利用して自身の教材の販売を開始したのだそうだ。その辺りの話がブログに掲載されている。

指導方法についてのアイデアや具体的な方法を考えるのに、通常は何時間もウェブをさまよったり、あるいは教師用アイテムを扱う店でいろいろと見て回る必要がある。これが結構な負担になるのだとDeannaは言っている。しかしTeachersPayTeachersやBetterLessonなどのサイトが登場してきて、より広い範囲でアイデアの交換などが行えるようになってきているのだそうだ。ノウハウのある人が、自らの方法や教材をシェアし、そして勉強中のものはそうしたアイデアを購入したりして利用することができる。

個人でできることの充実化

イリノイ州エリーの高校で11年間にわたって教師をしているTracee Ormanのケースを見てみよう。2009年にTeachersPayTeachersに参加して以来、25万ドルを売り上げている。テクノロジーのおかげで、できることがいろいろと広がってきたことがよくわかる。テクノロジーか人間かという二律背反ではなく、現実の教師が、テクノロジーにより大きな力を獲得しつつあるのだ。Tracee曰く、教師というものはこれまで指導案の策定などについては一匹狼的であり、個々の力で立ち向かわざるを得ないことが多かったのだと言う。

たとえばTraceeは、地域で唯一、2年次英語(sophomore English)を担当する教師だ(こうしたケースは数多くある)。そのために授業プランについて相談できる人も身近にいなかったし、また授業時の問題や疑問を簡単に解決するための方法もなかった。

教師というものは一般的に、他の教師がどのようなスタイルで授業を行なっているのかに興味を持つものだ。しかし地域に根ざすのみの個人にできることは限界がある。Eric Simonsはそうした理由から教師のためのコラボレーションプラットフォームであるClacoを立ち上げたのだった。

TraceeはTeachersPayTeachersに参加して以来、フォーラムで、全国の教師たちに対して気軽に意見を尋ねることができるようになった。また高等教育界のQuoraを目指すAnswer Undergroundなども登場してきた。教師たちはこうしたプラットフォーム上で相互に繋がっていくことが可能となり、またBloggerやPinterest、もしくはFacebookなどを活用したコラボレーションも行いやすくなってきている。Traceeも教師仲間に向けたブログを2つ運用しており、またPinterest上のボードも多数運用している。テクノロジーの進化なしにはこうした動きもあり得なかったわけだ。

教師たちを協力に引き付けつつあるテクノロジー

一般的に言えば、教師向けプラットフォームの拡充により、コラボレーションは容易となり、また自身の発見した教育手法や、あるいは疑問について広くシェアしていくことができるようになった。Ormanはこうした技術のおかげで「より良い教師になることができた」と述べている。

TeachersPayTeachersも、コラボレーションを行い、また知識やノウハウを共有するためのプラットフォームを提供している。5月に紹介したときには既に利益を生み出していた。無料でサービスを利用する人が、サイト上で何かを販売した場合、40%をTeachersPayTeachersが取ることになっている。年間60ドルのプレミアム版も提供していて、こちらの会員が売上をあげた場合には、その15%がサービス側の取り分となる。こうした価格設定もうまく機能していたということだろう。

ただし、波に乗り始めたのは最近のことだと言って良いだろう。たとえば5月までの売上合計が700万ドル程度だったのだが、8月にはこれが1400万ドルまで積み上がってきた。8月だけでも240万ドルの売上げがあったのだそうだ。比較のために昨年の8月を見てみると、売上は35万ドルとなっていた。Edelman曰く、第3四半期の終わり(7月から9月)には、1万人以上の会員を獲得して、売上を500万ドル以上にしたいと考えているのだそうだ。

急成長の原因について聞いたところ、いろいろと面白い話を聞かせてくれた。まず口コミが大きな役割を果たしたのだとのこと。教師の教材ないし授業方法に対する需要が、TeachersPayTeachers上にて満たされることが評判を呼んだ。またオンライン上ではPinterestがGoogle、Yahoo、Bing、およびFacebookを合計した以上のトラフィックをサービスにもたらしてくれた。教師の世界でも、Pinterestの注目度が非常に高いようだ。

また、これはあまり声を大きく言えることではないかもしれないが、教師たちが自らつくる教材の方が、教材業者のつくるものよりも良いものであることが多いのだそうだ。教材業者からの異論もあることだろうが、教師たちは実際の授業シーンの中から生まれてくる教材に、大きな魅力を感じているようだ。Edelman自身も以前は公立学校の教師をしていて、この点についてはもっともなことだと感じているそうだ。

テクノロジーの活用によって変わる未来

Deannaには、100万ドルの売上達成により、何が変わったかと問うてみた。「家族の協力があって頑張ることができました。これからは自分でも他の人の助けになることができるように頑張りたいと思います。具体的に何が変わったのかと言えば、あまりお金の心配をしなくても良くなったということ以外は別に変わっていません。毎朝早すぎる時間に目覚めて、そして子供たちを教えに出かけるという生活です。そういうふうに過ごすのが大好きだし、他の暮らしは想像もできません」とのこと。一方、Tracee Ormanの方は生徒の奨学金を支払うのに売上を使い、また残りを彼女自身の子供のための進学資金として積み立てているのだそうだ。

教育というものが、今後どういうスタイルに進化していくのか想像もできない。しかしだからこそ面白いと言えるのかもしれない。

教師たちにとって、テクノロジーというのは金を稼ぐための手段ではない(もちろんお金があれば、いろいろと便利なのは間違いない)。学生の学習行為に真のインパクトを与えるために利用しようとするものだ。これまでの手段をリプレイスしてしまうものとしてではなく、既存の方法・手法をより効率的にするものとして利用されている。これまで、内容理解の程度をはかるにはテストを行うというのが一般的なことだった。そして教師の側もテストの対策として授業を行うということが必要だった。教育関連予算の削減や施設ないしリソースの減少とならび、この「テストのため」というやり方が、生徒から学習に向けた動機を奪っていたという面もある。

しかしウェブやモバイルゲーム風の教育手段が登場してきた。シミュレーションやモデル化は容易になり、テキストもデジタル化ないしマルチメディア化してきた。こうしたツールが授業ないで使えるようになり、そして生徒の理解度測定もテスト以外のさまざまな方法で行えるようになってきた。生徒の学習状況についてのデータも多く集まるようになった。教師は、あつまった材料を吟味して、個々の生徒を指導するための手法について十分考え抜くことができるようになってきた。こうした教師本来の業務に集中しつつ教師としての給料が貰えるのは、もちろん教師側にとっても望ましいことに違いない。

原文へ

(翻訳:Maeda, H)