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新型iPod touchの「ストラップ」に秘められたのは、コンパクトデジカメを駆逐しようというAppleの夢

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つい忘れてしまいがちなことであるが、iPod touchには2010年までカメラが搭載されていなかった。iPhoneの方には2007年の初期モデルから、主要機能のひとつとしてとしてカメラが搭載されている。どうやらAppleは、iPod touchにとってのカメラがさほど重要なものであるとは認識していなかった様子。それが最新のiPod touchによってようやく変わることとなった。

数週間前にリリースされて、ついに販売も始まった新しいiPod touch(数えるのが好きな人のために言っておくと第5世代ということになる)は高性能カメラを備えている。今回のリニューアルにおいて、最も大きなポイントだと考える人も多いと思う。

しかし、そうは言っても、と考えている人もいることだろう。iPhone 5は言うに及ばず、iPhone 4Sのカメラにも及んでないではないかという声もある。ピクセル数で評価するなら確かにそうだ。しかしピクセル数に関係なく、実に良いカメラが搭載されているのだ。本当に素晴らしいカメラが搭載されているのだ。ほとんどの人にとって「これだけで十分」と言えるカメラであるはずだ。

実のところ、iPod touchを目の前に置いて、最初はどのような記事を書くべきか悩んでしまった。確かに素晴らしいデバイスなのだが、個人的にはiPhoneを使っている。両者は非常によく似たデバイスで、つまり2つを並行して使うことなどほとんどあり得ないと思うのだ。2台とも使うというのはヤリスギな感じだろう。

しかしiPod touchを使う人の多く(ほとんどだろうと思う)はiPhoneを使っていない人だ。iPhone利用者以外に訴えかけるデバイスとしてiPod touchは非常に魅力的だ。両親にスマートフォンを持つにはまだ早すぎると思われている子供がiPod touchを使うということも考えられるだろう。Androidを使っている人もメディアプレイヤーとしてはiPod touchに魅力を感じるという人もいるだろう(そういう人は多いに違いない)。あるいはWindows Phoneを使っている人、BlackBerryな人、そしてもちろんフィーチャーフォンを使っている多くの人にとっても、iPod touchは魅力的であるはずだ。

また、iTunesのみならずApp Storeのプロダクトを使ってみたいと考える人も多いはずだ。この目的のためにiPadを購入する人も多いのだろうが、やはりiPod touchの方が手軽な意味がある(もちろん双方を使う人もいる)。iPodは世代毎に大幅リニューアルされていて、やはり最新のiPod touchを欲しがる人は当然多いはずだ。

そうこう考えながら、この新しいiPod touchを眺めていたが、ひとつぜひとも書いておくべきことに気付いた。それはストラップ(ループ)だ。新しいiPod touchにはリストストラップが同梱されているのだ。

iPhoneにあってiPod touchにない機能というのがいくつかある(携帯電話として使えるかどうかが最大の違いだ)。ただ、このストラップというのはiPod touchにしかないものなのだ。これは大事な点であるように思える。

Appleがここで狙っているのは、コンパクトデジカメのシェアを奪うことだろう。コンパクトデジカメにはすべてリストストラップが付属している。そしてさすがはAppleというべきか、ストラップにも独自の工夫をしている。従来の機器のようにストラップを通すための小さな穴というのはどこにもない。代わりに金属製のボタンを押すとそのボタンが飛び出してきて、そこに簡単にストラップをつけることができるようになるのだ。

つまり、このストラップはiPod touchに「付け加えられた」ようなものではないことを意味するのだと思う。最初からストラップを取り付けることを前提にデザインされているのだ。そして、なぜそのような前提をおいたかと言うとすなわち、コンパクトデジカメとして使ってもらえるようにするためだ。

先にも書いたが、ピクセル数でいうのならiPod touchに搭載されたのはiPhone 4レベルのものだ。5メガピクセルとなっている。4Sや5のピクセル数が8メガであることから、時代遅れのものだと感じる人もいるだろう。しかしiPhone 4がリリースされたときには、そのカメラの高性能ぶりに驚いた人も多かったのだ。わずか2年ほど前のことなのだが、そのときの感動を忘れてしまった人が多いようだ。

さらにiPhone 4時代と比べると小型カメラにおけるパーツの性能もあがり、またソフトウェアの質も上がってきている。そうしたことが相まって、ピクセルレベルで同等のiPhone 4よりもはるかに良いカメラとして機能するようにもなっている。

今更このようなことを言うまでもなく、スマートフォンはコンパクトデジカメのシェアを奪ってきた。本記事を読むような方ならばFlickrのチャートを目にした方も多いだろう。Flickrで利用されるカメラはiPhone 4およびiPhone 4Sが多かったのだが(全カメラの中での話だ)、その両者によって撮影される割合の増加に歯止めがかかったのは、iPhone 5がリリースされてからの話だ。近いうちに、今度はiPhone 5がトップに君臨するようになるのだろう。

実のところ、コンパクトデジカメは、利用されるカメラのトップ5にも入ってこないのだ。すべてスマートフォン(と、言うかiPhone)とデジタル一眼カメラという状況なのだ。

もちろん、今でもコンパクトデジカメを購入する人は多い。筆者自身も実はそうだ。以前はCanonのS90を使っていて、買い替えでCanonのS95を購入した。しかしほとんどコンパクトデジカメを使うこともないのが実情だ。数百ドルする買い物だったのだが、どうもうまい買い物ではなかったようなのだ。

しかし、先にも書いたことだが、皆がiPhoneを所有しているわけではない。したがってコンパクトデジカメの利用を考える人が出てくるのだろう。しかしここで候補にあがってくるのがiPod touchだ。iPhoneがコンパクトデジカメ市場を荒らしたのだとすると、今度はiPod touchが根こそぎにしてしまう番だということになるのかもしれない。

「しかしコンパクトデジカメは便利なんだ」と言う人がいるのもわかっている。CanonのSシリーズも含めたコンパクトデジカメは、カメラ単体として見た時にはiPod touchなどよりも優れたカメラであると言える。しかしカメラの有効性をはかる基準が変化しつつある。確かにiPhone 5のカメラの方が上で、またコンパクトデジカメに対抗し得る性能を備えてはいない。しかしそれでも、カメラとしてiPod touchを選択する人が多くなるのだ。

これはコンパクトデジカメの宿命と考えることもできるかもしれない。真剣にカメラと向き合う人はデジタル一眼カメラを好む傾向があり、そして価格も大幅に下落しつつある。デジタル一眼までは必要ないという人は、スマートフォンのカメラで事足りることが多い。確かに高齢者などの一部はコンパクトデジカメを好む傾向があったが、しかしそういう人も徐々にiPod touchを選択するようになりつつある。

つまりカメラに求めるものが変化しつつあるのだ。カメラではあっても、さまざまなアプリケーションに対応することが望まれている。コンパクトデジカメと同じような値段で、数多くのカメラアプリケーションを利用できるiPod touchがある中、コンパクトデジカメのアドバンテージはなくなっているのだ。さらにカメラアプリケーションだけではなく、ゲーム、ウェブブラウザ、メッセージの送受信、音楽プレイヤー、あるいは映画までをも再生できる機能を持つのだから、iPod touchが選ばれるのは必然と言えるだろう。

これまでのiPodモデルでは、確かにカメラの性能が低すぎるということが言えた。ビデオや写真を1メガピクセルもないようなカメラで撮影しようというのは、さすがに「やっつけ」な感じがしたものだ。しかしそれでもSamsung GalaxyシリーズよりもiPod touchを使う人が多いという傾向も見られた。

そして、いよいよAppleがiPod touchのカメラを真剣に考えるようになったのだ。FlickrでのiPod touch利用率は大幅に上がるに違いない。そしてiPod touchが喰うことになるのは、スマートフォンのシェアではなく、コンパクトデジカメのシェアということになる。

カメラ以外の部分を見てみてもiPod touchは素晴らしいデバイスだ。ゲーム用としても十分楽しめるだろう。メディアプレイヤーとしては言うまでもない。またiOS用のアプリケーションプレイヤーとしてもさまざまに楽しむことができる。キャリアの選択という難しい判断を抜きにしてiOSを存分に楽しめるデバイスという位置づけになるわけだ。

性能面ではiPhoneに近づいており、携帯回線に接続できればiPhoneを上回る面すらあるのではないかと考えられるようになりつつある。たとえばLTE接続機能を内蔵し、いずれかのキャリアが面倒な契約なしに利用できるようにしてくれたとしよう。iPhoneではなくiPod touchを選ぶ人も多くなるのではなかろうか。

つまり通話機能を省いたiPhoneに、どれだけの人が魅力を感じるかという話でもある。携帯電話で誰かと話をするために、何年にもわたって、場合によっては月額数100ドルもの金額をキャリアに払うことが必要なことなのだろうか。今や、多くの人が「電話」をデータ送受信のために活用している。「電話」を使わなければデータのやり取りができなかったから「電話」を使っているに過ぎないというケースもある(もちろんiPadのようなデバイスもある。キャリアとしては、いくらSkypeがあるからと言っても、まさかタブレットで通話しながら街を歩く人はいるまいと考えていたことだろう。しかし実際にはそういう人すら多くなりつつある)。

もちろんiPod touchでLTE通信を可能にするような対応をとれば、いろんな犠牲も出てはくる。たとえばデザイン面での制約が生まれるし、またバッテリーの持ち時間も少なくなってしまう。iPod touchの魅力が大幅に損なわれると感じる人も多いだろう。

現状のiPod touchは、インターネット接続をWiFiに制限しているせいもあって、まるで「永久に」バッテリーがもつかのような感じすらする。確かにiPadには劣るのだが、これはサイズのせいもある。同じようなサイズのiPhoneと比較すれば、iPhone 5よりも薄いにもかかわらず、バッテリーのもち時間ははるかに長持ちなのだ。これは携帯ネットワークへの接続性(およびGPS)を犠牲にしてなし得ていることでもある。

尚、新型iPod touchはデザインも大きな魅力のひとつだ。iPhone 5の後ろ側はアルミとガラスの2トーンとなっているが、iPod touchの方は全面がアルミニウムになっている(右上のWiFiやBluetoothなどのためのプラスチック部分はおいておく)。これだけでも、個人的にはiPod touchの方が美しく感じる。

さらに、iPhone 5では前面と背面がエッジ部分で明確に分離されている。iPod touchの方はユニボディデザインで背面から前面が自然に繋がって感じられるのだ。もしもアンテナをどうするかという問題を考えなくて良いのなら、きっとiPhoneもiPod touch同様のデザインになっているに違いないと思う。

iPhone 5も持ってみるとしっくりと馴染んで感じることだろう。しかしiPod touchの方がさらによく感じる。アルミニウムによる丸みを帯びた輪郭は初代のiPhoneを感じさせるものだ。そしてはるかに薄く、そして軽い。

また、ユニボディデザインのおかげで、さまざまなカラーモデルが出ているのも魅力だ。使ってみたのはイエローモデルだ。他にもスレート、シルバー、ピンク、ブルー、そして(product)レッドが用意されている。先述のストラップはそれぞれの色に応じたものが同梱される。

但し、スレート版を除き、他のカラーモデルは前面部に関して言うとすべてホワイトになっている。スレート版のみが表側も黒となる。どうしてそうなのかはよくわからないが、それにしても外見が違って見えるのは、やはりすべてが同じのiPhoneと比べて面白く感じられるところだと思うのだ。カラーが違えば、デバイスをいろいろなものと一緒に机の上に置いておいてもすぐに見つけることができるというメリットもある。iPhone 5の外見を「宝石のような」と言うのを聞いたことがあるが、これはむしろiPod touchに当てはまる言葉ではないかと思うのだ。

iPhone 5のレビューでまず記したのは、驚くべき軽さについてだった。しかしiPod touchは一層軽いのだ。iPhone 5の112グラムに対してiPod touchは88グラムしかない。これも驚きを感じる点だが、さらにびっくりするのはその薄さだろう。iPhone 5も驚くほどに薄い。しかしiPod touchは驚きを通り越して気絶するほどに薄いのだ。John Gruberが言っているように、これ以上薄くなるとイヤホンジャックが配置できなくなるほどだ。冗談ではなく、それほどに薄いのだ。残される余地は1ミクロンないし2ミクロン程度のものなのではなかろうか(あまりに薄いのでカメラ部分が少し飛び出している。飛出しているのは、ストラップ留と同じ程度だ)。

iPod touchでひとつ不満なのは価格面だ。確かに素晴らしい機能を提供してくれるのだが、32GBモデルで299ドル(日本では24,800円)で64GBモデルが399ドル(同じく33,800円)というのは暴利に感じる。確かにコンパクトデジカメも同じような価格帯にはある。しかし199ドル程度で販売できないものだろうか。確かに旧機種は199ドルで購入できる。けれども今回のアップデートはあまりに大規模なもので、とても旧機種を購入する気にはなれないはずだ。

と、ここまで書いてきて振り返ってみた。多くの人が着目している4インチ画面に実装された美しいレティナディスプレイに言及していないことに気づいた。ディスプレイはiPhone 5に搭載されているものと同じだ。やはりこれに触れないでレビューを終えるわけにはいかないだろう。これからのアプリケーションは、いずれもこの画面サイズに最適化されていくことになるのだろう。HDムービーも綺麗に再生でき、言うまでもないが写真もとても綺麗に見える。

2007年1月、スティーブ・ジョブズが登壇してiPhoneを発表した。それはこんな具合に始まったのだった。

世界に革命をもたらすデバイスをご紹介いたしましょう。ひとつは大画面を搭載し、画面上のタッチ動作で操作を行うiPodです。そしてもうひとつが革命的携帯電話。さらにもうひとつは全く新しいインターネットコミュニケーションを実現するデバイスです。

そう。ご紹介するのは3つの新しいものです。タッチ操作するiPod、そして革命的携帯電話、さらにはこれまでに存在しなかったインターネットコミュニケーション用のデバイスです。iPodとiPhone、それからコミュニケーションデバイス。私の話をご理解いただいているでしょうか。

お話した3つは、3つの異なるデバイスで実現されるものではありません。ひとつのデバイスが新しい世界をもたらすのです。

最新iPod touchについても同じような形で紹介をすることができるだろう。タッチ操作を可能とするワイドスクリーン。革新的インターネットコミュニケーションツール。パワフルな携帯ゲームマシーン。そして素晴らしいコンパクトデジタルカメラ。ここに挙げた4つは異なるデバイスで実現するものではありません。iPod touchというひとつのデバイスがもたらしてくれるものなのです。

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(翻訳:Maeda, H)