未来の大学の姿をラジカルに変えるカリフォルニア州のオンライン教育パイロット事業

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今日(米国時間1/15)、世界最大の大学組織であるCalifornia State University(カリフォルニア州立大学)が、そのキャンパスの一つで、下級クラス(lower-division)を学費150ドルのオンラインコースとして提供するパイロット事業を発表した。これは、高等教育のあり方が大きく変わることを意味している。下級クラス〔≒学部/学科ごとの教養課程〕は、多くの定時制の学部や学科の最大の稼ぎどころだ(とくに人文系)。ぼくもカリフォルニア大学で大きなコースを教えたことがあるが、その当時から、こんなの簡単に自動化できると感じていた。人件費が重荷になっている大学が次々とオンライン化に踏み切れば、今の広大なキャンパスと大教室群を誇る大学の多くはゴーストタウンと化すだろう†。

[†原注: ゴーストタウン化していく過程を、ぼくの想像で下に素描してみた。]

これまでは、何も知らないティーンの大群が、下級クラスや補修過程の無味乾燥な大教室にすし詰めされていた。今回のオンライン事業の推進スタッフの一人であるSan Jose State University(サンノゼ州立大学, SJSU)の学長で副理事長Ellen N. Junnは、“彼らは高卒だが、最初のクラス分けのための初等数学や英語の実力試験で合格点を取れない者が多い”、と言う。50%以上が、不合格だそうだ。

大学の学費は最近の10年で3倍になり、クラスのサイズが大きくなったにもかかわらず、一方では教育助手の不足が慢性化し、増加の一途をたどる学部学生の洪水に、十分な教育的対処ができなくなっている。

それどころか、若者たちの教育に費やされる数十億ドルの経費と、多大な教育努力にもかかわらず、SJSUを卒業できる者は入学者総数の半分にも満たないわずか48%だ

事態にうんざりした知事のJerry Brownは、人気の高いオンラインコース提供プラットホームUdacityとSan Jose State Universityとの提携による、超低コストの下級クラスおよび補修クラスのオンライン化を承認した。その、代数と統計学のコースから成る小さなパイロット事業は学生数を300名に限定、その半分はSJSUから、残る半分は高校やコミュニティカレッジ(短大)からとする。

California Teachers Association(教員組合)はこのパイロット事業への態度をまだ表明していないが、少なくとも一人は、知事の発表のタイミングが反対派を押さえ込むために選ばれた、と言っている。“教員たちの多くがキャンパスにいない時期を選んで発表が行われた、と感じる。私の勘ぐりかもしれないが”、と言うのは社会学の教授Preston Rudyだ。“Udacityはよく知らないから、何(なん)とも言えない。でも今大学は、オンラインのコースを誰に教えさせるか、誰を管理者にするか、大学の外部からも人を起用するか、などを検討しているはずだ”。

教職員たちはオンラインコースの質を気にしているが、しかしわれわれの教育システムの現状は、機械的な記憶をテストすることが中心になっているので、クラスはどんなに大規模にもできるし、教師の対話能力などに左右されない。2009年に教育省が行った調査によると、“授業のすべてまたは一部をオンラインで受講した学生の平均的な成績は、同じコースを人間教師のいる教室で受けた者よりも良かった”、とある。

さらに今月は、MITとHarvardが合同で行っているオンライン教育のパイロット事業EdXにSJSUのクラスを混成し、世界最高レベルのオンラインレクチャーを提供したところ、評価点C以下を取ってしまう学生の数が31%減少した、と報じられている。

言い換えると、コンピュータが人間教師をリプレースすることは可能であり、実際にすでに成功している

この、National Science Foundation(全米科学財団)が資金を提供するプロジェクトは、学習効果を高めるためにメンタリングやモニタリングも併用し、また宿題で行き詰まった学生をメールで励ますこともする。

オンラインのコースは今では珍しいものではないが、高等教育におけるカリフォルニア州の影響力をあなどるべきではない。かつては、カリフォルニア大学の理事長Richard Atkinsonに、入学要件からSAT(大学入学適性試験)を外せと威嚇された国の大学入試センターは、それからわずか1年後に全国のテストをあわてて改訂した。つまり、カリフォルニアの教育界に起きることは、全国に波及するのだ。〔だから今回の下級クラスのオンライン化もいずれ全国に波及する、という筆者の主張。〕

このパイロット事業から今後何が生まれるか、それをぼくなりに予想してみよう。:

  1. パイロット事業が成功して、もっと多くの大学やクラスに広がる。
  2. 定時制学部にはレイオフが起き、多くのコミュニティカレッジが閉鎖され、大学の課外活動サービスもなくなり、人文・教養系の学部は志望者減により解体する(理工系は増?)。
  3. 修士や博士になっても教職にありつけないので、大学院課程が干上がる。院卒が減ると教育助手が減り、したがってクラスも減る。
  4. 正確な評価システムによって、オンライン学生の成績がキャンパス学生と同等であることが実証される。各州の主要大学はすべて、オンライン履修に対して学位を提供するようになり、大学のキャンパスはますます不要になる。
  5. 世界中の大学が成功率の高いクラスの設営を望むにつれて、一部のアイヴィーリーグ大学(米国東部の超名門大学8校)がオンラインコンテンツの多くをコントロールするようになる。
  6. 近未来には、大学のキャンパスは再び昔のように、エリート専用になる。そこではごく少数の学生が、教職教授ではなく研究職教授や専門職教授から個人指導を受ける。

Udacityのこの事業が今後に及ぼす影響は、高等教育そのものの評価次第で吉凶が決まるだろう。投資家Peter Thielのように若い起業家たちを自学自習キャンプに集めて起業資金を提供し、大学を無視させるのも悪くない。このような、若者たちが職業的キャリアを通じて成長する過程が広まれば、巨額な借金(学費)もなくなり、オンライン教育へのアクセスも拡大する。しかしこれに反論するBerkeley〔カ大バークリー校〕の研究者Vivek Wadwhaなどは、若者の教育のもっとも重要な部分の一つが、大学における、教師と顔と顔をつきあわせての対話だと主張する。Thiel流儀には、それがない、と。しかし、どちらが正しいにせよ、すでに変化は訪れつつある。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))