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スキルなしの射手を名スナイパーにするTrackingPointスマートライフル実射レポート

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お金持ちゲーマーとしてのシャキール・オニール

1月の晴れた涼しい午後、私はラスベガスの郊外へ1時間ほど車を走らせた。魔法のようなスマートライフルをテストするためだ。開発者から受けた詳しい説明によると、この銃は誰でも、まったくスキルがなくても精密射撃ができるということだった。私は半信半疑だったが、ともあれ喜んで実地に試してみることにしたのだ。

私が広大な射撃施設に着くと、退職警官だと名乗る警備員に出迎えられた。メディアを好いてはいない雰囲気だった。大型のダッジで起伏した地形を縫う迷路を運ばれ、谷の縁に着いた。見渡すかぎりの砂漠は映画『アイアンマン』のオープニングのような光景だった。そこに改造されたAR-15ライフルが置かれていた。

ターゲットは300ヤード(270m)と500ヤード(457m)先に設置されていた。説明では、私でもTrackingPointの精密狙撃システムを使えば5.56mm弾をこれらの標的に命中させることができるはずだった。

TrackingPointの広報担当、Anson Gordonが要領を説明してくれた。クロスヘアをターゲットに重ね、ライフルの引き金の後ろにある赤いボタンを押してターゲットを指示する。引き金を引く。クロスヘアをもう一度ターゲットに重ねる。自動的に発射される。簡単だ。

実際、簡単だった。私は最初の1発から命中させることができた。事前の説明そのままの作動だった。

Gordonによれば、このシステムは4つの部分から成り立っている。スコープハウジングにはレーザー測距儀、ジャイロ、加速度センサー、磁気センサー、データ処理システムという全体の頭脳が収められている。射手は液晶スクリーンを見てターゲットを設定する。ライフルのロワーレシーバーにはターゲット指示ボタン、ズームボタン、カスタム・トリガーメカニズムが組み込まれている。台尻に収められたバッテリーが全システムを駆動する。また最大の効果を上げるためにはTrackingPoint専用仕様の弾薬を利用することが推奨されている。

テクノロジーはこうだ。射手は液晶ディスプレイを見ながら、トリガーガード内にあるボタンを押してターゲットを指示する。このシステムはターゲットが最大で時速30マイル(48km/h)の速度で移動していても追随する。スコープハウジング内のLinuxベースのシステムがターゲットを認識すると、即座にあらゆる射撃諸元を計算する。射手が引き金をフルに引く。しかしこの時点では銃は発射されない。射手がクロスヘア照準線をもう一度ターゲットに重ねるた瞬間に発射が行われる。システムは重力、空気抵抗、コリオリの力など必要な要素をすべて計算しており、銃身を飛び出した弾丸はターゲットに向かって飛んでいく。

スコープの光学系に入った映像はスマートフォン、タブレットにストリーミングされ、オンラインでの共有も可能だ。つまりコーチが助言したり、狩猟仲間が映像を楽しんだりするのにも使える。TrackingPointはいわば「ソーシャル・シューティング・システム」だ。

TrackingPointは2011年にJohn McHaleによって創立された。MacHaleはアフリカのハンティング・サファリから帰ったところで、自分の遠距離射撃の成果に不満だった。そこで「スキルのあるなしを問わず、誰でも精密射撃が可能なライフル」の開発を目標とするスタートアップが立ち上げられた。その成果がTrackingPointライフルだが、まさにSFの世界から飛び出してきたような銃だ。

重要な点はTrackingPointは全体として統合されたシステムで、その射撃管制能力は現代のジェット戦闘機に用いられているものに近い。つまり既存のライフルに後付することは不可能だ。

正直にいえば、この射撃体験はいささか拍子抜けだった。まったくドラマがない。私は引き金の引き方とか呼吸の整え方とか何もしらないし、またGordonも教えてくれなかった。教えられたのは単に「赤いボタンを押して、引き金を引け」ということだけだ。

TrackingPointシステムでは射撃の間隔は比較的長い。戦場で毎分何百発もの弾幕を張るような射撃の仕方には向いていない。ハンターとターゲット・シューターが想定される顧客だ。Gordonによれば、このシステムは対象動物を傷つけて長時間苦しませるような失中を無くせるので狩猟の倫理的側面を大きく改善するものだという。

システムにはWiFiが内蔵されており、光学系の映像をストリーミングする。GordonはiPad miniを通じて映像を見ながら初心者の射手をコーチしていた。射撃訓練にも非常に効果があることは一見して明らかだった。

ビジネス

ファウンダーのJohn McHaleは最初のスタートアップを1995年に3億7200万ドルでCompaqに売却した。これによりMcHaleは2400万ドルを資産を得た。その後McHaleはさらに2社を立ち上げ、Ciscoと3Comに売却している。つまりTrackingPointのファウンダーは成功した連続起業家だ。

TrackingPointはMcHale自身の出資も含め、3300万ドルの資金を調達している。最初のプロダクトは2013年に2万2000から2万7000ドルで発売されたが、このモデルは信頼性に欠け、完璧な製品とはいえなかった。しかしデモビデオがネットで評判を呼び、会社を存続させるだけの売上が得られた。

McHaleはレミントン、Amazon、SiemensやMotorolaの製品をデザインした会社などから優秀な人材をスカウトしている。 しかし初期製品の失敗でCEOは元レミントンの副社長のJason Schaubleから社内で開発の指揮を取ったJohn Lupherに交代している。

TrackingPointはアメリカ陸軍が6丁、カナダ陸軍が5丁、テスト用に購入しているという。

同社は製品の改良とコストの引き下げに務めてきた。私がテストした新システムはAR-15ライフルを含めて7500ドルだという。 テストした個体は最大射程1200m、対応移動速度10マイル(16kmh)だったが、追加費用を支払えばさらに高性能のモデルも購入できる。

TrackingPointでは .338口径の弾薬を使うMile Makerという製品を開発中だ。その名の通り、射程は1マイル(1600m)となる。つまりほとんど何の射撃技術もない人間が1マイル先の標的に難なく命中弾を送り込めるようになるわけだ。

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Gordonの説明によれば、TrackingPointは射撃の安全性を高めるという。このライフルを発射するにはシステムを起動するパスワードを入力し、ボタンを押して目標を指示し、引き金を引いてからさらに照準を再度目標に合せなければならない。これは誤射、暴発の可能性をほとんどゼロにするはずだという。

その影響は?

どんな分野であれ、イノベーションを止めることは誰にもできない。TrackingPointは明らかに小火器の次世代の姿だ。射撃性能と安全性は格段にアップする。

すでにストリーミング機能がある以上、次の段階ではヘッドアップ・ディスプレイから操作できる偵察/狙撃兵用のデバイスが開発されることは必然だろう。そうなれば兵士はスコープを覗かなくても射撃ができる。TrackingPointではすでにこうしたデバイスを開発中で、ShotGlassと呼んでいる。

信頼性、耐久性、価格などいろいろな理由からTrackingPoint方式のスマートライフルが通常のライフルをすべて置き換えることにはならないだろう。ほとんど技術を必要としない銃を嫌うシューターも多いだはずだ。しかし銃は今後ますますスマート化していくだろう。なんとも怖い話だが、これは必然だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+