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薬品製造

3Dプリンティングによる知的所有権侵害を防ぐための処方箋

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【編集部注】著者のRoy S. Kaufman氏は新興ベンチャーであるCopyright Clearance Centerのマネージングディレクター。

2000年ころの音楽ビジネスは依然強かった。レコード会社はアルバムを制作し、そうした物理媒体を販売店舗に出荷していた。インターネットはゆっくりと大量消費と流通のシステムになりつつあったが、ほとんどの消費者はまだ物理メディアを購入していた。レコード業界はオンライン海賊行為を意識していたものの、脅威はあまり感じられていなかった。

そしてNapsterがやってきた。

音楽業界は、プラットフォームやダウンロードする個人 ‐ 貧乏な大学生を含む ‐ の両方を追い詰めることで、この大規模な海賊行為を止めようとした。しかし世論は、業界に対して厳しいものとなった。結局のところ、デジタル音楽を盗むことはつかみどころのない行為で、レンガやモルタルで作られた店舗から実際のCDやテープを奪う行為とは違ったものなのだ。今日、多くの人が合法的に音楽にアクセスしながらも、音楽業界の収益は回復には至っていないと言えるだろう。

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また別の、革新的で破壊的な技術である3Dプリンティングは、物理的オブジェクトの生産を安価で簡単なものにする。家庭用コピー機が著作権産業を変えたように、3Dプリンティングは、特許ベースの産業に同じ変化を迫ろうとしている。

つまり実質的に、物理的オブジェクトを製造するビジネスは、潜在的にNapsterのシナリオに直面する可能性があるということだ。すべての産業にそれが起きるというわけではないが、プリンターテクノロジーが向上し、より多くの物質 ‐ 例えばタンパク質や特殊なポリマー、金属、そしてその他の化学物質 ‐ などが利用できるようになるに従い、より多くのものが対象になって行くだろう。

製薬業界を考えてみよう。最初のリリースに向けての制作時にもっとも費用がかかる音楽のレコーディング(ミュージシャンを集め、スタジオを予約し、編集するなど)のように、新しい薬剤を開発する際の大部分の費用は最初の段階にかかっている:研究と開発、治験、そしてFDAの承認。実際の原材料費などは僅かなものだ。そして3Dプリンティング – あるいはデジタル製造と流通という名で知られているもの – が、合法的または不法な、これらの薬剤の複製と提供をはるかに簡単にするだろう。

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もし大きな音楽関連企業から責められている貧乏な学生を気の毒だと思うなら、海賊版の処方薬に頼る以外必要性が満たされない、不十分な保険しか持たない人々のことを想像してみて欲しい。

今のところ例外的ではあるものの、Apreciaは薬剤が印刷できることを証明した。

デジタル製造薬剤は遠い話ではない。2015年、FDAは初の3Dプリント薬剤であるてんかん薬Spritam levetiracetamApreciaが製造)を承認した 。製造業者は、3Dプリント薬剤は実際により効果的だと主張している。なぜならば3Dプリンターの動作原理により生み出されるその積層構造によって、体内により簡単に吸収されるからだ。同社は、そのユニークなプロセスに対する50の特許で、その知的所有権(IP)が保護されていることを主張している。今のところまだ例外的ではあるものの、Apreciaは薬剤が印刷できることを証明したのだ。

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そのIPへの潜在的脅威にもかかわらず、3Dプリンティングは、例えばカスタマイズのような豊富な利便性を、消費者と(もし上手くやれるなら)製造者の両方に約束している。3Dプリント製薬の薬剤を用いれば、投与量をそれぞれの患者の必要性に合わせて調整することは容易になる、丁度薬剤師が材料を調合して、個別の患者向けの特製薬剤を作るようなものである。ちょうど個々の患者向けに義肢が正確に作られるように。

これが3Dプリンティングの唯一の利点ではない。プリンタが安くなるにつれ、それらは間違いなく薬局へと持ち込まれ、必要に応じて薬剤をプリントし、高価につく廃棄や劣化、そして在庫を減らすことになる。これは製薬業界にとってとても素晴らしいニュースだが、暗黒面も存在する。やがて、ほぼ全てのものに対する構成素材を誰でも作ることができるようになる ‐ 特許で守られているか否か、保護されているか否か、そして危険であるか否かにかかわらず。

すべての家庭に3Dプリンターが置かれるというシナリオは信じがたいと思うだろうか、ガートナーは2016年から2019年にかけて、毎年3Dプリンターの出荷数が倍増していくと予測している。その中では2500ドル以下の入門モデルは2019年までには40.7%のシェアを占めるようになるだろうと言われている。ガートナーはまた、3Dプリンティングが原因となって、海賊行為だけではなく業界の混乱も含めて、世界では毎年1000億ドル近くの知的所有権の損失が発生すると予測している。

3Dプリントがある未来に向けて、戦略を練るのは今だ

様々な業界が、これまでどのように新しいテクノロジーを扱ってきたかの事例から、多くのことを学ぶことが可能である。音楽業界では、Napsterは著作権にのっとった合法的独占権の利用へと辿り着いた。流通チャネルが変化し、コンピュータを持つ誰でもがダウンロードした曲を再生することができるようになって、著作権を強制するのは難しくなった。レコード会社が1つの侵害案件を訴えでも、またすぐにWhac-A-Moleのような別のものが飛び出してくる。 その結果、著作権の価値は急速に損なわれる。

しかし、これまで見てきたように、すべてのIPや、それが保護しているプロダクトの価値が下がるわけではない、いくつかのものは、より価値の大きなものになるだろう – そここそが現在の経営者たちが備えなければならない場所である。

3Dプリンティングで市場に影響を与える方法への準備には、必ずしも多大なコストがかかるわけではない。

3Dプリンティングテクノロジーがビジネスに与える影響にむけて、企業が積極的に計画できることには、沢山の方法がある。品質管理とサプライチェーンの保護に今投資することで、例えば製薬会社が、サプライチェーンが純正で、品質が保証されていて、顧客が安全な薬を手にすることを保証できるなら、安心料にコストが掛かっても、特許と市場シェアを守ることができる。これは、医療現場に届いたものが、違法な模造品ではなく、FDAが承認し品質が管理されたものであることに対する確証を求める顧客に訴求する。

3Dプリンティングで市場に影響を与える方法への準備には、必ずしも多大なコストがかかったり、意に沿わないものになったりすることはない。たとえば、家電や自動車のメーカーは、もしサードパーティーが3Dプリントされたより安価な交換部品を出せば、売上が減少するだろう。こうした可能性と戦う代わりに、メーカー自らが、サードパーティによる3Dプリンティングスペアパーツのビジネスモデルをうまく取り込んでしまえば良いのだ。この方法はなにも重工業だけに適用されるものではなく、製薬でも、あまり利益がでないと考えられているが故に現在製造されていない、いわゆる「オーファンドラッグ」のコストを下げることに使うことができる。

別の手段としては、メーカーはこうした課題を、特殊な材料を要求するデザインや3Dテクノロジーとは馴染まないデザインを採用することで回避することもできる。例えば、特定の方法で混合あるいは接合しなければならない材料と形状は、デジタル製造テクノロジーでは簡単に追従されない。しかしながら、金銭的なインセンティブが進化するテクノロジーと組み合わさると、こうしたタイプの延命策は短命であることを意識していなければならない。

3Dプリンティングの出現にも関わらず、私たちはまだ著作物のライセンスに基づく生産と流通が、合法的なビジネスとして機能し、知的所有権に敬意を払う世界に住んでいる。特許所有者は、製造権を合法的な3Dプリンティング企業にライセンスすることができる ‐ 例えばナイキ製品のための公式3Dプリンター、などだ ‐ ここでは認可を受けた装置だけが公式製品を製造することができる。このようにして、特許権者は収入を得て、3Dプリンティング業者は新しいマーケットを開拓し、買い手は合法的で品質管理の行われたプロダクトを手にすることができる。これはブランド品や低コストの無印品で行うことのできるオプションである。

デジタル技術がもたらすことができるすべての良い点とともに、特許およびその他の知的財産への大いなる挑戦もさし迫っている。主要産業の混乱もすぐに続くだろう。おそらく5年から10年にわたるこれからの変化の期間が、準備と転換のためにメーカーに残された唯一の時間なのだ。

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(翻訳:Sako)