お店のBGMが変わる―、”B2BのSpotify”Soundtrack Your Brandが2200万ドルを調達

次の記事

東工大の人工知能スパコンはNvidiaチップを使う

Spotify世界最大のコンシューマー向け音楽ストリーミングサービスの座に君臨し続ける中、彼らの地元ストックホルム発の(かつSpotifyも投資している)スタートアップが、エンタープライズ向け音楽ストリーミングサービスを牽引すべく、大規模ラウンドで資金を調達した。

そのスタートアップの名はSoundtrack Your Brand(SYB)。元Spotify幹部とBeats(現在はAppleの一部)の共同ファウンダーが手を組んで設立した同社は、この度のラウンドで2200万ドルを調達した。調達資金は海外展開や、お店でBGMをかけるのに使われている同社のシステムの改良に充てられる予定だ。彼らのサービスは、スーパーなどにありがちな安っぽくて退屈な音楽を変えようとしている。もちろん、たまたま小売店が求めているのが安っぽさや退屈さであれば話は変わってくるが。

既にSYBはかなりの成長を遂げており、マクドナルドやTAG Heuer、Toni & Guyといったグローバル企業が彼らのサービスを利用しているほか、100ヶ国で「何千」という数の企業(スウェーデンのスターバックスのように、大規模チェーンの各国の統括企業を含む)を顧客に抱えている。

同社はさらにSpotify Business(Spotifyのインフラを利用したエンタープライズ向けサービス)を、スウェーデン、ノルウェー、フィンランドで運営している。SYBによれば、同社の売上と顧客ベースはどちらも400%以上伸びているが、具体的な売上額や顧客数は明かされていない。

Balderton CapitalとスウェーデンのIndustrifondenが中心となった今回のラウンドを受け、SYBの累計調達額は約4000万ドルに到達した。今回のシリーズCには、そのほかにもTelia、Northzone、Creandum、H&MのファミリーオフィスであるHMP、この業界をよく知るJörg Mohauptらが参加していた。

既存株主であるSporify、PlayNetwork、Wellingtonは今回のラウンドには参加しなかった(お気づきかもしれないが、Spotifyの株主の多くがSYBにも投資している)。

SYBは、2014年にAndreas Liffgarden(元々Spotifyでビジネスディベロップメント部門のトップを務めていた)とOle Sars(Beatsの共同ファウンダー)によって設立された。彼らは以前在籍していた企業でも起業仲間を募っていたが、ふたりともエンタープライズ向け音楽ストリーミングサービスに大きな可能性を感じているということがわかり、ふたりでSYBを立ち上げることに決めた。多くのお店は、数が限られていながら面白みに欠け、ときには法に触れる可能性のある選択肢の中からBGMをかける手段を選ばなければならず、彼らはその問題を解決しようとしているのだ。

一般的には、お店の人が自分でまとめたCDやミックステープが店内でかかっていることが多い。中にはそのようなメディアを送ってくれるサービスもあるが、どちらも曲をアップデートする手間やコストを考えると理想的な方法とは言えない。ほかにも衛星・無線ラジオをかけているお店もあるが、この方法だと自分で曲を選ぶことができない。さらにSpotifyのような音楽ストリーミングサービスは、非商業目的の個人利用しか許可していないので、この方法をとると法律を破ってしまうことになる。

確かにエンタープライズ向け音楽ストリーミングサービスのニーズはあるようだが、だからといってSYBだけがそれに気付いたわけではない。Mood Media(Muzakの親会社で、アメリカではPandoraとパートナーシップを結んでいる)やPlay Network(Soundtrack Your Brandの投資家でもある)のほか、イギリスのImageSoundなどヨーロッパにも競合企業は存在する。

しかしLiffgardenとSarsは、SYBのサービスには他社とは違う点がいくつかあると言う。

まず第一に、同社のサービスを利用したい場合はサインアップするだけでよく、既にお店にある音響システムとインターネット環境を除けば、追加でハードウェアを準備する必要はない。料金は月々34.99ユーロ(37ドル)に設定されている。

次は提供されている楽曲数と、楽曲に関する同社の将来的なプランだ。世界中に5000〜6000万曲が存在すると言われている中、コンシューマー向け音楽ストリーミングサービスの中には3000万曲もの楽曲を揃えているものもある。しかし話の本題はここからだ。

ほとんどのストリーミングサービスに関し、繰り返し再生されている人気曲の数はせいぜい「数百万」曲だとLiffgardenは話す。「去年私たちのサービス経由で20万曲が再生されており、競合サービスの再生曲数も同じくらいでした」と彼は付け加える。SYBの競合サービスが現在配信している楽曲の数は約100万曲ほどで、SYBもSpotifyやPlayNetworkのようなプラットフォームと手を組んで、大体同じくらいの数の楽曲を配信できるよう現在リライセンスの努力を重ねている。

しかしSYBは、長期的には直接レコード会社とライセンス契約を結んでいきたいと考えている。Spotifyのような企業にとってライセンス契約は悩みの種となっており、ある情報筋によれば、Spotifyは利益を増やすために現在レコード会社と契約内容の変更について交渉しているという。

一方、今まさにレコード会社との契約交渉を進めているLiffgardenとSarsは、SYBがエンタープライズ向けサービスであることから、Spotifyと彼らの事情は違うと説明する。コンシューマー向けサービスに比べて、エンタープライズ向けは利用場面が限られていることから、同社は最終的に1500万曲程度のライセンス契約を結べればいいと考えているのだ。

これだけの楽曲数があれば、サービス内容においてSYBは競合との差を大きく広げられるだろう。さらに他のプラットフォームへの依存度も抑えることができる(これこそ以前同業界で活躍していたSoundropがサービスを続けられなかった理由のひとつで、Spotifyがプラットフォーム上でのアプリのサポートを終了した途端に、彼らのサービスは使えなくなってしまった)。

さらに競合他社に比べて高く設定されたユーザー当たりの料金も、最終的にSYBの利益率向上に貢献するだろう。

SYBが競合を打ち負かそうとしているポイントの3つめが、顧客に提供しているサービスだ。もちろん顧客は、同社が予め準備したプレイリストを流したり、好きな曲をオンデマンドでかけることができる。

しかしSYBはビッグデータやデータ解析の技術を利用し、顧客の売上や来客数、さらには店舗での滞在時間を増加させるため(さらには、もしかしたらお客さんをはやく店から出ていかせるため)にどの曲をかければいいのかという、選曲サポートサービスまで提供しようとしているのだ。

これはもはや音楽サービスの域を超えているとSarsは言う。「このサービスが完成すれば、小売テクノロジーやビジネスのデジタル化というもっと大きな領域に進出していくことになります」

以前TechCrunchではSYBに対して、なぜSpotifyは自社の幹部にSYBのようなサービスをB2B事業として社内で開発するよう促さなかったのかと尋ねた。その答えは今も変わっておらず、なかなか興味深いものだ。簡単に言えば、Spotifyはコアとなるコンシューマー向け事業を確立し、拡大していくことに現在注力しており、エンタープライズ向け事業をはじめるのに必要な交渉や戦略、リソースについて考えている暇がないのだ。

その一方で、皮肉なことにSYBは成長を続け、他サービスから独立しようとしているが、SpotifyはSYBが成長すれば投資家としてその恩恵にあずかれるため、最終的に両社はWin-Winの関係にあると言える。さらに万が一Spotifyがエンタープライズ向けサービスをはじめたいと思ったときのために、おそらくSYBの買収に関し、Spotifyは何らかの拒否権を持っていると私は考えている。

SYBがレコード会社と独自のライセンス契約を結ぼうとしているというのも、私の考えと辻褄が合う。彼らは独立した契約をレコード会社と結ぼうとしており(現在のところSYBは北欧外ではPlayNetworkの楽曲を利用している)、これが形になれば、SYBがSpotifyやその他の企業に買収されたとしても、契約内容について再度交渉しなくてすむ。

なお、今回のラウンドを受けて、以前はUberとDropboxでモバイル部門のトップを務めていたBaldertonのLars Fjeldsoe-Nielsenが、SYBの取締役に就任することとなった。

「私はこれまでディスラプションが起きるのを間近で見てきました。Dropboxはストレージサービスを変え、コンシューマー向けからエンタープライズ向けへの転換を果たしました。一方、Uberは私たちの交通手段に対する考え方を大きく変えました。今度は、Soundtrack Your BrandがBGMを変えていくでしょう」と彼は声明の中で語った。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter