「『信頼せず検証する』ブロックチェーン技術で金融インフラを見直そう」、BlockstreamのSamson Mow氏

信頼(trust)の概念を見直し、金融インフラを再定義して置き換えよう──これが、カナダBlockstream社CSO(Chief Strategic Officer)であるSamson Mow氏が、TechCrunch Tokyo2017のGuest Session「ブロックチェーン技術で『信頼』を再考する」(関連記事)で語った内容である。

抽象度が高く、スケールが大きすぎる話題だと考える人もいるだろう。非現実的な話とすら受け止める人もいるかもしれない。だが、「信頼」の概念の再定義こそが、ブロックチェーン技術に注目が集まっている理由だ。つまりSamson Mow氏はブロックチェーン技術のインパクトについて正攻法で語ったのだ。

まず所属企業とプロダクトの話から。カナダBlockstream社は2014年設立。メインオフィスはサンフランシスコにあり、45名の社員の2/3はエンジニアだ。シリーズAでは6000万ドルの資金を調達した注目のスタートアップである。政治的配慮からかMow氏は強調しなかったが、Blockstream社は、ビットコインの開発者サトシ・ナカモトにメールで助言した人物であるAdam Back社長兼共同創業者を筆頭に、ビットコインに貢献した開発者が参加していることで知られている。

そのBlockstream社の主な製品は次の3種類だ。(1) 商用のブロックチェーンプラットフォーム「Element」、(2) 仮想通貨取引所どうしで流動性を融通するのに利用できる製品「Liquid」(ビットコインと2-way peg(双方向に連動)したサイドチェーンとして作られている)、(3) モバイル環境で使えるビットコイン・ウォレットの「Green Address」である。いずれもビットコインに深く結びついた製品である。

同社は無料のサービス「Blockstream Satellite」も提供している。静止軌道に位置する通信衛星を活用し、地球上のどこでもビットコインのブロックチェーン同期を可能にすることを目指す。例えば大災害でインターネットインフラが途絶したり、政情不安によりインターネットが遮断されたりするような事態に陥っても、パラボラアンテナを建てればビットコインのブロックチェーンの同期に必要な情報を受信することができる。衛星インターネットなど送信手段と組み合わせれば、地上のどこかででもビットコイン決済を使うことができる。ただし残念ながら日本を含むアジア地域は現時点ではサービスの対象外だが、「2018年Q1までにアジアでも使えるようにする」とのことだ。

同社はオープンソース・ソフトウェアへの貢献も行っている。主な対象は、ビットコインそのもの(Bitcoin Core)、ビットコインの少額高頻度決済を可能にするLightning Network、そして最近発表したスマートコントラクト用のプログラミング言語「Simplicity」だ。Simplicityは名称が示すようにコンパクトな言語仕様をもつ。Mow氏は「Simplicityはすべての言語仕様をTシャツ1枚に載せられる」と説明する。

「信頼せず検証する」原則で金融インフラを再構築する

続けて、Samson Mow氏は、Blockstream社が掲げるスローガン「Rethink Trtust(信頼を見直そう)」について説明した。ブロックチェーン技術を、金融インフラに活用するビジョンである。

前提となるのは、世界最大規模のパブリックブロックチェーンといえるビットコインだ。ブロックチェーンは耐改ざん性を重視する技術である。そして最も大きな計算能力(ハッシュレート)に裏付けられたビットコインのブロックチェーンは、最も頑健な耐改ざん性を備える。

ブロックチェーン技術を使うと信頼(trust)の概念が変わる。Mow氏はブロックチェーンの特性を列挙する。「検証可能性、リアルタイム監査、公開された取引台帳、セキュアな暗号学的トークン、インターネット上で動作、全ノードがデータの複製を持つこと」。これらの特性を活用することで、金融インフラを合理的に再構築することができる。

ここで提示された「信頼」に関する新しい考え方を象徴的に示すスライドを引用する。「Don’t Trust. Verify.」と記されている。これは金融分野の取引にあたり会社組織や制度を信用して全面的に任せるのではなく、自動的、機械的、暗号学的に検証するアプローチを採ることで、より良いシステムを作ることができるという提案である。

ブロックチェーンによるイノベーションの中心は「信頼できる仲介者が発行したIOU(借用証書)」を用いるやり方から、「デジタルな資産」を直接交換するやり方に移行できることだ。ブロックチェーン上のトークンは、データベース上に記録された帳簿という以上に「デジタルな資産」としての意味を持つ。帳簿には偽造や改ざんの可能性があるが、ブロックチェーン上のトークンは「資産」そのものなのだ。

「どういう場合にブロックチェーンが必要なのか? 監査・検証できることが重要である場合、マルチパーティーで情報を書き込む必要がある場合、マルチパーティーがお互いを信用していない場合、データの冗長化と回復可能性が求められる場合だ」。このようにMow氏は語りかける。

これはつまり、金融インフラのように「信頼」が重要と考えられている分野でブロックチェーンは特に大きな役割を発揮できるということだ。例えば銀行のシステム、銀行間送金、証券取引所、仮想通貨取引所など、あらゆる金融インフラをより合理的に見直すことができる。金融インフラはブロックチェーンを使うことで透明になり、効率的になり、第三者が監査可能となり、即時決済が可能となり、煩雑な手続きを省略できるようになり、しかもより安全になる。「例えば、仮想通貨取引は、従来のシステムから、(ブロックチェーンの2nd Layer技術である)Lightning Network上のアトミックスワップに置き換えることが可能だ」。

このようなビジョンを語った後、Samson Mow氏はこう締めくくった。「破壊的イノベーションが、ブロックチェーン技術の分野でも起きている。世界中のインフラを再構築するチャンスだ」。