インバウンドメディア「MATCHA」がTHE GUILDらから資金調達、“送客メディア”の枠を超えた挑戦も

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訪日外国人向けメディア「MATCHA」を運営するMATCHAは3月19日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資と日本政策金融公庫からの融資により資金調達を実施したことを明らかにした。

具体的な金額は非公開だが、関係者の話では約1億円になるという。今回MATCHAに出資したのは、日本経済新聞の電子版の監修をはじめ様々なサービスの開発・デザインを手がけてきたクリエイターチームのTHE GUILD、コンサルティング業など複数事業を展開するバリュークリエイトの2社。そして片山晃氏を含む3名の個人投資家だ。

MATCHAにとっては今回が4回目の資金調達となる。前回は2017年7月に星野リゾート(資本業務提携)、個人投資家の千葉功太郎氏から。同年9月にはスノーピークとの資本提携に加えて、個人投資家の藤野英人氏、中竹竜二氏、志立正嗣氏を引受先とした第三者割当増資を実施し、トータルで約1億円を集めた。

月間で420万PV、自治体や企業とのネットワークも拡大

日本国内の観光情報を全10言語で発信しているMATCHA。現在の月間PVは420万ほどで、毎月200万人近くのユーザーが集まるサイトになっている。核となる広告に加え、宿泊施設やアクティビティ予約のアフィリエイトの強化などマネタイズの多角化も進めるほか、2017年11月にはiOSアプリもリリースした。

MATCHA代表取締役社長の青木優氏によると、スノーピークや星野リゾートとの提携効果もあって問い合わせ数も増加傾向にあるとのこと。特にここ半年ほどで「企業や省庁とのダイレクトなネットワークが広がってきた」(青木氏)という。

この繋がりも活用して同社では「MATCHAに訪れたユーザーを観光地のサイトへ送客する」ところからもう一歩踏み込んだ、新しい取り組みも模索している。

「たとえばある町はメキシコと縁があって国内での認知度も高いが、実際にメキシコから訪れる人は多くない。そこでMATCHAの特集と連動して『メキシコ人観光客限定で街の職員が無料ガイドを提供する』といったプランを提案している。(この仕組みがうまく回れば)来訪率の改善も期待できる上、実際に訪れた際の満足度向上にもつながる」(青木氏)

Webからの送客だけでなく、実際にコンバージョンする(来訪する)までの流れを自治体と一緒に設計することは、MATCHAにとっても新たな収益源となりうるだろう。

ただ直近では、組織体制を強化しシステムの開発とコンテンツの拡充に力を入れる方針だ。国内の主要なエリアについてはある程度カバーできてきたとのことで、これからは地方の記事も充実させて「面をもっと増やしていく」(青木氏)という。

星野リゾート、スノーピークに続き今回はTHE GUILDが出資

MATCHA代表取締役社長の青木優氏(写真右)、THE GUILD代表取締役の深津貴之氏(左)

冒頭でも触れたとおり、当ラウンドには新たな株主としてTHE GUILDが参加している。TechCrunchでは今回THE GUILD代表取締役の深津貴之氏にも話を聞くことができたので、出資の背景や今後の取り組みについても紹介したい。

深津氏はTHE GUILDのメンバーとして複数アプリのUI/UXデザインに携わっているほか、「cakes」や「note」を展開するピースオブケイクのCXO(Chief eXperience Officer)も担っている人物だ。もともとインバウンド業界に興味や課題意識があり、MATCHAへの出資に至ったという。

「少子高齢化が進み国内産業が衰退していくことが考えられる中で、どうやって外貨を獲得していくか。そのためにはある程度、観光立国化する必要があり、観光領域におけるユーザー体験の設計に関心があった」(深津氏)

インバウンドメディアはMATCHA以外にもあるが、大きな決め手になったのはMATCHAのチーム体制なのだそう。同メディアには約60名のライターが所属していて、約半数を外国籍のライターが占める。

「もの作りやデザインにおいて、『自分ごと』として作れるかが1番大事だと考えている。インバウンドメディアに関しては、日本人だけでやると日本人だけの自分ごとになり、外国人観光客を置いてけぼりにしてしまう恐れもある。THE GUILDとしてプロダクトを磨くサポートはできるが、そもそも内部にいい土壌がなければ意味がない。(MATCHAは)プロダクトもそうだが、現時点のチームのあり方に魅力を感じた」(深津氏)

深津氏に聞くまで知らなかったのだけれど、実はTHE GUILDとして、そして深津氏個人としても少しずつスタートアップへの出資を始めているそう。もともと同社では単発の「打ち上げ花火」的な関わり方ではなく、中長期に渡り「パートナー」として顧客と付き合ってスタイルを大切にしてきた。そして深津氏いわく「パートナーとして1番究極系のコミットの形が株主」なのだという。

「そもそも間違ったミッションが降りてきたり、本来なら他に優先すべきことがあったりした場合、受託の関係性ではそれを伝えるのが難しいこともある。(良いプロダクトを作るための本質的な議論を)対等にするためのチケットが、株主だと考えている」(深津氏)

“送客メディア”の枠を超え、観光体験を改善する

今回THE GUILDが出資したことで、MATCHAは今後どのようになっていくのだろうか。深津氏によると直近ではTHE GUILDでプロダクトの細かい改善をするなどはなく、「経営チームのアドバイザリーとして『視点を提供する』というコミットの仕方になる」(深津氏)という。

具体的には大局的な観点からMATCHAのポジションを一緒に設計したり、提供する観光体験のあり方についてアイデア出しや立案のサポートする。長期的な構想も含めると、2つの側面から「観光体験の改善」を一緒に目指していくことを見据えているようだ。

「1つは(Webメディアとしての)MATCHAの体験。ユーザーがMATCHAにきて、観光コンテンツを見つけて読む、この一連の体験を良くすることをサポートする。もう1つはMATCHAが提案する日本の観光体験そのもの。自治体や企業に提案する際に、MATCHAが考える良い観光体験とはどんなものか、そしてMATCHAと組むことでどんな価値を提供できるのか。『アプリの外側』の体験設計についても支えていければと思っている」(深津氏)

後者の「観光体験そのもの」については、これから方向性が定まっていく部分であり、現時点で何か具体的な構想がいくつもあるわけではないという。ただ記事中で紹介した、自治体と組んだメキシコ人観光客向けのプランなどはその一例と言えるだろう。

「送客するだけで終わるのはもったいない」という考え方は、青木氏と深津氏に共通するもの。日本の観光地にはポテンシャルを十分に発揮できておらず、もっとよくなる余地を残している場所もある。

「そのような自治体と組んで具体的な観光体験を提案できればMATCHAのバリューもあがる」と2人が話すように、これからのMATCHAはアプリの内側からだけではなく、外側の部分も含めて日本の観光体験そのものを変えていく——そんなフェーズに入っていくようだ。