ITで食品工場をスマート化、現場の“紙”なくす「KAMINASHI」がβ版公開ーー5000万円の調達も

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「人手不足と言われる今の時代、人間がやらなくてもいい仕事はどんどんITに任せ、感性や創造性が求められることにこそ時間を使えるような環境を作りたい」ーーレガシーな産業をITで変えようとしている起業家に話を聞いていると、よくそんな言葉がでてくる。

近年さまざまな業界でITを活用した業務効率化が進んではいるけれど、まだまだ変革の余地がある領域は残されているようだ。今回紹介するユリシーズもそんなチャレンジをしている1社。同社は5月16日、“食品工場”から紙をなくし、スマートにするサービス「KAMINASHI(カミナシ)」 のβ版を公開した。

またユリシーズでは2017年8月に500 Startups JapanBEENEXT、他1社から総額5000万円の資金調達を行ったことも明らかにしている。

大半の工程は、ITによって自動化・削減できる余地がある

KAMINASHIは食品工場の現場で行われている帳票の記録をデジタル化する、SaaS型のサービスだ。これまで記録業務は紙に手書きで行うのが一般的で、非効率な部分が大きかった。たとえば食品の温度を管理する必要がある場合、従来は毎回手動で記録していたが、KAMINASHIを使えば温度計で計測した温度をデータとしてクラウド上に自動で保存する、といったことが可能になる。

温度についてはKAMINASHIで3種類の温度センサーを用意。システムと連携させることで記録を自動化する。その他の時間や重さ、日付といった各項目については、アプリを使ってクラウド上にログを残していく仕組みだ。

各工場ごとにチェックしたい内容は異なってくるので、ワークフローやチェック項目を柔軟に設計・カスタマイズできる点が特徴。現場スタッフが入力したデータは記録画面にリアルタイムで反映、あらかじめ設定した条件に基づいて自動でチェックされるので、責任者の負担も削減される。

ユリシーズ代表取締役の諸岡裕人氏は、前職で航空機内食の製造オペレーションに携わっていた経験を持つ人物。現場では厳しい衛生基準を満たすために手書きの帳票が毎日200~300枚も発生し、作業後はこの帳票を1枚ずつチェックしていたそうだ。

「紙に毎回手書きで記録するのも大変だが、それ以上に細かいミスや不備がないか1枚1枚チェックする作業が苦痛だった。チェックした用紙も監査などに備えてきちんと保管し、必要になったらすぐに取り出せる状態にしておかないといけない」(諸岡氏)

デジタル化すればそもそも毎回紙を印刷して配る必要もなくなるし、後から1枚ずつ回収する必要もない。記録からチェック、管理までの各フローも大幅な効率化が進む。実際のところ諸岡氏の話では全行程のうち半分以上は自動化、もしくは大幅に作業を削減することが見込めるという。

現場で使われる紙の帳票

課題である多額の初期投資をなくす

もちろん全ての食品工場がアナログな状態かというと、決してそんなことはない。自社でシステムを構築し効率的な仕組みを整えている工場も当然存在する。ただ諸岡氏によると、現時点でIT化が進んでいるのは一定以上の規模の工場に限られているようだ。

「工場ごとにニーズが違うため、IT化を進めようと思うと独自のシステムが必要になるが、そのためには最低でも1億円程度のコストがかかる。現場の人に課題意識やIT化の意向はあるが、初期投資のリスクが大きく手書きでの管理を選ぶしかない場合も多い」(諸岡氏)

KAMINASHIの場合は月額7万円(契約は年単位)から利用でき、必要なものはPCのみで温度センサーやスタッフが入力時に使うiPodは全てレンタル。最短1週間で導入できるためハードルが低い。

そしてもうひとつ、価格に加えて食品工場で働くスタッフにとって使いやすいかどうかもポイントだ。年齢層がバラバラな上、外国人スタッフが多い現場もあり「ベンダーと会社のIT部門が主導で作ってしまうと、現場にとっては使い勝手のよくないシステムになる」(諸岡氏)可能性もある。

KAMINASHIでは現場スタッフの声も聞きながら開発を進めてきた結果、これまで提供していたクローズドβ版は、テスト利用も含めANAのグループ会社など7社に導入。ユーザーの最高年齢は67歳、ミャンマーやベトナムなど複数の国籍のスタッフにも使ってもらえているという。

単なる業務効率化だけではなく、生産性向上を支援するサービスへ

KAMINASHIを開発するユリシーズのメンバーと投資家。写真中段が代表取締役の諸岡裕人氏

今後KAMINASHIでは生産性向上を支援する機能の拡充を行っていく方針。たとえばサービス上に蓄積された各スタッフの作業時間のデータから、理想的な1日のワークスケジュールを自動で生成し、作業者に目標時間を直接提示するような機能を実装する予定だという。

「今までは現場のデータが埋もれてしまっていた。これをデータ化すればもっと活用できる可能性がある。たとえば食品工場の業務は計画を立てたり実行することはできても、その結果を数値で検証することが難しかった。可視化することで品質管理の観点ではボトルネックや改善点が明確に把握できるようになり、生産性の観点では理想的なスケジュールや作業時間が導き出せるようになる」(諸岡氏)

諸岡氏は食品業界のIT化について「受発注システム」「生産システム」「(現場の)品質管理」「(現場の)生産性管理」の4つを考えているそうだ。まずはIT化が進んでいない品質管理と生産性管理の工程から始め、ゆくゆくは受発注システムや生産システムも含め食品業界をサポートしていきたいという。