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「アートとブロックチェーンは相性がいい」美術家が創業したスタートバーン、UTECから1億円を調達

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アート×テクノロジーを軸に複数の事業を展開するスタートバーン。同社は7月5日、UTECを引受先とする第三者割当増資により、約1億円を調達したことを明らかにした。

同社では今回の調達も踏まえ、以下の3つの事業に取り組む方針だ。

  • 文化・芸術品の管理に特化したアート×ブロックチェーンネットワークの構築
  • ネットワークと連動する自社サービス「Startbahn BCM(仮称)」の開発
  • アート領域以外の事業者も含めたブロックチェーン事業の共同開発

ブロックチェーンネットワークは9月末より試験運用を開始、Startbahn BCMも同様に9月末より提供を開始する予定だという。

油絵専攻の現代美術家が立ち上げたアートスタートアップ

スタートバーンが今後取り組む事業には、同社がこれまでやってきたことが大きく関わっている。ということで、まずは同社の成り立ちや手がけてきたプロダクトについて紹介したい。

スタートバーンは現代美術家として活動していた施井泰平氏が、東京大学大学院に在学していた2014年3月に立ち上げたスタートアップだ。施井氏は多摩美術大学の絵画科出身。大学で油絵を専攻した後、美術家として「インターネットの時代のアート」をテーマに制作活動を行ってきた。

ギャラリーや美術館での展示に加えて、複数のオンラインプロジェクトも発表。東京藝術大学では教鞭をとった経験もある。

そんな施井氏が起業するきっかけとなったのが、かねてから構想を進めていた「Startbahn」のアイデアだったという。

「テーマとしていたのは『アートの民主化』。インターネットの時代では、様々なジャンルで名もない多くの人たちが業界を盛り上げ、それが中心となって新たな市場を開拓してきたという背景がある。ただしアートに関しては限られたトッププレイヤーだけしか市場に関わっていなかった。結果的に一部の作品だけがやりとりされ、情報も広がっていかない。そんな状況を変えたいと思っていた」(施井氏)

たとえば毎年1万人以上が美術大学を卒業するのに、マーケットに流通するアーティストになるのはわずか1〜2人程度なのだそう。そう考えるとほんの一部の人だけがチャンスを掴めるシビアな市場だ。もちろんネットによる民主化が進まなかったのには、アート市場特有の理由もある。

「通常、多くのマーケットでは基本的に中古市場より新品市場の方が商品価値が高い。一方でアートは新品が最も値段が安いというケースがほとんど。アーティストのキャリアや、その作品がどんな人に買われたか、どんな展覧会に展示されたかによって価値が高まっていく。そのような情報を管理するのが困難だったため、簡単にネット上で自動化もできず、アートをやりたい多くの人たちの作品が流通してこなかった」(施井氏)

転売されるごとにアーティストへ還元金が分配

2015年12月にリリースした「Startbahn.org」は、これらの課題を解決するために作ったプロダクトだ。

同サービスはアート特化のSNSとオークション組み合わせたような仕組み。アーティストが自身の作品を掲載したり、レビュワーが作品のレビューを投稿するSNS機能に加え、アーティストとコレクター間だけでなくコレクター同士でも作品を売買できるオークション機能を備える。

特徴は再分配システムを搭載していること。Startbahn.orgでは作品の来歴がトレースされるほか、コレクター間で作品が売買されるごとに(n時販売時に)オリジナル作者へ還元金が支払われる仕組みになっている(日米間で特許を取得済み)。

これは上述した「トッププレイヤー以外の作品が流通しやすくなるための仕掛け」のひとつだ。

「まず作品の価格決定の仕組みを変える必要があった。従来の仕組みでは若手のアーティストの作品が高いと感じられがち。たとえば30日かけて作った作品が30万円で売られていても、多くの人は高いと思うはずだ。そこで初期の価格を落とす一方で、転売されるごとにアーティストに還元されるようにすれば、ひとつの作品から同じくらい、もしくはそれよりも多くの収益が得られるのではと考えた」(施井氏)

ブロックチェーンを活用すれば課題を解決できる

ところが実際にサービスの運用を続けていると、いくつかの課題が明確になった。特に頭を悩ませていたのが、外部サービスで作品が売買されてしまった場合、来歴のトレースも還元金の徴収もできなくなってしまうことだ。

どうすればこの問題を解決することができるのか。ずっと打開策を考え続けていた時に施井氏が出会った技術こそが、ブロックチェーンだったという。

還元金や証明書の情報はブロックチェーンに記録し、かつブロックチェーンネットワークを通じて外部サービスとも連携できる仕組みを作れば、サービスをまたいで来歴の管理や還元金の徴収も可能になる。

約2年に渡ってその考えを磨き続けた結果生まれたのが、現在開発を進めているアート×ブロックチェーンネットワーク構想であり、自社サービスのStartbahn BCMだ。

アート×ブロックチェーンネットワークでは、アートマーケットの発展のために共有すべき「作品のタイトルやサイズ、制作年度、作者情報、来歴情報」といったデータをブロックチェーン上でオープンにする。

一方で所有者の個人情報や販売管理者のための管理情報など、共有したくない情報については自社で管理できる仕組みを整備。双方のバランスをとりつつ、ネットワークを活用すれば参加機関が独自の作品証明書発行サービスを立ち上げたり、既存のプロダクトをアップデートできる環境を作る。

ネットワークの参加機関として想定しているのは、アーティストやクリエイター、ギャラリー、オークションハウス、管理業者など、文化や芸術作品に携わるあらゆるプレイヤー。まずは第一段階として9月末から一部のパートナー企業と共に試験運用を始め、2019年初には正式版を公開する予定だという。

同じく9月末の公開を予定しているStartbahn BCMは、アート×ブロックチェーンネットワークに参加するサービスのひとつという位置付け。Startbahn.orgのコンセプトや特徴を引き継ぎながら、従来抱えていた課題をブロックチェーンの活用で解決し大幅にアップデートしたものだ。

Startbahn BCMでは外部サービスとの連携だけでなく、独立性やカスタマイズ性を重視。作品や商品管理機能をバージョンアップし、ギャラリーやショップ、イベント、教育機関での利用も視野にいれている。

施井氏いわく「イメージとしてはBASEやSTORES.jpにも近い」部分があるそう。それぞれのユーザーが独自性のある作品サイトを作成でき、裏側では各サイトがStartbahn BCMに紐付く仕組みだ。

またスタートバーンではアート×ブロックチェーンネットワークの構築を通じて培った知見を、文化や芸術以外の領域にも応用していく方針。来歴管理や証明書発行、真贋鑑定技術などを必要とする事業者と共同で、オリジナルのブロックチェーンネットワークを開発していきたいという。

アート界隈でも注目度の高いブロックチェーン

海外ではすでにブロックチェーンをアート市場の課題解決に用いたスタートアップが増えてきた。特に作品の真贋鑑定や来歴管理はブロックチェーンと相性がよく、「Codex」や「Verisart」を始めとしたサービスが注目を集めている。

施井氏の話ではアート界隈の人と話していても「トレーサビリティだけでなく国際送金やエスクローの仕組みなど、ブロックチェーンへの関心度や期待値は高い」そう。特にアート業界は贋作が多いと言われていて、それが業界の透明性を下げてきた部分もあるからだ。

その一方でギャラリーやオークションハウスとしては自分たちの情報を守りたいという思いもあり、従来は双方のバランスをとりながら情報公開を進めることができていなかった。

スタートバーン代表取締役の施井泰平氏

「自分たちの強みがあるとすれば、このような問題をもう何年も前から現場で考えてきたこと。(各プレイヤーに)ヒアリングを重ねながら、どのようなインセンティブ設計や再分配の仕掛けがあればみんなが参加したくなるのか、どうすれば機関を横断して情報共有ができるかずっと模索してきた」(施井氏)

それだけにブロックチェーン技術が台頭してきたことは、スタートバーンにとっても大きな追い風だ。同社では今回調達した資金も活用して、アート×ブロックチェーンネットワークの構築、展開の加速を目指す。