イーロン・マスクがSECに目をつけられるのは仕方がない

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イーロン・マスクの4つのツイート。1つは、米証券取引委員会(SEC)による提訴。そして2つの和解案。さらにはSECを揶揄するツイート。

Teslaの車とエネルギーの事業に疑いの眼差しを向けた人たちは間違いだったとTeslaは証明し続けている一方で、現在展開されているソーシャルメディア劇場では財務面での動きを伴っている。マスクが先週末にSECと和解したことを受け、株価は月曜日に一株あたり310.70ドルに上昇した。しかし結局は金曜日に1週間前とほぼ同じ261.95ドルとなった。これはおそらく投資家がイーロン・マスクの現在進行形のツイッター問題を恐れてのことだ。

SECはマスクのようなクリエイティブながら衝動的な起業家をソーシャルメディアから引き摺り下ろし、社を築くのに専念させるのを手伝う必要があるー会社運営はフェアで、しっかりとしたやり方でなさなけらばならない。

これまでのところ、それはたやすいことだった。それゆえに今回は悪い前例となった。Teslaが公開企業となったとき、彼らは株主の利益を最優先することに合意していた。衝動的なツイートはこの約束を破った。

マスクがこの株主の利益最優先の約束を反故にすれば、SECは提訴して事を進め、前例を示すことができた。マスクのツイートは裁判所に持ち込めば簡単に勝訴できる類のものだった。SECは騙し取りに興味があるかどうかなどマスクによって証明される必要はなかった。マスクが実質的に虚偽発言をしたこと、あるいは脈絡なくミスリードしたことを証明しさえすればよかったーマスクのツイートが確固たる根拠を伴わないものであることを考えたとき、それは決して難しいことではない。

これをどうとらえるべきか?

そもそも、一つのツイートから始まった。8月7日、イーロン・マスクは2200万人超もいるフォロワーに向けてツイートした:“1株あたり420ドルでTeslaを非上場化することを検討している。資金は確保した”。その後に起こった混乱はマスクのさらなる3つのツイートによって拡大した。

この4つのツイートが、SECがマスクに対して9月27日にニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出した訴状のベースとなっている。この訴状では、SECはマスクがTeslaの取締役会会長ならびにCEOの職から退くことを求めている。そしてマスクに罰金を支払うよう求め、一定期間マスクがいかなる公開企業をも率いる事を禁じた。

SECによると、マスクのツイートは7月31日にサウジアラビア政府投資基金の代表者との間で行われたおおよそ30分のミーティングに基づいている。このミーティングで、基金側はマスクに公開市場でTesla株のおおよそ5%を買う意向を伝え、そしてTeslaを非上場にすることに興味があることも伝えた。しかしマスクは正式なオファーを受けておらず、非公開企業になるためにはどうしたらいいか法的なアドバイスも受けていなかった。さらには、8月7日のツイートまでに基金側と再び話すこともなかった。

そして株価420ドルだ。マスクがツイートする前の市場がひけるときの株価を20%増して419ドル、四捨五入して420ドルとした。それは彼のガールフレンドが420という数字を面白がるだろうと考えたからだ、というのがSECの主張だ。(編集部注:420という数字には「マリファナを吸おう」というスラング的意味がある)

SECの訴状が提出された直後、マスクが制裁金1000万ドルを払うこと、CEOとしては留まり2年間は会長職を離れる、との和解案が明らかになった。SECが何を提訴しようとしていたかを考えたとき、その和解は寛大といえるものだった。しかしTeslaの取締役会はこの和解案を拒んだ。報道されているところによると、それはマスクがこの和解案を受け入れなければやめる、と脅したからとのことだ。

和解を拒否したあと、Teslaの弁護士はSECとの協議に戻った。マスクは合意しなかったことで社の株式を14%近くも急降下させたことをしぶしぶ認めた。

2つめの和解案では、マスクが会長職を離れる期間が2年から3年になり、マスクへの制裁金は2000万ドルへと2倍に増えた。Teslaはまた制裁金2000万ドルを払うこと、取締役会に2人の独立した役員を加え、マスクの代わりに独立した取締役会会長を選出することに同意した。この和解案にはまた、Teslaがマスクのソーシャルメディアを含めた発信を監視することも含まれている。

この件を担当する判事がマスクとSECに“社会の話題”となった和解案を示すよう要請した数時間後に、マスクはまたもやツイッターを使って、合意でCEO職に留まる事を認めてくれた相手を挑発した:“Shortseller Enrichment Commission(空売り推進委員会、SEC)はまったく素晴らしい仕事をしている。名称変更も的を得ている! そして、Teslaの株価は、その後のマスクのツイートで下がった。

SECはまだこの件に関して完全に矛を収めてはおらず、ーもしこれまでがプロローグであればー矛をそのまま収めるというのは考えにくい。

マスクのツイートの何がいけなかったのか?

ここで重要なのは、マスクのツイートが虚偽だったのか、あるいは少なくともミスリードだったのかということだ。SECのルールに照らせば、虚偽発言をしてはいけないし、ミスリードではないと確信させる発表を十分な根拠なしにすることは許されない。マスクのツイートが虚偽、あるいは少なくともミスリードにあたるというのは明らかだろうー会話が予備的なものであったことを考慮してもだ。

「資金は確保した」というのは、この会社を非上場にするために必要なおおよそ700億ドル超をTeslaが持っているということを意味する。実際にはそのような資金は確保されていなかった。サウジ基金と契約合意の期日などの交渉も行われていなかった。もしマスクが資金を調達していたとしても、承認はまた別問題だったはずだ。サウジ基金側はマスクに、投資はTeslaが中東に工場を設立することが条件となるだろう、と話していた。この条件については、少なくともTesla役員の1人は“まったく話にならない”と評している。

何がマスクをそのようなツイートに駆り立てたのか、想像するのはそう難しいことではない。公開企業であることに伴う無数の必要条件が動きの妨げになっていることを彼は歯に衣着せず語っていた。Teslaが5月に行なった収支報告で、マスクはアナリストの質問を“間抜け”“つまらない”呼ばわりした。何年もの間、マスクは空売りに強い不満を示していた。マスクはサウジのTeslaを非上場化するという構想を聞いて、これ以上空売りに悩まされることがなくなると喜んだに違いない。

情報公開がやっかいなのは事実だ。SECに提出する書類一つにしても高給取りの弁護士に作業してもらわなければならない。そうした作業が四半期ごとだったり、材料開発に伴うものだったりと、次から次にあるのだ。SECの対応はゆっくりしたものだ。ツイートを情報公開の形式として認めたのは2013年だ。また、それまでは文字数制限があるツイッターの中でも免責条項はフルに記載しなければならなかったが、2014年にようやくツイートにリンクをはるだけでもよい、となった。

しかしSECのルールにはちゃんとした理由がある。ルールには、企業と株主の間にある情報格差をなくそうという意図がある。そして、公開企業に関わる投資家を保護するという目的もある。マスクはツイートで自分の意図をよく伝えてきたかもしれない。しかしそれで法律をクリアということにはならず、ましてやそれによりTeslaの株式をローラーコースターのように上昇させることがオーケーとなるわけがない。マスクはSECのルールについて要望を述べることはできる。しかしTeslaが株式を公開するずっと前からこれらのルールは公開企業に必須のものだった。流動資産を手にするために株式公開を選んだというのは、マスクとTeslaはルールを承知の上でこれらの取引にサインしたことになる。

わかりやすい先例にする機会を逃した

究極的に、今回のSECの動きで重要なのは、先例をつくるということだ。

SECには、マスクの実にひどい言動を一つの例とするという貴重な機会があった。そのかわり、今回の和解に関するSEC委員長Jay Claytonの声明は、マスクがあまりにもTeslaの中心人物であるがゆえにマスクを異例扱いするというものになってしまった。Claytonは、証券取引法違反の罰則は“企業の将来の繁栄”にとって重要な“特定の個人のスキルとサポート”を考慮する必要があると述べている。

別の言葉で言うと、重要人物であれば見境ない言動をしてもいい、ということのようだ。

マスクは間違いなくTeslaの中心人物だ。しかしそれは、彼がTeslaの全て負う人物でなければならない、ということではない。企業情報を開示する前に承認をとらなければならない法律部門、ポリシー部門を会社が抱えているのはそれなりの理由がある。ツイートする前にそうした部門にいる弁護士に電話をするようマスクに言うのは、大した手間ではなかったはずだ。

企業にとって中心的な役割を担っている役員かどうかに基づくダブルスタンダードを設ける代わりに、SECはマスクを法廷に呼び出し、中心的な役割を担っていない役員と同様のスタンダードを適用することができた。その方法をとっていれば、公平な仲裁人を前に、なぜSECがマスクを告訴するのが“不当”なのかをマスクに語らせることになっていたはずだ。

たとえSECが、Teslaの株主を蚊帳の外に起きながらこの件を長引かせる、ということを避けたかったにしても、少なくとも2つのめ和解案に合意する前にもう少し時間をかけることはできたはずだ。訴訟を続けていれば、告訴から和解までにかかった2日間よりも、強い抑止効果があったかもしれない。和解に至った後のマスクのSECを揶揄するツイートを見る限り、マスクが今回何かを学んだとはとても思えない。

Teslaが抱える大なり小なりの問題へのマスクの絶対的な影響力は、今後も続くだろう。これは究極的には、1人の人物の神聖な言葉による誤った安心感でTesla社内の人をなだめすかせて無力化させる。SECによると、投資銀行のアナリストは、マスクのツイートを受け、Teslaの投資家関係の責任者Martin Viechaに資金について明らかにするよう求めるメールを8月7日に送っている。Viechaは10分もしないうちに返事を送った。「言えるのは、最初のツイートは‘資金は確保した’と言明しているということ。事実、確かなオファーがあった」。

Viechaは実際にはマスク以上に資金が確保されたことを知り得なかった。いや、確かなオファーがあったかどうかも実際には知らなかった。しかしTeslaの社風からして、マスクの発言が社や投資家に損害を引き起こすかもしれない、とViechaに再考を促すことはなかった。

最近ヘッドラインを賑わせているのはマスクだが、他の公開企業のCEOもソーシャルメディアにアカウントを持っている。彼らが何を発言するのかーあるいは発言しないのかーは投資家、そして企業そのものにも同じようにダメージを与えることができる。もしマスクがルールを曲げてもそのまま無傷でいられるのなら、他のCEOが同じような手法をとったときにどうやってそれを阻止できるだろう。マスクとの和解が、マスクのTeslaでの中心的役割によって正当化されるというSECの間接的な容認が、まさしく他のシリコンバレーリーダーたちによるソーシャルメディアでの不適切な言動を正当化する前例となる。

権力を持つ人たちのツイートが刑罰を受けないというのはピンとこないかもしれないが、少なくとも証券取引法に違反するツイートについて公開企業の役員は責任を負うようにしなければならない。ツイートやソーシャルメディアへの投稿は現実世界で社会的重要性を持つ。Teslaの株主は、ソーシャルメディアを使った流し釣りではなく、聡明な科学技術者に金をつぎこんでいる。

今回のマスクのツイートへのSECの対応は、これまでのところ、その点をクリアにする機会を逸している。

イメージクレジット: Joshua Lott / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)