AI活用で途上国医療に新しい仕組み提供へ、東大発医療AIスタートアップのmiupが約1億円を調達

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医療AI技術の研究開発や検査センタービジネスを手がける東大発スタートアップのmiup。同社は11月5日、Beyond Next Venturesを引受先とした第三者割当増資により約1億円を調達したことを明らかにした。

調達した資金を活用し、現在同社が研究開発や事業を展開するバングラデシュで検査センターの拡大、医療機関向けデータ管理システムの開発を加速させる計画。まずは同国内でAIベースの効率的な医療の仕組みの確立を目指していく。

テクノロジーを用いた途上国医療の新しいエコシステム

miupは2015年9月の設立。学生時代から途上国開発の研究に携わっていた代表取締役CEOの酒匂真理氏、AIの専門家であり現在は東京大学医科学研究所で助教も務める共同研究者の長谷川嵩矩氏、CTOの山田智之氏が集まって立ち上げたスタートアップだ。

もともと酒匂氏と長谷川氏は大学時代の同級生。酒匂氏は外資系消費材メーカーを経てバングラデシュへ渡り、現地のコンサルティング会社に勤務するなど経験を積んだ。一方の長谷川氏も自身の研究を進め、博士課程卒業後には大学の助教に就任。お互いが各々の分野で腕を磨く中で、かつて話していた「途上国医療分野でテクノロジーを活用した新しい仕組みを作るアイデア」を実現すべく、miupを立ち上げることを決めた。

その後すぐにゲノム情報解析サービスや医療システムインテグレーションを手がけるGenomediaの創業者である山田氏がCTOとして参画。現在は医療現場を知る医師や、バングラデシュで事業経験のあるメンバーも加わっている。

そんなmiupが取り組んでいるのは、AIやICTを活用した医療技術の研究開発だ。酒匂氏がmiupを通じて実現したいと話すのが「健康に関するデータを用いた、効率のいい医療のエコシステム」を作ること。具体的な症状が出る前に利用できる検診サービスや、症状が出た後に用いる問診AIシステム、遠隔での医療を実現するビデオチャットなどの開発・研究に取り組んできた。

当初から基礎研究を進めている問診AIについては、バングラデシュの農村部エリアでJICAやコニカミノルタ、現地の病院などと共に実証実験を実施している。このシステムは「3日前から腹痛が続いている」などの症状を問診すると、可能性の高い疾患や適切な薬剤を示唆するというものだ。

特に同国の農村部では1万5000人の住民に対して医師が1人しかいないと言われるほど、その数にギャップがある。一方でジェネリック医薬品を多く生産していることもあり、薬自体は安価に手に入れられる環境。そのため多くの人が近くの薬店で処方箋なしに薬を購入しているのが実態で、結果的に間違った薬が販売されたり、抗生物質が過剰になるなどの課題を引き起こしてしまっているという。

この課題に対して専門知識を持った人材を育てるだけではコストもかかりカバーしきれない。そこでAIやICTを使ったシステムを活用し、個々人に合った医療をより効率的に提供できないか、というのがmiupのアイデアだ。ただしこれを実用化していくには「実証実験を重ねたり論文を執筆したりすることを通じて、ある程度オーソライズされた状態を作らないと難しい」そう。そのため現状では研究開発という形で実績を積んでいる。

農村部とは異なる、都市部における医療ニーズ

その反面、検診や遠隔医療については一部すでに事業化をしているものもある。こちらは農村部ではなく、都心部のミドル層以上の人々に対して「遠隔医療とデリバリー式の検診を組み合わせたようなサービス」をローンチ済みだ。

同サービスでは看護師のように注射をしたり、ラボでの業務を担当したりできる資格を持った技師をユーザーの自宅や会社に派遣。血液の採取やX線撮影などを実施する。その結果を別途医師がチェックし、後日メールなどで共有するほか、ユーザーが希望すればビデオチャットや電話を通じて遠隔で医師と話すことも可能だ。

酒匂氏によると都市部では渋滞がすごいため「フードデリバリーが1番人気のあるサービス」なのだそう。ミドル層以上にとっても医者という存在は遠く、自分の健康状態を気軽に知れる手段も確立されていないので、デリバリー式の検診サービスはニーズがあるのだという。

検査センターの立ち上げと医療機関向けシステムの開発を加速

もちろんmiupではこれらの事業や研究開発プロジェクトに引き続き力を入れていくのだけれど、今回調達した資金は主に検査センターの拡大と医療機関向けのデータ管理システムの開発に用いる計画。この2つは上述した「データを基にした医療のエコシステム」を実現する上では不可欠な要素だ。

「自社で検査用のラボを開設し仕組みを整えたところ、他の医療機関からもラボを作って欲しいという依頼が来るようになった。これは実データをしっかりと蓄積していくという観点でも重要。検査センターの検査手順がいい加減だと、有用なデータを集められない。(ラボを自分たちで拡大していくことで)AIに本質的なデータを学習させるための環境を作ることができる」(酒匂氏)

また現地の医療機関では電子カルテなどもまだほとんど普及していない状況で、患者のデータをしっかりと管理する仕組みにもニーズがあるそう。そのためのデータ管理システムを合わせて開発・提供していくことで、医療機関側の要望に応えながらデータを集めていくことができるというわけだ。

「症状が出る前の検査や、症状が出た後の問診についてはすでに取り組んできたが、実際に『病院でどんな診察や手術をされたのか』というデータは抑えられていない。ここを抑えることで日々の健康状態から病院での診断データまでを収集・解析し、より個人個人に最適化した医療の仕組みを実現していきたい」(酒匂氏)

蓄積したデータや、それを活用したシステムは他国へ展開できる可能性もあるだろう。それも見据えて、まずはバングラデシュにおいて「医療データおよび医療ネットワークリーチNo. 1の存在を目指す」という。