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メトロウェザー

京大発の“大気計測技術”でドローンの安全運航を支援、メトロウェザーが2.2億円を調達

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日本郵便が11月7日から福島の一部地域で始めた“ドローンによる郵便局間輸送”が、国内初の目視外飛行ということもあり話題を呼んだ。

近年、物流を始めインフラ点検や測量、農業など人手不足が深刻化する業界においてドローンが注目を集めている。日本郵便のケースでは約9km離れた郵便局間を2kg以内の荷物を積んだドローンが行き来するというものだけれど、従来は人が担っていた役割をドローンと分担する事例が徐々に増えていきそうだ。

このように今後様々な領域でドローンが活躍していくことを見据えた際、大前提となるのが「ドローンが安全に運航できる」こと。特にドローンが飛行する地上付近は風の影響を強く受けるため、その状況を高精度に観測する技術が欠かせない。

今回紹介するメトロウェザーは、まさに京都大学の研究をベースとした大気計測装置によってドローンの安全運航を支えようとしているスタートアップだ。

同社は11月19日、Drone Fund、リアルテックファンド、個人投資家を割当先とする第三者割当増資とNEDOからの助成金により、総額で2.2億円を調達したことを明らかにした。

通り1本ごとの風の乱れも測定する技術

メトロウェザーは2015年の設立。京都大学で気象レーダーを用いた乱気流の検出・予測技術の研究開発などを行なっていた代表取締役CEOの東邦昭氏と、京都大学生存圏研究所助教の古本淳一氏が2人で立ち上げた。

現在同社ではリモート・センシング技術と信号処理技術を基に、上空や海上における風の情報を高精度に測定する独自のドップラー・ライダーを開発している。

ドップラー・ライダーとは光を使って大気を測るシステムだ。具体的にはレーザー光を大気中に発射。その光がPM2.5などの微粒子に当たりドップラー・シフトして返ってくる(反射してくる)ものを受信し、風の情報に焼き直す。微粒子は風に乗って動いているため、ドップラー・シフトを見ることで風の動きもわかる仕組みだ。

東氏によると気象学においては高層大気の研究が比較的進んでいる一方で、ドローンが飛ぶような低層大気においては未解明な部分が多かったのだという。これは「低いところの方が建物や橋など障害物の影響を受けやすく難易度が高いから」で、難しいからこそ低層大気の状況を測定できる技術にはニーズがある。

たとえばゲリラ豪雨の予測など都市の防災や洋上風力発電事業を検討する際の風況観測、航空機の安全運航などいろいろな用途で使えるそう。ドローンもその一例だ。ドップラー・ライダーはビルの影や橋のたもとなど至る所で発生している風の乱れを測れるため、ドローンの安全運航をサポートするシステムにもなりうる。

ここで付け加えておくと、何もドップラー・ライダー自体は新しい技術というわけではない。すでに製品化されているものだ。ただし古本氏が「価格が高く、1台で約1億円するものもある」と話すようにコスト面がネックになっていたことに加え、サイズもより小型化できる余地があった。

「自分たちはライダーをばら撒きたいと考えている。そのためには価格を数百万円までに抑え、ビルの屋上に置けるようなコンパクトなものを作らなければならない」(東氏)

特にドローンとの関係においては、この“ばら撒く”というのが大きなポイントになるそう。たとえば都市部の複数のビルに、複数のライダーを設置することで「通り1本ごとの風の乱れまで細かく把握できるようになる」(古本氏)からだ。

出発点は野球場1個分の大型レーダーから

この点については今回Drone Fund代表パートナーの大前創希氏にも話を聞けたのだけれど、やはり低空領域の気象状況を高い解像度で、かつ即時に測定できることが重要なのだという。

「都市部で高層ビルの間をドローンが飛べるようにするには、そもそも高層ビルの間の気象状況を細かく把握できないとどうにもならない。そのためにはライダーを1台置けばいいというものではなく、複数台設置していくことが必要だ。1億円のライダーをポンポン設置するのはハードルが高いが、数百万円なら可能。だからこそ価格を下げられる技術を持ったチームであることが重要になる」(大前氏)

メトロウェザーの強みはかねてから研究を重ねてきた信号処理技術にある。もともとレーダーを用いてノイズだらけの状態から有益なデータを取得する研究をしてきたため“ノイズを取り除く技術”が高い。結果として弱いレーザーからもしっかりとしたデータがとれるので、低価格や小型化も実現できうるのだという。

ここに至るまでの歴史を紐解くと、メトロウェザーのチームはものすごく大きなレーダーの施設からデータを収集しつつ、どんどんサイズを小さくしていった経緯があるそう。東氏曰く「出発点は野球場1個分の大型レーダー」から。古本氏がコアとなっている技術の研究を始めたのは約20年前、東氏がポスドクとして古本氏の研究室に加わってからでも約10年が経つ。

今はレーダーからライダーに変わってはいるものの、長年の研究で培った技術やノウハウは変わらず活かされている。

ゆくゆくはライダーを作る会社から、データを扱う会社へ

左からDrone Fund最高公共政策責任者の高橋伸太郎氏、 Drone Fund代表パートナーの千葉功太郎氏、メトロウェザー 代表取締役CEOの東邦昭氏、 同社取締役の古本淳一氏、リアルテックファンドの木下太郎氏

同社のプロダクトは日常生活において多くの人が直接触れるようなものではないけれど、ドローンが安全に飛ぶためのインフラとして重要な役割を担う。Drone Fundで最高公共政策責任者を務める高橋伸太郎氏も「今後ドローンが社会的な課題解決ツールとしていろいろな場面で活用されていく中で、気象状況を把握できる技術は絶対になくてはならない存在」だと話す。

「レベル3、4の物流や広域災害調査を実現する上では『いかに気象状況を把握して安全なフライトプランを立てられるか』が重要だ(レベル3は無人地帯での、レベル4は有人地帯での目視外飛行)。そういった所でメトロウェザーの情報が必要になる。さらに先の未来の話をすると、空飛ぶクルマが人を運ぶようなエアモビリティ社会においても、低高度における天気の情報は不可欠だ」(高橋氏)

メトロウェザーでは、今年から来年にかけてまず洋上風力発電領域での利用を見据えたハイスペックなドップラー・ライダーを提供していく計画。並行して、調達した資金を基に小型の試作機作りにも取り組む。

将来的に製品化が進んだ先には「ドローンの飛ぶところを一網打尽にしたい。データを網羅的に確保してドローンが安全に飛べて、堕ちない社会の実現を目指していく」(古本氏)方針だ。

「(ライダーをばら巻くことができたら)メトロウェザーはライダーを作る会社から、だんだんとデータを扱う会社に変わっていき、データビジネスを展開するようになると考えている。たとえばドローンを運航する人に対してリアルタイムに風の情報を提供したり、ドローンの管制をする人にも同じような場を提供したり。今までは測定が難しかった低層領域の風のデータを扱うことで、ドローン前提社会に貢献していきたい」(東氏)