入居申込から契約まで完結、不動産業務基盤「キマRoom! Sign」にIT重説・電子契約の新機能

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「不動産業界はアナログで、紙の書類・FAX・電話が好き、というイメージがあるが、あれは全部“ウソ”。なるべくしてなった“必然”なんです」広島発の不動産テックスタートアップ、セイルボート代表取締役の西野量氏は、そう切り出した。

「不動産業界、特に賃貸物件では、管理会社と仲介業者の間で、契約が決まるまでの間に情報のやり取りが数多く発生する。しかも、そのキャッチボールは無数の仲介業者との間で行われる。相手ありきの自己完結しない業界。そのことがローテクに寄る理由です」(西野氏)

大家、管理会社には自分で借主を見つける手段はない。そこで管理会社は何軒もの仲介業者と、物件の空き状況確認から始まり、内覧の可否伝達や条件交渉など、契約までやり取りを重ねる。だが、キャッチボールの方法は相手である仲介業者に委ねることになる。そこで選択されるのは、どんな業者でも最大公約数的に使える、最も“枯れた”テクノロジー、すなわち「紙・FAX・電話」にどうしても偏ってしまうのだと西野氏はいう。

仲介業者も巻き込んで使えるプラットフォームを作りたい。1つのプラットフォームの中で、入居申込から契約まで、やり取りを完結したい。そうした西野氏の思いから誕生したのが、不動産業務の電子プラットフォーム「キマRoom! Sign(キマルームサイン)」だ。

このキマRoom! Signに11月27日、「IT重説」(ITを活用した重要事項説明)と電子契約の機能が加わった。IT重説とは、それまで義務とされていた、対面での賃貸契約の重要事項説明がオンラインでも行えるようになったもの。2017年10月に本格運用が始まり、テレビ会議システムなどを使った説明が各社で始まっているが、1つのシステムで入居申込・IT重説・契約の3つの業務を行えるのは、日本では初だという。

「システム連携があってこそ不動産業界の電子化は進む」

キマRoom! Signが公開されたのは、2017年8月のことだ。このときには、入居の電子申込機能が先行してリリースされた。

仲介業者は入居希望者に、タブレット端末への手書き入力で入居申込に記入してもらう。記入するとリアルタイムでテキストデータ化されるので、その場で電子化された内容が確認ができ、データの再入力の手間や誤転記などの心配もない。

仲介店舗で記入したデータは直接、管理会社へ送信される。従来の紙と同じフォーマットで、手書き文字が記入されたPDFも送信可能だ。印刷すれば紙で保存できるし、FAXしか受け取れない相手にはFAXで送信もできる。西野氏は「一斉に取引先全部が導入してくれるわけではない以上、どうしても紙でのやり取りは残る。従来の業務を電子化しながら、運用に乗せることを重視している」と話す。

サービス公開から1年経ち、今年の11月5日には家賃保証会社、少額短期保険・火災保険会社、付帯サービスといった“不動産周辺業種”の各社とのデータ連携を実現する「キマRoom! Sign コネクト」がリリースされた。APIを提供することで、周辺業種での審査や契約もスムーズに行えるようになる。

西野氏は「不動産会社が業務過多となっているのは、契約主体の貸主と借主だけでなく、関係する第三者も多いから」と、API提供による業界の枠を超えた連携を進めた理由についても述べている。

「せっかく契約が電子的に一気通貫でできるようになったとしても、家賃保証や火災保険、かけつけサービスなどの付帯サービスの申込はまた別の紙で、となっていたら、意味がない。周辺業種も含めた全体でやらないと、電子化は浸透しない」(西野氏)

そしてキマRoom! Signは今回、IT重説・電子契約機能が追加されたことで、申込から契約までのフローを一気通貫で完結することが可能となった。

西野氏は「重要事項説明のみオンラインでできたとしても、説明を確認したことを示す書面はどうするのか。契約は紙・郵送のまま、というのでは、そこからまた書類を返送してもらって、大家さんに送って……となって時間もかかるし、確認の手間も減らず、電子化・効率化は進まない」と機能追加の意図について話している。

前述したとおり、IT重説ではテレビ会議の仕組みを活用して各社工夫もされているようだ。また電子契約の仕組みでは、「クラウドサイン」や「DocuSign」などの汎用的なものもある。だが西野氏は「電子化とは単に紙をデータに置き換えるということではなく、システム連携があってこそ」と不動産賃貸業務に特化した、キマRoom! Signのメリットを説明する。「契約に至るまでのキャッチボールの間に、紙や手入力の業務が入らずに済むようにするためには、システム連携も必要なんです」(西野氏)

保証人や仲介業者も含めた契約プレイヤーが多いために、書類の転送だけでも時間がかかる不動産賃貸契約では、電子化することで締結までのタームを短くすることも期待できる、と西野氏。IT重説と電子契約なら、借主も仲介店舗に出向く必要がなく、スマートフォンを使って、すきま時間で重要事項の確認と契約が完了できるため、時間の節約にもなる。

さらに、これまでは今、何件の申込が契約までのどの段階にあるのか、不動産会社がステータスを一覧することは困難だった。それがキマRoom! Signでは、「社内審査中」「審査OKで契約待ち」など、ステータスが見える化されるため、契約件数などの目標に対する進捗管理もやりやすくなる。

キマRoom! Signの料金体系は、書類を電子化するための初期費用が1書式あたり5万円、月額費用は基本料1万円(店舗など1拠点あたり)。それに申込1件につき300円〜500円の従量課金が加わる(いずれも税抜価格)。金額については「書類の送付コストを意識した」と西野氏は言う。「契約書類を対面受取で1回送付するのに約500円。それを貸主・借主と会社との間で、返送プラス往復で3回は使うと考えれば、その3分の1の費用で利用できる。業務効率という見えないコストよりは、書類のデリバリーコストが節約できると考えてもらえれば、分かりやすいと思って」(西野氏)

「5年後には電子化が進んだ業界と言われるようになる」

セイルボートは2010年の設立。広島・岡山の物件を中心に紹介する、不動産業者間の物件情報検索ポータル「キマRoom!」を運営し、2014年3月には広島ベンチャーキャピタルから3000万円の資金調達を実施している。

その後、物件検索では不動産流通機構(レインズ)のオンラインシステムの浸透もあって苦戦。不動産流通のフローの中でテクノロジーを生かせる領域を探していた西野氏は、「物件確認」や「VR内見」、「スマートロックによる内見自動化」といったサービスは既にあるものの、「入居申込」「契約」の部分ががら空きだと気づく。こうして、申込から契約までをシームレスにカバーする、不動産業界向けのデジタルソリューションの提供に注力することとなった。

そして2017年8月に、キマRoom! Signをリリース。2018年11月にはリログループの子会社リロケーション・ジャパンと既存株主の広島ベンチャーキャピタルから合計約2億円の資金調達を実施した。

「不動産業界は、例えば飲食業界などに比べれば、エンドユーザーである借主の利用頻度も低く、非日常の世界。それだけにカスタマー最適化が構造的に進まない分野です。そこを、頻度高く利用する仲介業者や管理会社をユーザーとしたマーケットインで考えることで、カスタマー最適化を進め、電子化を推進したい」と西野氏は語る。

キマRoom! SignのIT重説・電子契約機能は、大手不動産会社から徐々に導入を進める、と西野氏。「日本の不動産会社は13万社ある。5000戸以上を管理する大手企業は、そのうち約250社。この250社で日本の半分の物件を管理している。2020年度には、この250社にサービスを浸透させたい。そうしていくうち、5年後には不動産業界が『電子化が進んだ業界』と言われるようになるのではないか」と今後の見通しについて述べていた。

セイルボート代表取締役 西野量氏