IssueHunt

オープンソースの貢献者が報われる文化を——報賞金サービス「IssueHunt」運営が1億円を資金調達

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オープンソースプロジェクトの多くは、コードの改良(メンテナンス)を行うメンテナーの無償の働きにより維持されている。世界中のIT企業がオープンソースを利用して開発を行っているにもかかわらず、そのことは称賛されるどころか、あまり意識されることもない。なんなら「いいコードが“無料”で“落ちていた”」という扱いを受けていることさえある。

「世の中へ素晴らしい貢献をしてくれている彼・彼女らに、何か恩返しができないだろうか」オープンソースプロジェクトの貢献者へのこうした思いから、報賞金サービス「IssueHunt(イシューハント)」がリリースされたのは、今年6月20日のことだ。

そのIssueHuntを運営するBoostIO(ブーストアイオー)が12月3日、総額約1億円の資金調達を実施したと発表した。第三者割当増資の引受先は、ベンチャーキャピタルのANRINOWと以下の個人投資家たちだ。

  • LayerX CEO 福島良典氏(Gunosy 元CEO)
  • DMM.com CTO 松本勇気氏
  • Increments 代表取締役 海野弘成氏
  • 中川綾太郎氏
  • 古川健介氏
  • メルカリ 木下慶氏
  • Progate 代表取締役 加藤將倫氏
  • Cryptoeconomics Lab Co-founder CTO 落合渉悟氏
  • 非公開1名

IssueHuntは、GitHubのリポジトリ(プロジェクトのデータベース)に上げられたイシュー(課題、バグ報告など)に対して、誰でも好きな額を報賞金として「投げ銭」できるサービスだ。リポジトリのオーナーは自分が管理するリポジトリを指定することで、IssueHunt上にイシューを自動的にインポートすることが可能。ソースを利用するユーザーに投げ銭を依頼したり、コード改良などの貢献を求めたりできる。

報賞金付きのイシューに対して改良を行ったユーザー(コントリビューター)がプルリクエスト(レビュー・反映依頼)を行い、コードレビューを経て反映が完了すると報賞金がもらえる。金額のうち10%をBoostIOが手数料として、20%をリポジトリのオーナーが受け取り、残りの額をコントリビューターが受け取ることができる。

リリース後半年ほどだが、既に150カ国以上のユーザーがIssueHuntを利用。Alibabaの有志が開発するAnt Designや、もとはIntelで開発されていたNW.js(node-webkit)、Googleのマテリアルデザイン実装のためのReactコンポーネントを提供するMATERIAL-UIといった有名なオープンソースプロジェクトも参加している。

BoostIO代表取締役CEOの横溝一将氏は「有名プロジェクトの参加が信用の担保になっている」と好調の理由を分析。現在、約90%が国外のユーザーであり、また自分でオープンソースソフトウェアを開発するような、レベルの高いユーザーが多いそうだ。

オープンソースの世界でも開発者の貢献に応える文化を作る

“オープンソースのメンテナーたちは疲れ果てて、支払いを受けることも稀である。新世代にむけて経済を変えていこう。”
TechCrunch Japan記事「オープンソースの持続可能性」より

横溝氏はこの記事の内容に触れ、「共感しかない」とコメント。「オープンソースの環境は持続可能性に欠ける。無償ボランティアを超えて、貢献者に報酬が行き渡らないと続いていかない」と述べている。

「オープンソースソフトウェアの多くが無償のボランティアで作られている。でもそれらのソフトウェアは、いつの間にかあった、とか、機械が自動的に作っている、というわけではなくて、誰かが時間を使って、クリエイティビティや労働力をつぎ込んでいるんです」(横溝氏)

横溝氏は2014年、大学在学中に福岡で起業した。当初は受託でシステム開発を行っていたが、2016年4月にプログラマ向けのEvernoteライクな開発アプリ「Boostnote(ブーストノート)」を公開。このBoostnoteを2年ほど、オープンソースで運用したことが、IssueHunt誕生のきっかけとなった。

Boostnoteはプログラマのためのノートアプリであり、200以上の国と地域で使われているが、そのプロダクトは開発者コミュニティに支えられている。「コミュニティでイシューを上げて改修してもらうことで、とてもよいプロダクトになった」と横溝氏は言う。

今ではコアチームが開発に関わることはほとんどなく、コミュニティ主体で運営が行われているBoostnote。その体験から「貢献者にお返しができていないことを、心苦しく思っていた」と横溝氏はいう。そのBoostnoteの貢献者のために作られた報賞金プログラムが、IssueHuntの原型だった。

報賞金プログラムを開始して1週間で、レビューが追いつかないほどのプルリクエストが届くようになったというBoostnote。「これはオープンソースのエコシステムが抱える課題を解決できるのでは」との考えから、IssueHuntがスタートすることになった。

IssueHuntに登録されているプロジェクト数は、今は数百程度で、横溝氏は「まだまだ」とさらなるサービス浸透を狙う。

「IssueHuntは、オープンソースソフトウェア開発者の貢献に応える、という文化を作っていくプロダクト。だからそう簡単には利用は拡大しないとは思っているけれども、どんどん参加を増やしていきたい。1年半後には、オープンソースの開発者なら誰でも聞いたことがあるサービスに、3年後には、みんなが使っているという状況を目指したい」(横溝氏)

横溝氏は、日本のオープンソース環境についても課題感を持っている。「オープンソースプロジェクトに貢献する開発者が少ない。その理由のひとつは英語力。でも意外と壁は高くないんです。それを開発者に伝えるのも我々の務め。ミートアップや学校と連携したハッカソンなどを開催していこうと考えています」(横溝氏)

オープンソースへの貢献が少ない、もうひとつの理由として横溝氏は「隠したがること」とプログラミング文化、意識の違いを挙げる。「組織に所属するエンジニアなどは特にそうだが、隠しておく方が自分や組織のためになる、得をする、という考えが強い。これについてもオープンソースのメリットを啓蒙して、IssueHuntが先駆者となる開発者を作る土台になれば、と思っています」(横溝氏)

そうした啓蒙の取り組みの一つとして、12月1日からスタートしたのが、オンラインイベント「IssueHunt Fest 2018」だ。世界中のオープンソースプロジェクトを対象に、IssueHuntを通じてスポンサードを12月25日までの約1カ月間行う。

「企業のオープンソースに対する寄付貢献を一般化したい」ということで、今回初めて開催されるイベントだが、Microsoft、LINE、メルカリ、Framgia、Cryptoeconomics Labをはじめとした企業がスポンサーとして参加。今後、毎年12月・4月の約1カ月、それぞれ定期的に実施していく予定だという。

参加した開発者には、貢献度に応じて、例えば「プルリク3件以上でステッカーを送付」とか「上位10人にはTシャツをプレゼント」といった特典も予定されているそうだ。

海外では、オープンソースであっても商用ユーザー向けにはライセンスが発行できるというサービス「License Zero」や、プロジェクト支援のプラットフォーム「Open Collective」などが既に提供されている。「企業がオープンソースに寄付をするという文化がある。それを日本にも根付かせたい」と横溝氏は話している。

さらに横溝氏は、JavaScriptコンパイラのBabelなど、現在は世界中でも片手ほどしかいない専業のオープンソース開発者を「1万人ぐらいにしたい」と意気込みを語る。「開発者が、オープンソースへの貢献だけでも生活が担保されるようなきっかけを作りたい」と述べている。

「BoostIOのミッションは“才能だけで正当な評価が行われるようにする”こと」そう話す横溝氏。今回の調達資金は「マーケティングなどへの投資ではなく、オープンソースを持続可能にするためのチャレンジに使う」という。

「投資というよりは、コミュニティに還元したい。世界中でカンファレンスを開くことも考えていて、2019年4月にも開催を予定している。またBoostIOのチームは世界中に散らばっているので、世界で採用を進めるつもり。例えばオープンソース専業の開発者を企業として雇用する、といったことも考えている」(横溝氏)

「日本企業がオープンソースを支えるためにお金で貢献できるような文化を作る。オープンソースに貢献する会社がクールだと思われ、それが当たり前だと思われるような文化にしたい」と横溝氏は語る。

BoostIO代表取締役CEOの横溝一将氏