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日本のスタートアップ成長に重要な5つの要素とは——Plug and Play SHIBUYA開設から1年

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シリコンバレー発のアクセラレーターPlug and Playが日本法人を設立し、国内での活動を本格化したのは2017年9月のこと。それから1年が経ち、彼らが年2回実施するアクセラレーションプログラムも「Batch 0」「Batch 1」の2期が完了した。現在は59社のスタートアップが参加する「Batch 2」が走っているところだ。

12月4日、東京・渋谷のコワーキングスペース「Plug and Play Shibuya」で開催された「メディアラウンドテーブル」では、Plug and Playが日本のスタートアップ成長に向けて考えていること、そしてBatch 1参加企業2社の成果と、Batch 2採択企業1社の現状についても紹介があったのでお伝えしたい。

日本でイノベーションを進めるために大切な5つの要素

Plug and Playは、2006年の創立から2000社を超える企業を支援し、70億ドルを超える資金調達を達成しているアクセラレーター・投資家だ。米・シリコンバレーに本拠地を置き、全世界26カ所にオフィスを構えるPlug and Playは、スタートアップを中心にしたエコシステムを形成を目指し、14にわたる幅広いテーマのそれぞれでアクセラレーションプログラムを実施している。

Plug and Play Japan代表 マネージングパートナー フィリップ・ヴィンセント氏

Plug and Play Japanの代表でマネージングパートナーのフィリップ・ヴィンセント氏は、まず世界のスタートアップエコシステムの状況を紹介。各国のPlug and Playの拠点の中でも、特にエコシステムがうまく発展している地域の特徴を紹介した。

ドイツではシュトゥットガルト、ベルリン、ミュンヘンに拠点があるが、このうち2016年に開設されたシュトゥットガルトの「Startup Autobahn」はクルマ、交通に関連したモビリティを対象領域とする。パートナー企業にはダイムラー、メルセデスベンツなどが参加している。

ヴィンセント氏は「ここでは、パートナー企業が大企業として乗り込むのではなく、カルチャーをスタートアップに合わせて一緒にイノベーションに取り組むことが、成果につながっている」と話す。シュトゥットガルト大学キャンパス内の研究開発施設「ARENA2036」内に拠点を置くことで、大学とも企業ともコラボレーションが可能になっているそうだ。

続いて紹介されたシンガポールでは、2010年からプログラムが開始されている。金融・保険、モビリティ、旅行・観光、サプライチェーンが対象領域のシンガポールでは、マリーナベイに近いCentennial Towerとシンガポール国立大学近くに位置するBlock 71が拠点となっている。

Block 71は、250社のスタートアップが参加し、複数のインキュベーターやアクセラレーター、VCも参画する、スタートアップハブ、起業家のためのコミュニティだ。ヴィンセント氏は「シンガポールでは大学との連携が強い」という。またシンガポールでは、政策でスタートアップ支援が強く打ち出されていることから、政府との連携も行われているということだった。

パリではフィンテックと流通領域を対象に活動する2拠点が、いずれも2016年に開設された。このうち主にフィンテックを扱う「BNP Paribas-Plug and Play」は、2017年の夏にオープンした3万4000平方メートルの広大なインキュベーション施設Station Fを利用している。大きな一つの屋根の下で、起業家同士のコラボレーションも生まれやすい環境のStation Fには、約3000社のスタートアップが入居でき、20〜30のアクセラレーションプログラムが実行されている(Station F オープン時のTechCrunchのレポート)。

フランスでは政府のイノベーション推進施策により、海外から起業のためにフランスに移住する人のためのFrench Tech Ticketや、テック系人材とその家族のためのFrench Tech Visaといった特別なビザプログラムが用意されている。また政府の後押しを受けた、スタートアップエコシステム醸成のためのイニシアチブ「La FRENCH TECH」もある。

最後に紹介されたのは中国だ。北京、上海、深圳など、中国にはPlug and Playの拠点は8カ所あり、近いうちに10拠点に増える計画だ。中国でも政府がスタートアップエコシステムを力強くプッシュしている。また、スタートアップへの投資は中国が世界の半分を占めており、今では、評価額10億ドル以上のユニコーン企業の数が米国より多くなっているという。

さて、翻って日本の状況はどうだろうか。

日本でPlug and Playは、フィンテック、IoT、保険、モビリティの4領域でプログラムを実施。2019年春からはブランド・流通のエリアもカバーしていくことになっている。

ヴィンセント氏は、日本のスタートアップの成長、イノベーションが進むために大事なこととして、以下の5つの要素を挙げた。

1つめは「カルチャーとマインドセット」。社会や企業のイノベーションへの積極性や、パートナーとなる企業がスタートアップと対等に、スピード感を持って、柔軟に対応できるかどうかがカギになる、とヴィンセント氏はいう。「日本でも、社会がスタートアップを見る目が変えられるかどうかが大事になってくる」(ヴィンセント氏)

2つめは「政府の後押し」。ただし一方的に関与しすぎるのも良くないようで、ヴィンセント氏は「関わるも関わらないもバランス良くあることが大切」と話していた。「政府が民間同士、スタートアップ同士の横の連携を作ることを勧めてくれて、(フランスのように)海外からの参画もしやすいのが理想だ」(ヴィンセント氏)

3つめは「教育と大学」。ヴィンセント氏は「CTOではなく、CEOを増やす教育が必要」という。また「海外へ飛んで学ぶためのプログラムも重要だ」とも述べている。

4つめは「先進的な考えを持つ企業」。大企業のコミットメントが得られるかどうかは、スタートアップエコシステムが育つための大切なファクターとなる、とヴィンセント氏は話す。

最後の5つめは「アクセラレーターや支援者」の存在だ。「スタートアップをサポートする会社が増えることが、エコシステムの醸成には欠かせない」(ヴィンセント氏)

SynchroLife「大企業へのイメージが180度変わった」

続いてBatch 1参加企業2社から成果の発表と、Batch 2採択企業1社から現状のレポートがあった。

まずはBatch 1に参加したスタートアップGINKANと、パートナー企業・東急不動産による実証実験の事例が紹介された。

GINKANは、グルメSNSアプリ「SynchroLife(シンクロライフ)」を提供している(過去紹介記事)。GINKAN創業者でCEOの神谷友愛氏は「SynchroLifeは良い体験を発信するSNSとAIにより、ハズレなしのお店を提案するアプリだ」と説明している。現在4カ国語に対応、17万件以上のレビューが掲載されている。

SynchroLifeでは、ブロックチェーンを活用したトークンエコノミーを取り入れ、良質なグルメレビュアーにはトークン(仮想通貨)で報酬が付与される。また、飲食代金からの還元リワードをトークンで発行。来店を促すマーケティングに利用できる仕組みとなっている。

飲食店は、タブレット端末に加盟店向けアプリを導入。初期費用・月額料金なしで、売上の3%を支払う完全成功報酬型でサービスを利用できる。利用客であるユーザーは、支払い時にアプリで飲食店から提示されるQRコードを読み取ることで、食事代金の1%以上相当のトークンを還元してもらえる。

実証実験はこのリワードの部分について検証するものだ。東急不動産の協力により、2018年9月〜10月の1カ月間、東急プラザ銀座のレストラン21店舗で実験が行われた。

GINKAN CEO 神谷友愛氏

実証実験では、QRコードを使って飲食代金の3%分の暗号通貨をユーザーに還元。ユーザーエクスペリエンスおよび店舗のオペレーション負荷を検証した。還元は10秒で完了でき、障害もなかったということだった。

また、レストラン開拓インフルエンサー送客による、グルメSNSとしてのマーケティング効果の部分の検証では、来店者の投稿の92%が高評価に。投稿数の増加に伴って来店客数も向上しており、SNSの特徴である「良い体験」が「来店」に影響した、と神谷氏は分析する。

Plug and Play Batch 1と実証実験で学んだこととして、神谷氏は「3カ月という短いBatch期間でキッカケの創出と、期間目標のコミットができたことで、Plug and Play Japanの強力な“お見合い力”を実感した。また東急不動産との実験取り組みで、大企業へのイメージが180度変わった。(SynchroLifeという)プロダクトでビジネスをまだしたことがなかった僕たちが、いきなり東急不動産と組めるというのはすごい経験だ」と話している。

また、ビジネス上の課題認識の一致が重要であるとして「実証実験は結果ではなく、過程だとあらためて認識した」とも述べていた。

一方、パートナーとしてGINKANを支援した東急不動産。渋谷で次世代のビジネス共創を目指し、2020年に向けて100のビジネス創出を目指すプロジェクト「SHIBUYAスタートアップ100」を立ち上げて、スタートアップを支援。その一環として、2017年11月にはPlug and Playとともに渋谷にインキュベーション施設を開設した。

東急不動産 都市事業ユニット 事業戦略部の伊藤英俊氏によれば、インフラとしての施設提供のほか、スタートアップとの事業連携も20社が確定しており、近く30社になる見込みとのこと。GINKANとはPlug and Playを通じて、Fintechパートナーとして組むことになった。

「QRコードで暗号通貨を付与するという新しい試みと、SNSマーケティングで集客できるのかという実務の部分でともに検証を行った。今後、実際の導入へと進みたい」(伊藤氏)

伊藤氏は、Plug and Playでのパートナーシップと実証実験が成功したポイントを3つ挙げている。「1つはプロダクトや事業について、具体的なイメージの共有ができたこと。2つめはリアルな場での交流があること。そして、相手の時間を大切に考えられるカルチャーだ」(伊藤氏)

Batch 1での取り組みでは、最終的に「経緯、信頼、そして両者の情熱と覚悟が噛み合った」と手応えを感じている伊藤氏。Batch 2でも既に複数社との取り組みが検討されているとのことで、「Batch 0、Batch 1からの継続案件の具現化も進める。また渋谷区や東京都とのパイプも生かし、行政とも適度な距離感を持ちつつ、いろいろ調整して支援を進めたい」と話していた。

Trillium「世界に羽ばたくスタートアップにとっていい場だ」

Batch 1採択企業からはもう1社、モビリティ関連スタートアップTrilliumの事例が紹介された。

Trilliumは2014年の設立。米国カリフォルニア州サニーベールにあるTrillium本社は、シリコンバレーのPlug and Playから支援を受けており、東京でもBatch 1に参加することになった。Trilliumでは、ほかにも世界各地のPlug and Playでプログラムに参加している。またTechCrunch Disrupt Berlin 2017のStartup Battlefieldではピッチも披露している(英文記事)。

Trillium日本法人 執行役員 事業開発部長 山本幸裕氏

Trilliumが提供するのは、モビリティに対するサイバー攻撃に対抗するセキュリティ、特にコネクテッドカーのサイバーセキュリティソリューションだ。

日本のTrilliumで執行役員 事業開発部長を務める山本幸裕氏は「OBD 2(自動車の自己診断機能の規格)やWiFi、Bluetoothなどを通じてネットワークに接続されたクルマは、外部から無線でハッキングが可能だ」と説明する。

「現状、既にハッキングは行われている。今のところは、メーカーからの報賞金やエンジニアとしての売り込みによる雇用を目的にしたホワイトハッカーが多いが、より悪意を持った動作を目的としたブラックハッカーも出てくる可能性が大きい」(山本氏)

さらに、「以前に比べてクルマの寿命が延びたことにより、発売当初のクルマが最新のセキュリティで守られていたとしても、ハッキングの進化により乗っ取りがいずれ可能になるという面もある」と山本氏は指摘する。

Trilliumでは、サイバー脅威からクルマを守るためのソフトウェアに加え、収集した攻撃データを分析した上で、OTA(Over the Air:無線)で車載システム、ネットワークのセキュリティをアップデートする仕組みを提供している。

今後さらに、自動車メーカーや、物流やレンタカー、交通などで車両を保有・運用する企業、保険会社などと提携することで、安全なモビリティプラットフォームを構築したいとして、パートナーを探しているという。

東京のBatch 1では、パートナー探しに加えて「インベストメントでも成果があった」と山本氏は述べる。2018年7月のシリーズA2ラウンドで、総額1100万ドル(約12億円)の資金調達を実施したTrillium。山本氏は「このラウンドでMUFJグループ(三菱UFJキャピタル)が参加したことは、Plug and Playの日本のBatchに採択された成果として大きい。出会って3カ月で投資が決まった」と話している。

またシリコンバレーのPlug and Playでも「ピッチを行ったところで(パートナー企業との)出会いがあった」と山本氏。世界中に拠点を持つPlug and Playは「世界に羽ばたくスタートアップにとっては、大変いい場所だ」と評価する。

「Plug in Play SHIBUYAでも、パートナーとなる企業と出会うことができた。今後PoC(概念実証)を目指していく」(山本氏)

Nauto「日本でのPoCと認知・ブランド向上図りたい」

最後に、11月にスタートしたばかりのBatch 2採択企業の中から、Nauto(ナウト)が現況をレポートした。

NautoはIoT領域で、Plug and Playのプログラムに参加するスタートアップだ。Nautoが提供するのは、自動車運転の安全性を高めるためのソリューション。Batch 1 EXPO(デモデイ)でピッチを行い、採択に至っている。

NautoもTrilliumと同様、米国カリフォルニア州パロアルトに本社がある。本社設立は2015年、Nauto Japanは2017年6月に開業している。Nautoには既に、General Moter VeunturesやToyota AI Venturesなど、自動車系ファンドが多数出資しているほか、2017年7月にはソフトバンクがシリーズBラウンドで1億5900万ドル(約180億円)の出資を行っている。

Nauto Japanで日本代表を務める井田哲郎氏は、「Nautoはテクノロジーを使って収集したデータを、運転の安全に使う。今日の運転の安全、そして将来の運転の安全に貢献するプロダクトを開発している」と説明する。

Nauto Japan 日本代表 井田哲郎氏

Nautoのプロダクトは、車載器と、車載器からのデータを収集・分析するプラットフォーム、運行管理アプリから成る。

Nautoは車載器として、人工知能を搭載したドライブレコーダーを開発。Bluetooth、LTE通信でネットワークに接続できるデバイスには、2つのビデオカメラと各種センサーが内蔵されている。クルマの内部に向けられたカメラでドライバーの様子を、外部へ向いたカメラは進行方向の道路を撮影する。デバイスから集められた映像やセンサーデータは、クラウドプラットフォームで分析される。

分析データをもとに、運行管理アプリではさまざまな機能を提供するが、顔認識や映像ベースでのリスク評価がその大きな特徴となっている。

「コンテクスト分析を内側カメラと外側カメラの双方向で行い、エッジでは車間距離を測定。社内の運行管理者によるモニタリングも実施できる。ほかにもクルマのセンサーからの情報なども合わせて、総合的に分析を行い、必要に応じてドライバーに危険を警告する」(井田氏)

米国で行われた実証実験では、独自のアルゴリズムによって、ドライバーの集中・わき見の状況を分析した。「運転の荒さだけでは、実はリスク評価は十分ではない。したがって加速度センサーによる加減速のデータだけでは、事故につながるとは断定できなかった。これを顔認識も加えて、わき見の状況をモニターすることで、Nauto搭載のクルマでは35.5%の事故削減につなげることができた」(井田氏)

「この実験は米国で行われたもので、日本では事例がまだない」としながら、井田氏は「日本でもスマートフォン使用による交通事故件数は、2011年から2016年にかけて2.3倍に増えているという統計がある。