技術革命
トニー・ブレア

英ブレア元首相の提言、社会と政府におけるテクノロジーの役割を考える

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【編集部注】著者のTony Blair氏は、英国元首相で現在はInstitute for Global Changes(地球変動研究所)所長を務める。

産業革命は、政治社会学に劇的な変革をもたらした。米国では、資本主義の反動として、近代化を恐れる人たちによりポピュリスト党が結成された。英国では、経済の大変動によって政治の形が変わった。工場法から、結果的には福祉国家の基盤を築いたデイビッド・ロイド・ジョージによる自由主義的改革まで、その影響は次の100年全般に及んだ。

今日、また新しい広範な革命が進行しつつあり、前回と似たような効果を波及させている。左翼、右翼に関わらず大衆主義者たちが台頭し、その勢いは19世紀末の米国のポピュリストよりも強まっている。だが彼らも、昔と同じように近代化を拒絶している。彼らは己の現状を保つためにスケープゴートを探し求め、とうとうテクノロジーがその標的に定められた。

社会秩序を本当の意味で変革できる分野の進歩を後退させてしまっては、損失だ。少なくともイギリスでは、1909年にロイド・ジョージが「人民予算」を提案したときから、官僚機構のやり方はあまり変わっていないように見える。

この技術革命について熟知し、それを公益のために応用できる最初の政治家が、次の100年の姿を決めることができる。遺伝子編集や人工知能、それに核融合や量子コンピューターなどの画期的な飛躍を探る研究も含め、それらのテクノロジーの急速な発達は、私たちの経済、社会、政治に大きく変革が引き起こす。

だが今はまだ、適切な質問ができる人間はほとんどいない。答えが出せる者は言うに及ばずだ。だからこそ私は、政策立案者が取り組むべき唯一にして最大のテーマはテクノロジーであると力説しているのだ。私の研究所では、そうした決定的な問題を綿密に考察し、テクノロジーを使った政治的に実行可能にして最良の政策や戦略のキュレーションを支援したいと考えている。それにより、テクノロジー、研究におけるイノベーションと投資、開発を、進歩的なプログラムの最前列に置くことができる。そしてこれは、テクノロジーは社会全体にとってポジティブな力であるという、私たちの信念に基づいている。

これは、変革によって表面化した問題を無視するものではない。なぜなら、それはプライバシーや社会的興味に関連する重大な問題だからだ。

2013年4月23日、ニューヨークにて。市内にあるローワー・マンハッタン・セキュリティー・イニシアチブの監視カメラの画像。対テロセンターでは、警察官と民間の警備員が、金融地区とその周辺のローワー・マンハッタン地区に設置した4000台以上の監視カメラと自動車のナンバープレート読み取り装置をモニターしていた。ロンドンの「リング・オブ・スティール」に習って、潜在的脅威を特定するよう設計されている(写真:John Moore/Getty Images)

労働市場において、自動化の結果として生じた、または生じるであろう変化に対しては、その矛先がすでに取り残された感覚を抱いている人に向けられやすいため、政府の役割をもっと深く考える必要がある。再訓練だけでは不十分だ。おそらく、技能への生涯にわたる投資が必要となる。そのため、ベーシックインカムも十分な対策になるとは思えない。それは最後の手段だ。能動的でよく的を絞った政治的対策ではない。

しかし悲観論は、未来へのよき案内人にはなれない。最後には、単純な国家主義であれ、保護主義であれ、民族主義であれ、なんらかの保守主義の形に帰結するのが落ちだ。そのため、リスクを緩和しながら好機をうまく操るこの方針を信じる私たちの課題は、それを人々の生活と結びつけることだ。これは、ニューディールや人民予算のよう重大な政策として考えるべきだ。私たちが未来へ舵を切ることで、社会秩序に大変革が起きる。

もっとも高いレベルでは、これは21世紀の国家の役割という問題になる。規模や予算に関するイデオロギー論争は捨てて、今の人々の要求に合わせるために社会を作り変える方向で話しあうべきだ。米国では、オバマ大統領が最高技術責任者の活躍もあり、大きな前進を果たした。しかし、周囲の変化の速度に追いつくためには、政府の仕事のやり方を全面的に考え直すことが求められる。

写真提供:Shutterstock/Kheng Guan Toh

重要な鍵を握るすべての政策分野に、私たちはこう問うべきだ。人々が、自分が望むとおりに暮らし、生活の質を向上させ、反映し成功するチャンスを増やすために、テクノロジーをどう使えばいいか?

例えば、教育では新しい教え方のモデルが考えられる。オンライン学習は、学習方法に変革の可能性をもたらしたが、AIは、教えることの本質を変えるかもしれない。各個人に適合させたプラットフォームがあれば、教師は解放され、自分の時間をもっと有意義に過ごせるようになる。学費援助の新しい形もあるだろう。ソフトウエア開発者のための学費後払いの学校Lambda Schoolは、わくわくするような未来の可能性を与えてくれる。

同様に医療でも、診療におけるテクノロジーの役割が実証されている。しかし、私たちが資源の再配分を変えること、たとえば現場のスタッフを解放して患者と接していられる時間を長したり、さらには今使われている医療の形そのものを変えてしまうことで、大変革が起きる可能性がある。終末期医療や高齢者介護では、膨大な費用がかかる。しかし、予防やモニターリングに多くの予算を振り向けることで、結果的に人は長生きができ、病気への不安も減り、病気自体も、重篤になる手前で治療できるようになる。テクノロジーは漠然としたものと思いやすいが、このように使えば革命が起きる。

インフラと運輸にも、膨大な利益が潜在している。それは、新式の高効率な輸送機関であったり、もっと市民の役に立つ公共スペースをデザインであったりする。これには、社会と密接に結びついた大型プロジェクトが必要になるが、例えば、センサーでデータを集めて、日々の生活の質を高めるサービスの向上をはかるなど、日常的な、小さくてシンプルなところにも変革の芽がある。eスポーツのThe Boston Majorのオフィスは、そうした考え方の先駆者だ。データを役立てる方法を考えるとき、税金、福祉、エネルギー、公益に、もっと重点を傾けなければならない。

これが達成されたなら、政府は、社会で起きている変化と、もっとうまく足並みを揃えられるようになる。現状では、この2つは同期していない。政府が追いつけない限り、人々の役に立つものであるはずの制度は、信用と信頼を失い続ける。そこに、大衆主義が幅を利かせる余地が生じてしまう。しかし、その責任は政治家だけが負うものではない。テクノロジー業界も、政治はわからないと言って済ませていては何も始まらない。

テクノロジー業界の人々は、誤解や不信を募らせるのではなく、政策展開を理解し、支援するべきだ。なぜなら、このわずか20年と少しの間で、デジタル革命が私たちの社会の経済を劇的に変えてしまったからだ。これは継続することができる。ただし、数多くのスローガンが切望する変革が本当の意味で実現するのは、企業と政府とが協力し合ったときだけだ。

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(翻訳:金井哲夫)