EU競争政策担当委員の提言「巨大ハイテク企業を分割してはいけない、データアクセスを規制せよ」

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巨大ハイテク企業の分割は最後の手段であるべきだ。欧州連合(EU)競争政策担当委員Margrethe Vestager(マグレーテ・ベステアー)氏はそのように提言した。

「企業を分割して私有財産を分割すれば、その影響は広範囲に及ぶため、市場の消費者に大きな恩恵を与える確固たる言い分が必要です。王道のやり方では実現できないものでなければいけません」と、彼女は先週末、SXSWで行われた、RecodeKara Swisher(カーラス・ウィッシャー)氏とのインタビューで警告を発した。「対象となるのは私有財産です。その企業は、彼らのイノベーションを基に築かれ、投資を受け、成功しているのです」

ベステアー氏は、2014年に欧州委員会で独占禁止法問題を担当するようになってから、数々の大規模な(しばしば高額の罰金を科すなど)介入を行ってきたことから、さらに今でもGoogleに対して際だった捜査を大々的に続けていることから、巨大ハイテク企業が恐れる存在として高評価を得てきた。

しかし、欧米各国の市場の(米国大統領候補と噂される著名な人物を含む)野党政治家たちが、テクノロジーに厳しいとされるこの欧州委員会議員と対立する形になった。彼女は、市場を歪めている巨大ハイテク企業をハンマーで叩き潰すのではなく、データの流れにメスを入れるべきだと主張しているのだ。

「企業を分割するという非常に大胆な提案は、私たち欧州の観点からすれば最後の手段です」と彼女は言う。「今、私たちが取り組んでいるのは、独占禁止法に関わる問題です。独占的地位の乱用、製品の抱き合わせ販売、自己宣伝、他者の妨害などに対して、独占禁止法のアプローチが適切か、それが市場を、独占的地位を乱用する者がなく、小さな企業もフェアに競争できる公正な場所にするかどうかを見るためです。なぜなら、その小さな企業が次なる大物に成長し、消費者に素晴らしいアイデアをもたらす次なる大企業になるかも知れないからです」

彼女はまた、市場の不均衡を是正すると自身が信じる、公正さに焦点を当てた介入の実例として、欧州の主要政治機関の間で先月交わされた、オンラインプラットフォームの透明化に関する規制の合意を挙げた。

巨大ハイテク企業に関連する問題に規制当局が本来集中すべきは、デジタル産業の調査や、市場がどのように運営されているかを詳しく知るための聞き取りなどだと彼女は言う。慎重で入念な調査によって、合理的でデータに基づく捜査方法が形作られるという。

とは言うものの「Googleの分割」には、政治的な宣伝文句としてインパクトがある。

ベステアー氏が独占禁止法問題の担当責任者でいられる期間は間もなく終わる(欧州委員会での任期が今年で終了する)。11月1日でこの部門のトップではなくなると彼女は話している。だが、少なくとも暫定的に、欧州委員会委員長の候補者名簿に名前が残されている。

委員は以前、巨大デジタル企業をコントロールするのか分割するのかという議論の中で、データアクセスを制限するという興味深い選択肢を示している。

そしてすでに、欧州の一部の規制当局はそちらの方向に傾いている。ドイツ連邦カルテル庁(FCO)は先月、Facebookに対して同社のサービスでのデータの使用量を制限する決定を下したと発表した。FCOのこの動きは、FacebookにInstagramやWhatsAppなどの事業部門の分離や売却を強要することなく、データレベルで内部分割させるのと同じ効果があると言われてきた。

そのため、Facebookの創設者Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が、つい先週、その3つのサービスを技術レベルで統合するという大規模な計画を発表したことには、さして驚かなかった。暗号化コンテンツへの切り替えを宣伝しているが、「プライバシー保護」のためにメタデータを統合するという。そこには、製品レベルでの内部のデータの流れを分離してコントロールしようとする規制当局の目論見に対抗するために、帝国を再構築しようという意図が透けて見える。

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大笑いだ。Facebookは、InstagramとWhatsAppとFacebookのすべてのデータを統合するが、暗号化するのはFacebookのメッセージのコンテンツデータだけ(メタデータは含まれない)。それをプライバシーを保護したパッケージとして販売する。宣伝の大傑作だ。メディアは騙される。

現時点で、競争政策担当委員会は、Facebookやその他のソーシャルメディアの公式な調査を発表していないが、当委員会は、ソーシャルメディアの巨人たちのデータの使い方に目を光らせていると、ベステアー氏は話していた。

「私たちは、ソーシャルメディア、つまりFacebookの上空に浮かんでいる感じです。そうした目的にデータをどう使うのか」と彼女は話す。同様に、Amazonの商品データの使い方についても予備調査を行っていると警告した(これもまだ公式な調査ではない)。

競争規制全般において、「論議が本当の意味で活発になってきたのは、よいことです」と彼女は言った。「以前、国会議員たちを訪ねて話をしたとき、競争によって社会はどのような恩恵を受けるのかといった、新しい興味や関心を感じました。なぜなら、公正な競争があれば、私たちは消費者としての役割を果たし、市民に奉仕する市場が作れるからです。市民が市場に奉仕するのではありません」。

Facebookが突然プライバシー「重視」に切り替わったことを、個人的に信用するかどうかを尋ねると、その発表が本当の意味での哲学と方向性の変化を示すものであり、Facebookのビジネス慣行を改善させるものであるなら、いいニュースだろうとベステアー氏は答えた。

しかし、今の時点ではザッカーバーグ氏の言葉を素直には受け取れないと彼女は言う。あれほどの長期間、プライバシーを軽視し続けた歴史を持つ企業が、誠実な方向に舵を切ったなどと信じられるかと強く迫るインタビュアーのウィッシャー氏に対して、彼女は「それを最良の事態だと思えるまでには、長い時間がかかります」と丁重に答えた。

巨大ハイテク企業に少ない税金

インタビューは、巨大ハイテク企業が税金をほんのわずかしか払っていない問題に及んだ。

デジタル産業が従来産業と比べて公平な税を負担できるように、グローバルな税制を再構築することが「急務」だとベステアー氏は話す。EU加盟国同士の合意が不十分であるため、他所から口を挟まれるような委員会の提案に抵抗して、一部の国は独自の基準を前面に出していることを彼女は強調した。

今年、フランスが巨大ハイテク企業に課した税額は「絶対に必要であるが残念だった」とベステアー氏は言っている。

「比較できるように計算すると、デジタル企業の平均税率は9パーセントであり、従来企業の平均税率が23パーセントであることがわかります」と彼女は言う。「しかし、どちらの企業も、資本、優秀な従業員、ときとして同じ消費者を巡って行われる競争で成り立つ同じ市場にいます。従って明らかに不公平です」。

委員が望むのは、現在の不公平な税負担を解消したい思うEU加盟各国からの「圧力」により、「欧州が一丸となった方針」に向けた力が生まれることだ。そのためには、国ごとに異なる税制を早急に改めなければならない。

彼女はまた、欧州は、経済協力開発機構(OECD)にも「そこを押してほしい」と強く願っていると言う。「なぜならOECDは、世界各地の関の高まりを感じているからです。米国側の動きにもです」

税制改革が、巨大ハイテク企業と社会の間の不公平を是正するのがいいのか、それとも規制当局は「次の世紀まで」巨大ハイテク企業に罰金を科し続けるのかとウィッシャー氏は疑問を呈した。

「違法行為があれば罰金を科します。事業を行う際には、税金を払って社会に貢献します。これらは別物であり、確実に、どちらも必要なのです」とベステアー氏は答えた。「しかし、大半の企業は社会貢献をしているのに、一部の企業だけしないというのは許されません。なぜなら、このようなことが続けば、市場での公正を欠き、市民にとっても不公平だからです」

彼女はまた、巨大ハイテク産業の族議員の優位性(プライバシー規制を声高に叫べば、ファンドのコンプライアンスが容易になるので巨大企業には有利になる)についても手短に語った。欧州の一般データ保護規制(GDPR)には「いくつもの区分」があるので、大企業も中小企業もひとくくりに同じ条件を突きつけるわけではないという。

もちろん中小企業は「Googleと同じ義務を負うことはありません」とベステアー氏は話す。

同意と謎めいた利用規約における消費者の権利問題への大きな不満を挙げながら、「そのほうが楽だと感じれば、彼もうまくやれるでしょう」と彼女は付け加えた。

「なぜなら、利用規約に同意したとき、いったい何に同意したのか、私もまだはっきりとわからないからです。『なるほど、私がこれにサインをすれば、私は完全に満足できる』と言える市民であればよかったと思います」

しかし、欧州のプライバシーの権利が意図したとおりに完全に機能するまでには、まだ長い道のりがあることを彼女は認めている。消費者個人が、法で与えられた権利を行使するのは、まだまだ非常に困難だ。

「私は、自分の個人データがあることを知っていますが、その所有権をどのように行使したらよいかはわかりません」と彼女は言う。「イノベーションのために、市場への新規参入企業を支援するために、自分のデータを多くの人に使って欲しいと思ったとき、どのように許可すればいいのか。もしそれが大規模に行えるようになれば、私たちは自分自身を完全に晒すことなく、有用なデータだけを市場にインプットできます」と彼女は話す。

データフローに課税するアイデアや、巨大ハイテク企業に歯止めをかけるその他の方法について尋ねると、自分の個人情報を法人が利用したときに、その人が価値を引き出せるようにする仲介市場がヨーロッパに生まれてきていると、ベステアー氏は話した。これは、データフローに文字通り課税するのではなく、自分から持ち去られた個人情報の価値の一部を、消費者が取り戻すという考え方だ。

「ヨーロッパではまだ誕生期ですが、自分の個人データの所有権が確立された今、いわば自分の情報を金銭に換えられる仲介市場が発展しつつあります。自分のデータを金銭に換えるのは、巨大ハイテク企業ではありません。自分のデータが渡される度合いに応じて、毎月まとまった料金が支払われるようになるかも知れません」と彼女は言う。「これもひとつの好機です」

また彼女は、「膨大な量のデータが市場参入を阻むことがないよう」にする方法を委員会は探っていると話した。つまり、新規参入企業のイノベーションのためのバリアだ。巨大ハイテク企業が蓄積した膨大なデータがAIの研究開発に大いに貢献していることを考えると、そのバリアは重要になる。

もうひとつ興味深い会話があった。ベステアー氏は、音声インターフェイスの利便性が競争上の難しい課題をもたらしたという。その技術は、多くの選択肢を与えない機関銃のようなQ&A形式の対話を用いることで、市場のパワーを自然に集められるからだ。

「本当に唖然とさせられてしまうものに、音声では選択肢がないということがあります」と彼女は言う。音声アシスタントの原動力となる部分は、ユーザーのあらゆる質問に対して、複数の提言をしないように作られているというのだ。「その状態で、音声検索は競争ができるでしょうか?これが市場をどう変えるのか、私たちはそのような市場とどう向き合えばいいのか。解明しなければならない問題です」

ここでも彼女は、選択肢を示さないインターフェイスを改善する有効な道筋として、規制当局は背後のデータの流れに注目していることを告げた。

「私たちは、データへのアクセス方法がどのように市場を変えるかを解明しようとしています」と彼女は言う。「データを抱え込んでいて、イノベーションのためのリソースも抱え込んでいる人が、他人にデータへのアクセスを許すでしょうか。だから、巨大企業にはノベーションが期待できないのです」。

今から10年後のテクノロジーの世界で考えられる最悪の事態とは何かと尋ねられると、彼女は「テクノロジーは揃っていても、社会的に有益な見通しや方向性がない」状態だと答えた。

反対に、議員として最善の未来は「課税と、データアクセスの規制に十分な措置をとり、公正な市場を築く意思を持つこと」だという。

「私たちはまた、テクノロジーの発展に貢献する新しいプレイヤーの登場を見守る必要があります」と彼女は強調した。「なぜなら私たちはこれからも、量子コンピューターで何が起きるのか、ブロックチェーンで何が起きるのかを見守り、それらの技術が実現したときに、みんなの役に立つ新しい利用法は何かを考えてゆく必要があるからです。そこにはたくさんの希望があると、私は思っています。ただし、私たちの民主主義がそれに方向性を与えた場合に限ります。そうして初めて、有益な結果が得られるのです」。

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(翻訳:金井哲夫)