All Writs Act
FBI

FBIとアップルの法廷闘争の内幕を暴く本が出版へ

次の記事

サイバーエージェントが競輪のネット投票サービスを開始、「AbemaTV」で競輪チャンネル開設も

Apple(アップル)のCEOであるティム・クック氏の新たな伝記が、今月中にも発売予定となっている。そこには、FBIが前例のない法的命令をAppleに突きつけた当時の葛藤が明らかにされている。それはAppleの主力製品のセキュリティを骨抜きにしかねないものだった。

その本は、「Tim Cook:The Genius Who Took Apple to the Next Level」(Appleを次のレベルに押し上げた天才)というタイトルで、著者はLeander Kahney氏だ。当時のスタッフの生々しい言葉でAppleがその命令とどう闘ったかが記されている。クック氏は、その命令に従うのは「危険過ぎる」と言ったという。

3年前に起こったSan Bernardinoでのテロ攻撃では、12人が死亡し、数十人が負傷した。その後FBIはAppleに、特別バージョンのモバイルソフトウェアを作成して、iPhoneの暗号化、その他のセキュリティ機能をバイパスできるようにすることを要求した。テロの実行犯の一人がiPhoneを使っていたからだ。しかし、裏口を設けたソフトウェアが、やがて悪意の第三者の手に渡ることを恐れたクック氏は、公開書簡で、AppleはFBIの命令を拒絶し、法廷で戦うことを宣言したのだった。「そうしたソフトウェアは、誰かが実際に所有しているiPhoneのロックを解除する能力を持つことになります」と、クック氏は述べている。この件の帰結は、このハイテクの巨人と政府の公の戦いは数ヶ月も続き、その後政府はハッカーにお金を払ってデバイスに侵入させることを選ぶ、というものだった。

Appleが長いこと主張していたところによれば、司法省はAppleに対して公に闘いをしかけ、テロ攻撃の余波を利用して公衆を納得させることを狙っていたという。つまり、Appleをテロリストの味方のように見せかけて、同社が反論する前に裁判所の命令を引き出そうとしていた。

もしAppleがその訴訟に負けようものなら、これまでずっとプライバシーとセキュリティを守り続けてきた同社の理念は、粉々に砕け散ってしまう。クック氏は、この命令に背くことを決断するにあたり、「社運を掛ける」とまで言ったという。そのことは、この本に登場する元Appleの顧問弁護士、Brian Sewell氏の言葉として伝えられている。

Sewell氏によれば、FBIの命令は1つの転換点だった。その前には「数々の活動」が見られ、それを受けて当時のFBI長官、James Comey氏は、命令書に署名するよう判事に求めたのだ。

その命令は、All Writs Actとして知られているあいまいな法律に基づいて発行されたもの。FBIは、その法律以外ではカバーできないようなことを民間企業にさせる場合、その命令の発行を裁判所に依頼する際の切り札として使っている。命令は「ひどく負担が重い」ものにすることはできないとされているが、こうした主観的な言葉づかいは、その命令を発行する裁判所によって決められることも多い。

Sewell氏は、FBIは2014年ころからAppleに対して「スマホにアクセスする共通の手段」を提供するように求めていたという。それは、AppleがiOS 8をリリースして、iPhoneとiPadをパスコードで暗号化できるようになった時期だ。法執行機関は、犯罪調査のために必要だと彼らが認めたデバイスに侵入することが、なかなかできないでいた。正しいパスコードを入力する以外、iPhoneに侵入するための現実的な方法はなかった。たとえ裁判所の命令があってもだ。Apple自身ですら、デバイスのロックを解除できなかった。そして同社は、FBIの要求を拒否したのだ。

しかしこの本では、法執行機関は「Appleに強制的に協力させる絶好の機会ととらえていた」と、著者のKahney氏は書いている。

「FBIには、これは最悪な事態だという感覚もあったのです」と、Sewell氏は述べている。「われわれは今、悲劇的な状況にある。われわれにはiPhomeがある。加害者の死体もある。今こそやり遂げるべき時だ。そういうわけで、FBIは命令書の発行を決めたのです」と。

Appleは世論が分裂していることを知っていたが、妥協はしなかった。

次の2ヶ月間、かつてAppleの本社があった、クパチーノのOne Infinite Loopのエグゼクティブフロアは、「24時間年中無休の危機管理室」になった。そこでは、プレス対応が徹底的に強化された。Appleは、もともと秘密主義の会社として知られていて、そのような対応は過去にほとんどなかった。

この件は、結局裁判を経ずに解決した。Appleが、カリフォルニア州の裁判所で政府と直接対決することになっていた日の前日になって、政府はその法的措置を取り下げたのだ。政府が、ハッカーにほぼ100万ドル(約1億1000万円)を支払い、iPhoneに侵入することに成功したためだ。クック氏は、この訴訟が裁判にかけられなかったことに「失望した」と述べたと、Sewell氏は語っている。なぜなら、この件の解決は、Appleにとって好都合のものとして裁定が下ると信じていたからだ。その命令の合法性については、今日でもまだ結論が出ていない。それでも政府は、Facebookなど、他の会社に対して、警察がアクセスできるようにソフトウェアを作り直すよう強要することをもくろんでいる。

司法省報道官のNicole Navas氏はコメントを拒否した。Appleもコメントしなかった。

「Tim Cook:The Genius Who Took Apple to the Next Level」は4月16日に米国で発売される。

(参考記事日本語版:FBI、暗号化でアクセス不能な端末数を水増し報告

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)