ペットテック
シロップ

「自分も何かできないか」という想いが強かった、チュートリアル徳井氏がスタートアップに出資したワケ

次の記事

食品配達のPostmatesが上場を控え1000都市に進出

昨日紹介したように、お笑いコンビ・チュートリアルの徳井義実氏がペットテック企業のシロップに“エンジェル投資家”として参画した。

最近ではスタートアップがテレビCMを実施することなども増えてきているから、芸能人とスタートアップがコラボレーションすること自体はそこまで珍しくないのかもしれない。徳井氏自身もかつて家計簿アプリを展開するマネーフォワードのテレビCMに出演していたことがある。

ただ、テレビ番組を始め様々なメディアで活躍する芸能人が自ら出資してスタートアップと関わる事例は、アメリカはまだしも日本ではまだまだ少ないだろう。

徳井氏にとっても投資家としてスタートアップに加わるのは今回が初めてのこと。人気芸人である同氏がなぜシロップに投資をしたのか、その背景やこれからの取り組みについて紹介したい。

動物番組に関わる中で感じた“楽しさ”と“違和感”

動物番組に関わる中で感じた「ある種の違和感」や、自分もペットのためにもっとできることがあるんじゃないかという「もどかしさ」。今回の出資の背景には、徳井氏が以前から抱えていたというそんな想いが関わっているようだ。

最初の出会いは、徳井氏がシロップのペットライフメディア「ペトこと」の取材を受けた約1年前にさかのぼる。

その記事でも明かされているように、徳井氏は現在2匹の猫を飼っているだけでなく、昔から身の回りに動物がいる生活をずっと送ってきた。仕事でもペットのエピソードをバラエティで披露したり、猫好きとして番組に出演したりするのはもちろん、約4年ほど動物番組のMCを勤めた経験もある。

そんな徳井氏にとって動物番組に関わることは当然やりがいのある仕事であったが、その一方でどこかしっくりこない感覚も持っていたそうだ。

「動物番組ではどうしても“ペットの素晴らしさ”や“ペットとの暮らしの楽しさ”を紹介する方向に行きがちだけど、一緒に暮らしていれば必ずしも楽なことばかりじゃない。一面だけを伝えていることに対して、『時には大変なこともあんねんけどな』とある種の違和感を抱えていたんです」(徳井氏)

その点でシロップの動物に対する考え方には共感できる部分が多いと感じていたという。特に犬や猫の目線に立って考えながらも、必要以上にストイック・ヒステリックになりすぎず「人間も動物も無理なく、継続的に付き合えるような温度感」を大事にしている点が、徳井氏の感覚と近かったようだ。

シロップは「人が動物と共に生きる社会をつくる」をミッションに掲げるペットテックスタートアップ。飼い主向けのペットライフメディア「ペトこと」、保護犬猫と飼いたい人をマッチングする「OMUSUBI」を運営している

LINEで出資の打診をしたところ、1時間で承諾の返答

ペットに対する考え方が似ていると思っていたのは、シロップ代表取締役の大久保泰介氏も同様だ。

「共に暮らす犬や猫は商品ではないし、かといって人間と同じでもない。その捉え方のバランスが難しい部分ですが、根本的な部分で考え方がかなり近いと感じました。だからこそ仲間に入って欲しいと思ったし、徳井さんの発信力だけでなく『人を笑顔にする力』や斬新な発想力を借りながら、面白いことができないかとメッセージを送ったんです」(大久保氏)

写真右はシロップ代表取締役の大久保泰介氏。

ペトことでの取材から約1年。その間は特に両者で連絡を取り合うこともなかったが、実際に大久保氏から「出資してもらえないか」とLINEでメッセージを送ったところ、1時間も経たないうちに徳井氏から承諾する旨の返信があったそう。もちろん契約面の細かい調整などは別で行ったというけれど、かなりのスピード感だ。

「4年ぐらいやっていた動物番組が終わってからも、SNSに『猫を保護しているのでなんとか助けてもらえませんか』『◯◯のペットショップが倒産して行き場を失っている犬猫がいます』と連絡を頂くことが多くて。それでも変に間違った情報を発信すると却って問題が生じてしまうし、動物の命にも関わるので中途半端な対応もできない。だから基本的には応じないようにしていたのですが、どこかで『自分にできることがあったんじゃないかな』と気にかかる部分がありました」

「そんなもどかしい気持ちがあった時に声をかけてもらい、これはもう『やれ』ということなのかなと思ったんです。テレビに出て動物の話をしている立場でもあるので、何か動物に恩返しができればという考えもあって。もともと(シロップの)考え方には共感していたし、縁も感じたので何か一緒にやってみたいなと」(徳井氏)

自分としてはあまり「投資」という感覚を持っていない

そのような経緯だったから、徳井氏の中では「ビジネスライクには考えていないし、あまり『投資!』という感覚も持っていない」そう。純粋に、SNSなどを活用しながらシロップの想いや取り組みを少しでも多くの人に届けていきたいという。

徳井氏は今回の出資を機にシロップのCAT(Chief adoption, TOKUI)に就任している。「adopt」(アダプト)は保護犬・保護猫に関して使う際、「里親になる」ことを指す。日本に保護犬猫から迎える文化をつくることで、犬や猫、そして共に暮らす人達のペットライフをより豊かにするべく、今後共同で情報発信やサービス開発に取り組む計画だ。

「イメージとしては広報担当のような役割。もちろん芸人としての顔が本業なのでそことのバランスはあるけれど、力になれることがあれば積極的にチャレンジしていきたいと思っています。発信力のある一般の飼い主として、飼い主の目線で企画を考えたり、情報を届けていきたいです」(徳井氏)

まずは共同プロジェクトの第1弾として、読者参加型の連載小説「徳井義実の『猫と女』」をペトこと上でスタートする。

これは猫と一緒に写っている女性の写真1枚を読者から募集し、徳井氏がその女性と猫の物語を妄想する短編読み切りの連載小説企画。水面下では他にもいろいろなアイデアが出ているようで、今後も徳井氏×シロップならではの企画が次々と生まれていきそうだ。

出資をすることで踏み込んでやれることもある

少し余談になるけれど、昨今、海外では芸能人がスタートアップに投資する「セレブ投資」が珍しくなくなってきた。有名どころだと共同で立ち上げたベンチャーファンドを通じてAirBnbやUberなどに投資をしている俳優のアシュトン・カッチャーのほか、レオナルド・ディカプリオジャスティン・ビーバーらも新興企業への投資経験がある。

日本だとお笑い芸人ではロンドンブーツ1号2号の田村淳氏がBASEやProgateなどに出資。最近ではサッカーの本田圭佑氏が投資家としてスタートアップの資金調達記事に名前を連ねることも増えてきた。

徳井氏は以前から“家電芸人”として新しい機器の情報をバラエティ番組で紹介したり、AIの仕組みを解説する教養番組で司会を勤めたりもしている。だから今回の話を聞いた時、もしやこれからエンジェル投資をバリバリやっていくのかと思ったのだけど、今のところはそういう訳でもないようだ。

「ものすごく自分が興味があったり、ちょうどやりたいと感じることであればあり得ると思いますが、現時点ではあまり積極的にやっていこうとは考えていません。やっぱり芸人としてネタを考えること、創作をすることに少しでも多くの時間を使いたいんですよね」(徳井氏)

「(それでも今回シロップに出資を決めたのは)それだけ自分としても『何かやりたい』という想いが強く、考え方に共感できたから。出資をするということは責任も生じるし覚悟もいりますが、そうすることで一歩踏み込んでやれることもあるんじゃないかなと思うんです」(徳井氏)

徳井氏自身が広報担当のような役割を担いたいと話し、CATに就任しているように、今回の取材を通して「1人のメンバーとしてシロップの考え方を多くの人に届けていきたい」という気持ちが強いのだと感じた。

日本のスタートアップ界隈も起業家・投資家ともに色々な人が関わるようになり、エンジェル投資の形も多様化してきている。今回の徳井氏のケースのように、今後さらにスタートアップコミュニティの輪が広がっていきそうだ。