VCのANRIが独自の給付型奨学金、基礎研究に取り組む若手人材をサポートへ

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「ANRI基礎科学スカラーシップ」給付生の3名と、ANRIパートナーの鮫島昌弘氏(写真右)

独立系ベンチャーキャピタル(VC)のANRIは、先端の基礎研究に取り組む若手研究者を対象とした給付型奨学金プログラム「ANRI基礎科学スカラーシップ」を始めることを明らかにした。

修士課程や博士課程の学生を始め、数学や物理学、生物学、化学などの分野において優秀な成績を収めた若手研究者に対して1人当たり50万円を給付する。具体的な年齢制限などはなく、最大で10人を支援する計画。対象期間は採択より1年間で、2019年8月末まで募集を受け付ける。

ANRIはこれまで3本のファンドを立ち上げ累計で約100億円を運用してきた独立系のVCだ。主にシードステージのスタートアップを軸に投資を実行。出資先はUUUMやラクスル、クラウドワークスなど現在はイグジット済みの企業から、WAmazingミラティブなど今年に入って大型の調達をしているスタートアップまで幅広い。

2017年の3号ファンド立ち上げ時にも詳しく紹介したが、近年は大学の研究を軸としたハイテク系スタートアップの支援も強化。今回のプログラムも、ANRIで主に大学発スタートアップへ投資してきたパートナーの鮫島昌弘氏が中心となって立ち上げたものだ。

鮫島氏によると奨学金プログラムを始めたのは「すぐには事業化に結びつかないけれど、素晴らしい基礎研究が日本にもまだまだ存在する」ものの、そういった領域に十分な資金が行き届かず、若手研究者にとって厳しい状況が続いているためだという。この点は同氏が執筆したnoteでも言及されている。

「専門領域の教科書は高価なものも多く、1冊あたり数万円かかるものもある。それを買うためや国内外の学会に参加するためだけに貴重な時間を使ってアルバイトをするのはもったいない。(本来時間を使うべき)基礎研究に少しでも多くの時間を投じられるような環境を整えたい」(鮫島氏)

鮫島氏自身も研究畑の出身で、かつて東京大学の大学院で電波天文学を研究していた。当時から周りの優秀な先輩や同級生が同じような理由でアルバイトをせざるを得ない状況に陥っていて、課題感を持っていたそうだ。

国内ではこのような取り組みをVCが主導でやる事例はまだあまり出てきていないが、海外ではピーター・ティールやエリック・シュミットを始め著名なエンジェル投資家、VC、起業家が独自の奨学金プログラムや寄付プログラムを実施している例も珍しくない。

基礎研究に特化はしたものではないけれど、ピーター・ティールの「Thiel Fellowship」は特に有名なプロジェクトの1つで、聞いたことがある人も多いだろう。

「VCは最終的にリターンを返していくファンド形態であり、事業としてやれる領域ではベンチャー投資を通じてアプローチしていく。ただ『将来的に社会の課題を解決し、より良い未来を創る』ことがVCの仕事の目的でもあるので、事業化には結びつかない基礎研究であっても、別の形でサポートしたいという思いがある。ベンチャー投資とはルートこそ異なるが、目的自体は変わらない」(鮫島氏)

今回はANRIにとっても初めての試みということもあり、トライアルも兼ねて最大10人に対して1人あたり50万円を給付する形で始める。50万円という金額については「大きなプラントを作るための資金などとしては全然足りないが、たとえば数学や物理など、紙とペンがあるだけで取り組めることがあるような分野では、少しの後押しにはなるのではないか」(鮫島氏)という。

まずは修士課程や博士課程に在籍する若手研究者で「実力はあるけど、数十万円がなくて困っているような学生さんたち」を中心に、研究に集中できるような支援をしていく計画だ。

「『VC = ベンチャー企業に投資をするだけ』というイメージを持っている人もいるかもしれないが、もっと広い範囲で社会課題を解決して、世の中を良くするための活動を続けたいし、(起業家や研究者など)そこに挑む人たちをしっかりとサポートする存在であり続けたい。僕ら自身もVCの枠を超えて未来を創るような取り組みにチャレンジしていく」(鮫島氏)

なお以下の3名についてはすでに給付生として決定済みで、給付を開始しているとのことだ(各自のコメントはANRIのプレスリリースより引用)。

■三上智之氏 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻在籍(生物情報科学、古生物学)

私は、理論やデータ解析をもとに化石を分析することで、はるか昔の生物がどのように進化を遂げたのか解き明かす研究をしています。“生物情報科学”とよばれる分野の視点で化石を見つめなおすことで、今まで見えなかった様々な情報を化石から抽出できるのではないかと考えています。

この奨学金は、若手の基礎研究を支えてくださる数少ないプログラムです。いただいた支援を活かして、これまでにない組み合わせの分野融合を進めることで、自分にしかできない、好奇心をくすぐる発見を目指します。

■須藤貴弘氏 東京大学大学院理学系研究科天文学専攻在籍(高エネルギー天文学)

私の専攻している天文学は、社会や経済への利益に繋がるまでに長い時間がかかりうる基礎的な研究分野です。そのような研究を行う若手に対して支援をしていただける点がありがたいです。

私の主な研究対象は宇宙から飛来する高エネルギー粒子、特にガンマ線やニュートリノなどです。これらの粒子は起源が大きな謎であり、その研究を通して宇宙における様々な天体現象の理解が進むことが期待できます。更には、未知の物理法則の解明などにもつながる可能性があります。このように、天文学の研究を通して宇宙や物理学の知見を広げることを目標として、日々研究をしています。

■山口大器氏 東京大学大学院理学系研究科物理学専攻在籍(素粒子物理学)

この度奨学金を受給することとなり、本当に感謝しています。自分にしかできない研究ができるよう努力していきます。このように、基礎研究を行なっている若手研究者を支援するプログラムはあまりないので、私たちのように基礎研究を行なっている若手研究者の方々にぜひ応募をお薦めしたいと思います。

私の研究は右巻きニュートリノの崩壊によって宇宙のバリオン(陽子、中性子)非対称性を説明する理論に関するものです。我々の体や星はバリオンでできていますが、宇宙がもっと高温だった時代、バリオンと反バリオン(反陽子、反中性子)はほぼ同数ありましたが、ほんのわずかにバリオンの量が多かった(その差は3億個に対してほんの1個程度)ため現在にはバリオンが残りました。このわずかに多かったバリオンの起源を探求しています。