伊藤忠が超抜ハエ技術のムスカと提携した理由、畜糞処理からプラント建設までの壮大な構想

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ムスカは3月1日に丸紅と、4月23日に伊藤忠商事とそれぞれ戦略的パートナーシップを締結した。両社ともムスカに資本参加し、畜糞処理や食料危機などの世界的問題の解決に取り込んでいく方針だ。

ムスカは、2016年設立のスタートアップ企業。45年間1,100世代の交配を重ねたイエバエの幼虫を活用し、糞尿などを約1週間で肥料化、そしてその幼虫を飼料化する技術を擁する。昨年TechCrunch Japanが主催したイベント「TechCrunch Tokyo 2018」内のピッチコンテスト「スタートアップバトル」で100社超の応募企業の頂点、最優秀賞を獲得した企業でもある。

このようにムスカには卓越した技術があるものの、10億円超のコストがかかると試算されている、1日100トンの糞尿処理能力を有するバイオマスプラントの建設は始まっておらず、現時点ですぐに結果を出せない。そんな設立間もないスタートアップ企業となぜ大手商社が組んだのか。TechCrunchでは、それぞれの商社に個別取材してその理由と狙いを聞いた。2回目となる今回は、伊藤忠商事の岡野聡太氏を取材した。

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伊藤忠商事の岡野聡太氏

岡野氏は2015年から同社でベンチャー投資業務に従事し、現在はビジネス開発・推進部にて全社のCVCを務める人物だ。

最初にムスカを知った経緯について岡野氏は「伊藤忠商事で取引のあるベンチャーキャピタルから紹介を受けた」とのこと。続けて「伊藤忠商事は幅広い業界・地域でビジネスを行っており、ムスカの提供するエコシステムは各領域でシナジーを生むと考え、パートナーシップを組むことになりました」と語る。

糞尿を処理するバイオマスプラントが未着工の状態でのパートナーシップ提携については、「イエバエの育成及び保管技術、優秀なイエバエそのものを有していることを実際に確認したうえでの提携です。伊藤忠としてはムスカが描くビシネスモデルは成立可能で、かつ伊藤忠の事業とのシナジーが十分にあると考えて投資に踏み切りました」と岡野氏。

今後については「まずはムスカのプラント建設を支援する」とのこと。支援内容としては資金だけでなく、関係業者の紹介も含まれるという。プラント建設後は、そこで生産される飼料・肥料の販路開拓、海外へのプラント輸出なども検討していく考えだ。

岡野氏によると「伊藤忠商事は、繊維、金属、機械・エネルギー・化学品、住生活、情報・金融、食料の7つカンパニーに分かれており、ムスカに対しては食料以外のカンパニーも興味を示しています」とのこと。具体的には、「プラント建設時の土地の選定、建築資材の提供、物流網の構築など、さまざま新規事業が生まれるかもしれない」と語る。

【編集部注】伊藤忠商事は6月12日、既存7カンパニーから多様な知見・経験を有した人材を選抜して組織する第8カンパニーを新設することを発表した。第8カンパニーのプレジデントには、食料カンパニーにエグゼクティブバイスプレジデントを務めていた細見研介執行役員が就任する。同カンパニーでは、同社が「マーケットインの発想」の発想と呼ぶ、消費者のニーズをより重視した商品・サービスの企画・開発を進めるほか、若手の起用による組織の活性化を狙うとのこと。通常、社内で新規事業開発を進めるグループは、営業部傘下の課であったり、役員直下の部であることが多い。もちろん伊藤忠でもカンパニー直下での新事業開発は活発で、直近では情報・金融カンパニーが子会社のMCI(マネーコミュニケーションズ)を通じてスマホを利用した給与前払いサービス「プリポケ」(Prepay Pocket)のサービスを開始したばかり。今回新設された第8カンパニーは、前述のマーケットインの発想によって事業を構築していくことを目的とする組織。ほかの7カンパニーと同列となる社長/COO直属という点で、同社の強い意気込みを感じる。なお、新規事業開拓が第8カンパニーに集約されるわけではなく、各カンパニーとの親和性が高い事業については従来同様に各カンパニーで進めていくとのこと。

また出資額については「建設費が10億円ほどかかる1号プラントの建設に協力という文脈から出資額は10億円超と報道されましたが、金額は非公開です。ただし、伊藤忠の各カンパニーが協力して建設を支援すれば、もっと低い費用でプラントを建設できる可能性もある」とのこと。

丸紅の参入について聞くと「丸紅さんは我々よりも早いタイミングで参入されていますが、丸紅さんがいるから入らないという意思決定はしません。むしろ、伊藤忠が得意なところ、丸紅さんが得意なところそれぞれで協業し、ムスカさんの企業価値の向上につなげることができれば両者がWin-Winになると考えています。昨今は各商社スタートアップへの投資を実施しており、このようなパターンは決して稀ではありません」とのこと。具体例として、伊藤忠商事は、三井物産(三井物産オルタナティブインベストメンツ)と再生医療事業を展開しているオーガンテクノロジーズに共同出資している。

オーガンテクノロジーズの事業内容(出典:オーガンテクノロジーズ)

さらに岡野氏によると「伊藤忠商事がスタートアップ企業に投資することも特に珍しいことではない」とのこと。歴史をさかのぼると、90年代には国内企業としてはいち早く、北米にてベンチャー投資を開始。投資活動を継続し、米国VCのa16z(Andreessen Horowitz)などとも関係が深い。

2000年代に入ってからは伊藤忠テクノロジーベンチャーズを立ち上げ、「スタートアップ企業への投資が現在のように活発化する前から積極的に国内外で投資をしてきた」と岡野氏。最近の事例としては、2018年12月にデジタル広告事業を展開するフリークアウト・ホールディングスとの資本提携を発表したほか、2017年12月にはDELISH KITCHENのサービスを提供しているエブリーへの資本参加もあった。

伊藤忠では、2019年4月に組織改変を実施し、CDO・CIOを新設。さらにCDO・CIO管轄下に次世代ビジネス推進室を創設し、投資事業のアクセルを踏んでいく。岡野氏によると「昨年で次世代関連の投資は300億円程度、今年は1000億円超の投資を検討しており、スタートアップ企業を含め今年も積極的に投資を実施していく」とのことだ。