ベンチャーキャピタルはなぜ大型化に向かうのか?

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ソフトバンクとAndreesen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)の両社は最近ベンチャーキャピタルの投資規模を拡大するような発表を行っている。Reuters(ロイター)の記事によれば、ソフトバンク関係者はソフトバンク・ビジョン・ファンドの上場を検討していると述べたという。実現すればベンチャーキャピタルとして初の株式公開となる。 一方、Andreesen Horowitzはアーリー・ステージ向けの7.5億ドルとグロース・ステージ向け20億ドルの2つのファンドの組成を発表した

A16zは過去1年半でバイオと暗号通貨に特化したファンドなどなど一連のファンドを組成しており、総額は35億ドルだ。ファンドにはAndreesen Horowitzに加えてGGVLightspeedSequoia などの著名ベンチャーキャピタルが加わっている。これらのVCは投資先のステージ、地域、専門分野などに応じたファンドを組成してきた。ここ1年半でSequoia Capitalは9つのファンドを組成し、総額は90億ドルに近い。Lightspeedは4つのファンドで合計30億ドル、GGVも4つのファンドで18億ドルをコミットしている。

こうした大型ファンドが多数生まれていることはベンチャーキャピタルの大きく地図を塗り替えるものだ。ベンチャーキャピタルはもはや毎週月曜の朝に何人かのパートナーが小さなテーブルを囲んで次はどの会社に投資すべきか議論するようなコテージ・インダストリーではなくなった。

以前のベンチャーキャピタリストはいってみれば歯科クリニックのような個人営業に近かった。ベンチャーキャピタルはいまや人事、広報、金融、法務、営業などの部門を擁する大企業となり、社内にはバイオ、ロボット、暗号など各投資分野の専門家の大群を抱えている。SoftBank、Sequoia、GGVなどはほんの数名のパートナーでスタートしたが、現在はまたたくまに数百人のチームに成長した。

スタートアップへの投資は本質的にローカルビジネスだ

投資銀行の発達の歴史はベンチャーキャピタルの今後を占う上で役立つだろう。有力な投資銀行や非上場企業に投資するプライベート・エクイティ・ファームは何十年もの間結束は固いが小さな産業分野だった。それが投資規模の拡大によって一般的な企業の構造を備えるようになった。メリル・リンチは1914年に株式ブローカーとしてスタートした。当初は閉鎖的な投資銀行業界への新参者という扱いを受けた。当時はゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン、クーン・ローブなどの古参投資銀行が市場を支配して高い利益率を誇っていたが、株式市場から潤沢な資金が流入するにつれてメリル・リンチなどの新しい投資銀行が追い上げていった。

やがて投資銀行業界にM&Aの波が押し寄せ、それまでのパートナーシップに代わって近代的大企業の枠組みが主流となる。1854年創立のリーマンは1977年にクーン・ローブを買収し、次に1984年に自身がアメリカン・エキスプレスに買収された。リーマンの投資銀行業務はシアソン・ハットン・リーマンに移管され、1994年にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスとしてニューヨーク証券取引所に上場される。投資銀行の大型上場ではモルガン・スタンレーが1993年に、ゴールドマン・サックスが1999年にそれぞれ実現している。

プライベート・エクイティ・ファームもすぐにこのトレンドに続いた。投資銀行同様、当初は小規模なパートナーシップで出発したが、活発なM&Aを支えるために貪欲に資金を求めていた。この資金需要を満たすには上場して株式市場から調達するのが近道だった。現在プライベート・エクイティ・ファームのトップ5社はすべて上場企業だ。ポートフォリオ2500億ドルのApollo Global Managementは2004年に、4700億ドルのBlackstoneは2007年にそれぞれ上場しており、Carlyle、KKR、Aresもすぐに続いた。

長らくベンチャーキャピタルは投資銀行とプライベート・エクイティ・ファームに訪れた巨大化とM&Aの波から隔離されていた。 スタートアップへの投資は本質的に相手をよく知っていなければならないローカルビジネスだ。テクノロジーの革新は歴史的にみて「早いもの勝ち」だ。MicrosoftOracleの例をみても、こうしたリーダー企業の資金効率は非常に高かった。多くの場合、上場以前の資金調達は総額で2000万ドル以下に過ぎなかった。ベンチャー企業は本質的にリスクが高く、不安定なビジネスだ。利益は企業ごとに大きく異なり、失敗の率も高く波も大きい。

イノベーションにはますます金がかかり、起業家はVCにますます多くを求めるようになった

しかし投資銀行やプライベート・エクイティ・ファーム同様、ベンチャーキャピタルも資金量が勝負となってきた。イノベーションを起こすには金がかかる。起業家も投資家もビジネスの着実な成長より一発勝負の革命を求めるようになる。既存のライバルの脅威を退けるためにはいわば衛星軌道に入れる地球脱出速度が求められる。スタートアップは次第に成長するにつれて有力な既存大企業と競争を強いられる。起業家としては資本効率の高い「リーン・スタートアップ」がトレンドだが、ベンチャーキャピタル側からみるとスタートアップをサポートするためのサービスづくりは決してリーンではない。特に財務、法務、マーケティングなど成長を加速するために必須の部門に人材を確保するには多額の資本を必要とする。現在大手ベンチャーキャピタルでは直接投資に携わるスタッフよりもサポート部門の人員のほうが多くなっている。

ベンチャーキャピタルは多様化、分断化が著しい業界だ。シリコンバレーだけでも200社以上のベンチャーキャピタルがひしめきあっている。これまでテクノロジーのイノベーションとは無縁と思われていたような地域、国々に数百のベンチャーキャピタルが生まれている。しかしベンチャーキャピタルへの需要が高まるにつれ、大量の資金を動かせる大型ベンチャーキャピタルが有利になる。今後10年程度で群小ベンチャーキャピタルの統合が進むのは間違いない。

大型化するベンチャーキャピタルの攻勢に耐えて一部の業種に特化したブティック型の投資銀行やプライベート・エクイティも生き残っている。同様に小規模なエンジェル投資、シード投資もSoftBank式の組織的な投資方式に対抗している。特定のテクノロジーや特定の地域、またそこで活動する起業家を熟知したベンチャーキャピタルは継続的に高いリターンを得ている。しかしながら、資本の集中度合が強まっているのが現実のトレンドだ。周辺には能力の高いエンジェル投資家、シード投資家が残るとしてもベンチャーキャピタル業界は投資銀行と同様、最終的には少数の巨大なグローバル企業が寡占するる世界になるだろう。

【編集部注】この記事の筆者はNGP Capitalのマネージング・パートナーであるPaul Asel氏。同氏はテクノロジー分野の投資家として25年以上の経験がある。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook