「育成よりカルチャー」STRIVE堤氏が語るチーム成長の秘訣:TC School #15レポート1

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TechCrunch Japanが主催するテーマ特化型イベント「TechCrunch School」第15回が6月20日、開催された。今年のテーマはスタートアップのチームビルディング。今シーズン2回目となる今回のイベントでは「チームを育てる(オンボーディング・評価)」を題材として、講演とパネルディスカッションが行われた。

本稿では、そのうちのキーノート講演をレポートする。登壇者は、グリーベンチャーズで共同代表であり、ベンチャーキャピタルSTRIVEを立ち上げた堤達生氏だ。堤氏には「アーリーステージ企業が陥る成長痛について」と題して、これまでに手がけてきた投資先スタートアップに見られる成長過程での“痛み”と、チーム成長で重視すべき点について語ってもらった。

3年目に消え始める「スタートアップの魔法」

まずは自己紹介も兼ねて、STRIVEと堤氏の経歴について説明してもらった。

STRIVEは、堤氏が天野雄介氏、グリーベンチャーズとの共同事業として設立したベンチャーキャピタルだ。5月14日には新ファンド「STRIVE III」がファーストクローズを迎え、運用を開始した。現在、新ファンドも含めて3本のファンド、合計220億円を運営しながら、引き続き資金を調達中だ。

STRIVEでは、シリーズAを中心としたアーリーステージのスタートアップへ2億〜5億円のサイズで投資を行っている。リード投資、かつハンズオン投資を特徴とし、採用支援も含め、熟練メンバーが経営者支援まで実施する。

堤氏は、20代前半はシンクタンクで経営コンサルタントとして、後半はグローバルブレインでアソシエイトとして働き、30代からは「事業をやりたくなった」とのことで、サイバーエージェントでベンチャーキャピタル事業も含む金融事業の立ち上げに参画。その後リクルートで新規事業開発部門に参加して「事業の作り方を学んだ」という。リクルートではコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の運用にも従事していた。

グリーには2011年ごろ参加し、CVC事業を立ち上げ。そして2014年、グリーを辞し、グリーベンチャーズとのジョイントベンチャーの形で、ファンドを設立、現在に至っている。
堤氏の投資先スタートアップの事業分野は幅広い。SaaSへの投資が多いが、メディア、マーケティング、ビデオやライブ、Eコマースなど多岐にわたっている。堤氏は「起業して投資家を選ぶときには、パートナーの得意分野、何に興味を持っているかを調べてから相談すれば、無駄な時間をショートカットすることができる」と話している。

STRIVE共同代表パートナーの堤達生氏

自己紹介に続き、堤氏からはスタートアップにおける「3年目の魔法」について解説が始まった。スタートアップにとっての魔法とは「創業初期の頃のワクワクした気持ちや、やってやるぞといった感覚」のこと。堤氏はその“魔法”が「だいたい創業3年目で消え始める」という。

3年目というと調達ステージでいえば、シードからシリーズAラウンドにあたる時期。「何となく思っていた成長とは違う」「VCや自分たち自身の期待していたものと成長とのギャップを感じる」と、少しずつ苦しみ始める企業が増える時期だと堤氏は話している。

「かつてのグリーや最近のメルカリなど、テンポよく成長する企業はごくまれ。大半のスタートアップは勢いで3年目を迎えた後、いったん成長の踊り場を迎える。この踊り場のことを“3年目の魔法が消える”といった表現をしている。いわゆる“成長痛”のようなものだと理解してもらえばいいかと思う」(堤氏)

ではその“成長痛”の症状とは、どういったものなのだろうか。堤氏はいくつかの典型的な症例を挙げる。

1つ目は「人員は何となく増えているが、隣の人が何をやっているのかよく分からなくなってくる」というもの。30人〜50人規模の組織になってくると起こり始めると堤氏はいう。

2つ目は「創業メンバーと新規メンバーの確執」。例えば「あいつは仕事はあまりできないのに、初期メンバーだから取締役に収まっている」といった不満が新たに参加したメンバーから出るというものだ。堤氏によれば、これも「メチャクチャよくある」症例だとのことだ。

「鳴り物入りで入った幹部社員がワークしない」という例も多いという。Googleなどの有名企業から“優秀な人材”として移籍した人物であっても、アーリーステージのスタートアップにフィットするのは、なかなか難しいと堤氏は述べている。「大企業の中でスター社員だったとしても、スタートアップで成功することとは必ずしもリンクしない。『意外とワークしない』という感想になるのは、採用のときの期待値とのズレの問題でもある」(堤氏)

また「経営者がイベントなど外部のネットワーキングには熱心になるが、内部とのコミュニケーションがだんだん減って『最近社長とあまり会話できていない』『社長がオフィスにいるかいないか、よく分からない』となることもよくある」そうだ。

これらの状況の結果は成長率に現れると堤氏はいう。3年目までは劇的に成長していた企業であっても、成長の鈍化が見られるようになる。

「これは起業家には気をつけて欲しいことだ」と堤氏は、その成長鈍化の理由について、以下のように説明する。「成長市場を狙って起業すること自体はよいけれど、市場の成長と企業の成長は必ずしも一致しない。市場の成長率が10%で、自社の成長率も10%だったら、それは成長していないことになる。マーケットの伸び率に乗っかっているだけ。マーケットの成長が鈍化してしまうと、その会社の成長も止まってしまう」(堤氏)

組織が大きくなり、人が増えることを喜んでばかりもいられない。「気が付くと意外に生産性が下がっていて、1人当たりの売上高が前年より低くなっている」ということも、よく見られると堤氏はいう。

これらの症例には、多くのスタートアップが直面すると堤氏は述べている。「すべての企業とは言わないが、自分が見ている投資先でも7割ぐらいは、このうちの何かしらの問題にぶつかっている」(堤氏)

成長痛を意識したら3つの問いに立ち返る

スタートアップの魔法が解けたとき、経営者が口にしがちなのが「最近チームがワークしていないんですよね」というセリフだと堤氏は続ける。

「経営者は責任回避で言っているわけではないと思うが、チームがワークしないのは、そもそも採用した人が間違っているのが原因。なぜ採用してはいけない人を採用してしまうのか。それは採用戦略がブレているからだ」(堤氏)

戦略を決めたのは、他ならぬ経営者自身のはず。社員が増えても売上は思ったより上がっていないという状況になるのは、「チームや個人の問題というよりも、そもそも戦略に問題があるから」と堤氏は話している。

では、どうすれば戦略のブレを起こさずに済むのだろうか。堤氏は3つの基本的な問いに立ち返るべき、と次の項目を挙げた。

この3つの質問は、堤氏が投資をする前に必ず起業家にするものだという。「これらにスパッと答えられれば、すぐにも投資したい」という堤氏。そして、同じ問いをスタートアップの魔法が切れかかったときや、経営者が悩んでいるときに、あらためて確認するとよいと述べる。

「特に1つ目の問いは一番重要。『この会社の提供価値は何か』ということだが、ここがグレーになっているとブレる。勢いよく成長していくにつれて、経営者のやりたいことはどんどん広がっていく。広がること自体はよいが、その分どうしても密度が薄くなっていく。そうなると、そもそも自分が何がやりたかったのか、提供する価値は何なのかがぼやけ、戦略がブレていくことに重なっていく」(堤氏)

先に挙げた成長痛の症例が出てきたと感じた場合には、自分が何屋なのか一言で言えるかどうか、自問自答してみて欲しいと堤氏は話している。

アーリーステージでは育成よりカルチャーづくりを重視する

堤氏は「今日のテーマからは少し外れてしまうかもしれないが、3年から5年のアーリーステージのスタートアップでは、『チームを育てる』ことを考える余裕はない」と述べている。

それでは、経営者は何をすべきなのだろうか。堤氏はまず「ビジョン・ミッションをつくり、浸透させること」を挙げる。

「メルカリなどがうまいところだが、いかに文化をつくり、浸透させられるかどうかが重要。これにのっとって採用基準も決まってくる。みんな『スキルで採用してはダメ』と頭では分かっていると思うけれども、学歴や職歴でどうしても見てしまいがち。ビジョン・ミッションをつくって、そこに合う・合わないというのを採用のもっとも大切な評価基準にしていけばよいのではないかと思う」(堤氏)

次いで堤氏が経営者がすべきこととして挙げたのは「自分にとって大切な人順のリストをつくること」。「誤解を招く表現だけれども」と断りつつ、堤氏がその詳細について説明した。

「社員に順番をつける、ということを経営者には必ずやってほしい。というのは、正直に言って、会社がずっとうまくいくとは限らないので、常に入れ替えをしていかなければならない。場合によってはリストラしなければならないこともある。またそうした状況でなくても、常に『自分にとって何が本当に必要なのか』を考える意味でも、人に順序を付けてほしい」(堤氏)

社員が100名規模を超えたら、自分が見える範囲で順序を考える、といった形で応用していってもよいとのこと。「嫌な言葉に聞こえるけれど、これは本当にやっておいた方がいい」と堤氏はいう。

カルチャーづくりの方法としては、STRIVEの投資先でもあるRettyの行動指針づくりのケースが挙げられた。企業の成長ステージによって重視する点も変わるため、Rettyでは2年ごとに行動指針を更新しているという。

行動指針は、幹部社員だけではなく全社員(約100人)でつくるそうだ。顧客やプロダクトなどの課題感について「考えさせて、意見をアウトプットさせること」が大切で、業務とは異なる組み合わせでプロジェクトチームを組み、つくるという。

そこで出し合ったアウトプットは、合宿形式で全員でシェアし、集約してだんだん形にしていく。また、形にした行動指針を「どうやって浸透するかを全員で考える」ことが、もっとも大事だと堤氏。Rettyでは「壁に貼るとかいうことだけではなく、評価や採用、ビジネスモデルにどう反映するかをみんなが考え、浸透させている」ということだった。

評価制度をつくる代わりにRettyでは、カルチャー、行動指針に合っているかを判断基準にしていた時代もあったそうだ。「細かい評価制度をつくっても、30〜50人規模のアーリーステージの企業ではほとんどワークしない。カルチャーをつくりあげて、それに合うか合わないかで判断するのがよいと思う」と堤氏はいう。

またメンバーの育成についても「小さな組織では難しい」と堤氏。「特にアーリーステージでは育成や評価制度を考えるより、全社にカルチャーを浸透させた上で、それぞれのメンバーにチャレンジングな仕事をいかに用意できて成長させられるかが大事なのではないか」と話していた。