アンナ・ロスリング
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チンパンジーにならない方法をFactfulness共著者、アンナ・ロスリング氏に聞いてきた

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Factfulnessがベストセラーとなっている。この本は半年前にTechCrunchで書評したのでご記憶の読者もあるかと思うが、発行部数はシリアスな翻訳ノンフィクションとしては異例の41万部となっているという。副題の「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」が内容をよく表している。この本はその役目を間違いなく果たすと思う。

主著者のハンス・ロスリング博士はスウェーデン人で公衆衛生に関する世界的権威だったが2017年に急逝したため、子息のオーラ・ロスリング氏と妻のアンナ・ロスリング・ロンランド氏が原稿を整理、補筆、ビジュアル化して本書に仕上げた。日本で大きな注目を浴びたことを機に共著者のアンナ・ロスリング氏が来日して講演し、メディアのインタビューを受けた。TechCrunchでも話を聞く機会があったので紹介したい。インタビューは丸の内北口ビルのWeWorkの会議室で行ったが、その後アンナ氏を囲むパーティーで尋ねた部分も含まれている。

Anna Rosling

Q:連日休みなしに取材に応じてると聞きましたが大変ですね。

A:平気です。実はこんなに大きな反応があるとはまったく思っていませんでした。嬉しい驚きです。

Q:ハンス・ロスリング博士とはどういう関係ですか?

A:夫のオーラの父です。義父ということになります。

Q:ではある意味ファミリービジネスですね。しかし誰もが義父のビジネスに入るわけではない?

A:そうですね。私はデータのビジュアル化ということに長年興味がありました。その背景については私自身のことを少しお話する必要があるかと思います。私は小さいころ一人で独立して生きて行けるようになることが夢でした。就職するのもイヤ、結婚するのも、家族を持つのもイヤと思っていました。これは実は全部外れて、今は結婚して子供たちもいるんですが。

Q:アーティストになろうとしたのですか?

A:実は大学で写真と社会学を学びました。

Q:それはかなり珍しい組み合わせですね。

A:スウェーデン中部のイェテボリ大学で写真、南端のルンド大学で社会学を勉強しました。大学が300km近く離れていたので往復が大変でした。ともあれすぐに社会学は退屈な話ばかりだと思い始めたし、フォトグラファーとなるほどには写真にも打ち込めませんでしたが…そうですね、ここで得た知識や技能はデータをビジュアル化することの重要性に気づかせてくれたと思います。

Q:社会学と写真の接点にデータのビジュアル化の秘密があったのですね。

A:今でも写真は好きです。裏表紙側の写真は私が撮ったものです。

Q:そうでしたか。グラフといえば表紙側のグラフがすばらしいですね。膨大な数のデータが巧妙にまとめられ、一見して所得と寿命には強い相関があることが分かります。しかし米国は日本より所得が高いのに寿命が短い。それどころか平均回帰直線より下です。逆にキューバは米国や日本より所得がずっと低いのに平均寿命は米国と同水準ですね。眺めているだけで次々に発見があります。

A:こうしたデータは国連や各国の官庁が大量に持っていると思います。しかしたいていの場合、数字がぎっしり詰まった表に過ぎません。無味乾燥な数字のままでは誰も意味を読み取ろうとしません。オーラ(ハンス・ロスリング博士の子息)と結婚して義父の原稿に目を通しているうちに私の能力が役に立つのではないかと気づきました。

Q:統計というのは学問から日常生活まであらゆる面でわれわれの行動の指針を提供してくれるのですがなかなか興味を集めることができません。

A:義父は貴重なデータを膨大に持っていました。オーラと私はそのデータを整理して説得力ある形で提供しようと考えました。もちろん大勢の友人の協力を得たわけですが、これほど大きな反響があるとは思いませんでした。

Q:この本では「チンパンジー」をランダムな推測の例にしていますね。「世界の1歳児でなんらかの予防接種を受けている子供はどのくらいいる?A:20%、B:50%、C:80%」という質問があります。チンパンジーなら33%の確率で当たるはず、というのですが、人間の正解率はチンパンジーより低い。(正解は「C: 80%」)。

A:残念ながらそうなのです。しかもジャーナリストのほうが一般の人よりさらに成績が悪いという傾向が出ています。

Q:これが「賢い人ほど世界の真実を知らない」ということですね。

A:この本ではこうしたバイアスに陥らないためのチェックポイントを10章に分けて説明しています。

Q:恐怖本能、犯人探し本能などバイアス生む「10の本能」ですね。たいへん詳しく説明されています。

A:ひとつひとつのコンセプトはシンプルなのですが、義父は膨大なデータによって実例を挙げているので取捨選択がたいへんでした。たとえば、多くの人に「世界はどんどん悪くなっている」という思い込みがありますが、データはそれと逆です。世界の多くの地域で生活水準はアップし、寿命も伸びています。

Q:最後にひとつ質問です。私(滑川)もその昔、統計を扱う仕事をしていたことがあり、職場ではランダムな推測を「ゲス(guess)回答」と呼んでいました。「チンパンジー」というのはユーモラスですし、誰でも直感的に分かる比喩だと思うんですが、このアイディアはどこから来たのですか?

A:これは義父がTED講演でも使っていたのですが、もともとは霊長類の研究者との会話から思いついたものです。つまりチンパンジーは複雑な問題に対しても必ずしもランダムな選択をするわけではないというのですね。

Q:なるほど。われわれは不用意に主張を始める前に、まずファクトを確認する習慣を身につけてチンパンジーに負けるようなことがないよう努力しなければなりませんね。どうもありがとうございました。

インタビューは東京駅を見下ろすWeWork丸の内北口の会議室で行われたが、これはWeWorkの鈴木裕介プロダクト・マネージャーがアンナ氏がシンガポールでTED講演をしたとき知り合ったことがきっかけだったという。

本書の成功は正確かつ読みやすい翻訳も大きな役割を果たしているが、インタビュー後のパーティーで「ゼロ・トゥ・ワン」の翻訳でも知られる共訳者の関美和・杏林大学准教授(写真下)に話を聞くことができた。それによるとボリューム(370ページ以上)とテクニカルな内容から上杉周作氏と共訳することを選んだという。上杉氏はパーティーでは会えなかったが、カーネーギーメロン大学修士、Palantir Technologiesのエンジニアなどを経てフリーランスとなったという経歴で、翻訳後にはオンラインでチンパンジー・クイズや日本のデータをベースにしたニホンザルクイズを公開するなど積極的にコンセプトの普及に努めている。

 

トップ画像はアンナ・ロスリング氏と担当編集の日経BP中川ヒロミ部長(会場は「豚組しゃぶ庵」)。

滑川海彦@Facebook