ジャーナリストからVCヘ、TechCrunch Japan前編集長の西村賢氏がCoral Capitalに参画

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左からCoral Capital創業パートナーの澤山陽平氏、新たにパートナー兼編集長として参画したTechCrunch Japan前編集長の西村賢氏、創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏

Sequoia Capitalのマイケル・モリッツ氏、Google VenturesのM.G.シーグラ―氏、True Venturesのオム・マリク氏。米国でベンチャーキャピタリストとして活躍する彼らにはある共通点がある。全員が過去にジャーナリストを経験しているということだ。

モリッツ氏はTIME magazine、シーグラー氏はTechCrunch、マリク氏は自身が立ち上げたテックメディアのGigaomに携わった後、キャピタリストへと転身している。

ちなみにシーグラー氏が以前在籍していたCrunchFundもメディア出身者が立ち上げたVC。創設者はTechCrunchの創設者でもあるマイケル・アリントン氏だ(現在アリントン氏はデジタル資産運用ファンドを立ち上げ、運営している)。

さて、ここまでは米国の事例をいくつか紹介してきたけれど、本日は日本国内におけるジャーナリストからVCへの転身ニュースを取り上げたい。

VCのCoral Capitalは8月1日、TechCrunch Japan(以下 TC)前編集長の西村賢氏がパートナー兼編集長として参画したことを明らかにした。

「ジャーナリストがVCへ移籍する、もしくはVCを立ち上げる」事例は米国に比べると日本ではまだまだ少ない。日経BPでの編集記者やCNET Japan編集長などを経て、慶応大VCである慶應イノベーション・イニシアティブの代表取締役社長に就任した山岸広太郎氏。そして西村氏の前にTCの編集長を務め、現在はB Dash Venturesで活動している西田隆一氏らが代表的な例だろうか。

今回は新たなチャレンジを始める西村氏と、Coral Capital(以下Coral)の2人の創業パートナーにジョインの背景や今後の取り組みについて話を聞いた。

テック系ジャーナリストからGoogleを経てVCへ

西村氏は2013年にTCへジョインする前からアスキーやITmediaにてテクノロジー領域のジャーナリストとして活動してきた。

特にITmedia時代には「@IT」の副編集長としてエンタープライズITやソフトウェア技術の動向を追いかけ、DropboxやAirbnbなど今やIT業界を代表する企業の創業者らにも取材をしている。2013年からは約5年間に渡ってTCの編集長を務めた後、昨年Googleに移籍。国内のスタートアップ支援や投資関連業務に携わっていた。

Coralではパートナー兼編集長としてウェブメディア「Coral Insights」のコンテンツ責任者を担うほか、新規投資先の開拓や投資業務などにも関わる予定。西村氏によるとまずはメディア側の仕事がメインになるそうで「直近は9:1とか8:2の割合でメディアを中心にしつつ、ゆくゆくは投資業務の割合を増やしていくことを考えている」という。

「TC時代に感じていたのは、国内のスタートアップコミュニティでは情報の非対称性が大きいということ。起業家に比べてVCが圧倒的に多くの情報を持っていて有利な状況で、メディアとして情報の透明性を高めることでなんとか変えたいと考えていた。『どうすれば日本のスタートアップエコシステムが健全に発展するのか』というのは個人のアジェンダとして何年も前から模索してきたことだ」(西村氏)

情報が普及することでエコシステムのレベルアップに繋がる

Coral Capitalが運営するメディア「Coral Insights」

西村氏がジョインしたCoral Capitalは500 Startups Japanの創業チームが2019年3月に立ち上げたVC。500 Startups Japanの立ち上げ期から自社のブログメディアを軸に、オリジナルコンテンツの発信や投資契約書「J-KISS」の無償公開など情報公開を積極的に行ってきた。4月に紹介した起業家調査レポートも同社が作成したものだ。

Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Riney(ジェームズ・ライニー)氏も話していたが、米国ではVCが自ら情報発信する文化があり、多様な情報やナレッジが普及することでスタートアップエコシステム全体のレベルアップにも繋がっている。

たとえば日本のメディアにもよく登場するAndreessen HorowitzやY Combinatorなどはテキストコンテンツはもちろん、ポッドキャストを通じた音声や動画コンテンツにも以前から取り組んでいる。

ジェームズ氏らもファンドを組成した当初から「(年間のスタートアップ投資が数千億円の)限られた日本市場のパイを奪い合うのではなく、パイ自体を大きくする挑戦をしたいと考えていた」ため、エコシステムのさらなる発展に向けて日本語での情報発信に力を入れてきたという。

これまではジェームズ氏と創業パートナーである澤山陽平氏の2人を中心に手探りで取り組んできたが、メディア機能を一層強化する上ではプロフェッショナルにジョインしてもらったほうがいいと感じていたそう。2号ファンドがクローズしてリソースが増えたタイミングで、以前から付き合いのあった西村氏を正式に招き入れた。

「ここ数年で大型の調達も増え、起業家のバックグラウンドも多様化するなど国内のスタートアップ環境が大きく変わった。スタートアップ界隈の人にはこれまでのやり方でも情報を届けられるかもしれないが、『大企業にいてなんとなくスタートアップにいる人』や『(テックとは)まったく繋がりのなかった業界や士業の人』にまで広く情報を届けるには、さらにパワーアップさせる必要がある」(澤山氏)

ちなみに最近ではCoral Capitalでも新たに動画コンテンツの配信に取り組んでいて、YouTubeの公式チャンネルでは投資先インタビューやセミナーのパネルディスカッション、澤山氏によるファイナンスのレクチャーなどが配信されている。

このチームでなら、大きなインパクトを残せるかもしれない

Coralの2人のパートナーと西村氏の出会いは2015年に500 Startups Japanが始動する以前に遡る。元起業家でかつてディー・エヌ・エーの投資部門にも在籍していたジェームズ氏とはTCのイベントなどで、野村證券出身でエンジニアとしての顔も持つ澤山氏ともTC主催のハッカソンなどで交流があった。

双方とも「当時は後に同じチームでスタートアップ投資をやることになるとは思ってもいなかった」と口を揃えるが、ファンドのリブランディングとメディアの強化を考える時期に差し掛かりジェームズ氏から熱烈にオファーしたそうだ。

「起業家に親身になって考える姿勢はもちろん、バイリンガルな点や自ら手を動かしてものを作れる点も含めてカルチャーにフィットしていると感じた。特にCoralのメンバーは自分でものを作れるメンバーが多く、大事にしている考え方の1つでもある。サイトも自分たちでデザインして作っていて、澤山とはVCを立ち上げる前に2人でプロダクトを開発していたこともあるほど。(TC時代から社内ツールを自作するなどしていた西村氏とは)似ている部分も多い」(ジェームズ氏)

「何事もデータ・ドリブン、テックドリブンでスケーラブルなやり方を考えるという文化がある。情報発信にしても草の根的に直接伝えることもやりながら、記事や動画にしてコンテンツをシェアしていくことも並行して行う。その点でも(西村氏は)相性がいいと考えていた」(澤山氏)

西村氏も彼らの情報発信のスタンスには500 Startups Japanの頃から注目していたとのこと。もともとは今回のタイミングで転職を考えていなかったため「ジェームズから声をかけられなければ、当然のようにGoogleに在籍していたと思う」と話すが、カルチャーや目指しているビジョンなども合致したことで最終的には参画を決めたようだ。

「コンテンツに関われること自体が自分にとっては報酬のようなもの。アーリーステージから、よりダイレクトに起業家と接していられる環境も魅力的だった。でも1番はジェームズの話を聞く中でこのチームと一緒にやれば大きなインパクトを出せるんじゃないかと直感的に思えたこと。ジェームズは起業家出身ということもあって、けっこうしつこいところがある(笑)。それはとても大事なことで、ビジョンを掲げて人を巻き込む力が強く、そこにも共感できた」(西村氏)

チーム「Coral Capital」としてエコシステムの発展目指す

Coralとしては今回西村氏が加わったことで「これまではブログ的な形で運営していたが、本格的なメディアを作るくらいの熱量で情報発信する」(ジェームズ氏)とのこと。まずは日本のスタートアップへの投資額を1兆円規模まで拡大させることを1つの目標に、メディアを始め各領域で投資担当以外のメンバーも招き入れながらチームとしてスタートアップを支援していくという。

「Coralには投資担当以外にもすでに(投資先の採用を支援する)採用担当や広報を支援するパートタイムのPR担当がいて、お金以外のバリューをどれだけ出せるか強く意識しながらやってきた。継続的にリターンを出しながらエコシステムの健全な発展に大きなインパクトを与え、歴史に名を残せるような存在を目指してチームで取り組んでいく」(ジェームズ氏)

西村氏も「近年はVCが今まで以上にチーム戦になってきている」と感じているそう。日本のスタートアップ環境の変化とともにVCを取り巻く状況にも変化が訪れているタイミングで、「2019年は日本のVCにとってティッピングポイントになるのではないか」という。

「たとえばAndreessen Horowitzは約150名のメンバーのうち投資担当は50名弱ほど。コンテンツだけでなくデザイナーやエンジニア視点でアドバイスができるメンバーなども含め、VCがチームとしてスタートアップを支える基盤を強化している。日本でも同じような流れになるのではないか」

「ここ2〜3年で日本国内のスタートアップコミュニティ内でも、ものすごいスピードで情報のキャッチアップが進んできた。とはいえみんなが当たり前のようにエクイティの話をしたり、幅広い層に情報が行き届く状態には達していない。まずはVCの中から情報発信を通じて、スタートアップエコシステムの発展につながるチャレンジをしていきたい」(西村氏)