Element AI

企業のAI導入を支援するカナダのElement AIが約163億円を調達

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グーグルやアマゾンのようなテクノロジーの巨人が、自身のビジネスの成長のために多数の人工知能アプリケーション開発に向け投資している一方で、あるスタートアップがテクノロジービジネスを本業としない会社のAI導入を支援するために巨額の資金調達を行った。

Element AIは、幅広いネットワークを有する資金潤沢なカナダのスタートアップだ。人工知能ソリューションの開発と実装を支援するためのAIシステムインテグレーターで、機械学習、ニューラルネットワークベースのソリューション、画像認識の分野における「アクセンチュア」だといえるだろう。本日(カナダ時間9月13日)、2億カナダドル(約163億円)の調達を発表した。調達した資金は、新しいAIソリューションなどの研究開発や製品化に使う予定だ。

「AIの実用化は現在、業界で最も困難な課題だ。プルーフ・オブ・コンセプト(実現可能性が検証された新しい理論や概念)を研究室から取り出し、戦略的に企業のビジネスに組み入れ、実際のビジネスインパクトを生み出すことに成功している企業はほとんどない」とElement AIのCEOであるJean-François Gagné(ジャン・フランソワ・ガネー)氏は言う。「このような課題をよく理解している新しい出資者と協力し、AIソリューションを市場に投入する際にお互いの専門知識を活用できることを嬉しく思う」。

同社は資金調達の発表でバリュエーションを開示せず、ほかの場で公表したこともないが、PitchBookは前回2017年の1億200万米ドル(約110億円)調達したラウンドでポストマネーのバリュエーションが3億米ドル(約324億円)だったとレポートしており、Element AIに近い情報筋からも確認が取れた。筆者の理解では、現在のバリュエーションは6億米ドルから7億米ドル(約648億円から756億円)であり、これはElement AIの成長を示すものだが、同社の動向がこれまで静かだったことを踏まえると非常に興味深い。

本ラウンドはケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)がリードし、McKinsey&Companyやデータアナリティクス会社のQuantumBlackに加え、ケベック州政府も参加した。既存の株主には、DCVC、Hanwha Asset Management、BDC(カナダ産業開発銀行)、Real Venturesなどがいる。同社はこれまで総額3億4000万カナダドル(約276億円)を調達した。また、ストラテジックインベスターとして、Microsoft、Nvidia、Intelが投資している。

Element AIは次のような前提に立って創業された。AIはコンピューティングそのものだけでなくビジネスの現場においても大きな転換をもたらす。しかし、すべての企業がテクノロジーを本業としているわけではないため、企業間で格差が生じる。それは、AIの開発に投資して、AIを使って解決可能な問題を見つけられる企業と、そうではない企業の間の格差だ。

Element AIは、テクノロジーを本業としない企業をターゲットとした「AIショップ」としてスタートした。企業がAIを使ってビジネスをもっとうまく進められる領域を見つけ、AIソリューションを開発して実行するのを手助けをする。現在提供する製品は、保険、金融サービス、製造、物流、小売などの業種向けだ。今回の資金調達によって支援する業種の幅はより広がるだろう。

Element AIの難点を一つ挙げるなら、顧客リストの公表に消極的なことだ。支援先としてBank of CanadaやGore Mutualがすでに知られているが、ウェブサイトにケーススタディや顧客に関する情報はほとんど掲載されていない。

想像するに、これは、Element AIとその顧客の両方が、競争相手に知られずに事を進めたいということの表れなのだろう。実際、Element AIと連携して長期にわたって製品を開発・利用している大企業が多数あるようだ。また、本ラウンドに投資した大企業(特にマッキンゼー)が投資をきっかけに自社の顧客をElement AIに紹介した結果、Element AIの顧客が増えているとのことだ。受注金額は現時点で「数十億円規模」となったようだ。

「今回我々は、Element AIを変革するのにふさわしい他の投資家とともに、資金と専門知識を提供する。Element AIを、顧客のニーズに応えるAI製品を開発して、ビジネスとして成り立つ企業に変えていく」と語るのは、CDPQのEVPでケベック州投資・グローバル戦略企画ヘッドのCharles Émond(シャルル・エモン)氏だ。CDPQは今年AIファンドを立ち上げた。今回の投資はこのファンドからの資金で、この地域で生み出され開発されるAIの技術と知的財産の輸出を支援することが狙いだ。「CDPQはこのファンドを通じて、人工知能分野におけるケベックのグローバルな存在感の構築・強化に積極的に貢献したい」。

マッキンゼーのようなコンサルティング会社は基本的にElement AIの競争相手だが、実際のところはElement AIの顧客としての立ち位置になりつつある。従来のシステムインテグレーターは、コンピューティングの新領域で必要とされる深い専門知識を持ち合わせていないことが多いからだ(マッキンゼー自身も、たとえばアナリティクス会社であるQuantumBlackを買収するなど、この領域の専門能力を高めるために投資している)。

「マッキンゼーにとってこの投資の狙いは、我々の顧客がAIと機械学習の可能性をもっと引き出し、業績を向上させるよう支援することだ」。マッキンゼーのシニアパートナーであり、モントリオールのマネージングパートナーであるPatrick Lahaie(パトリック・ラエ)氏はこう説明する。「我々は、Element AIの優秀なチームとカナダだけでなく世界中で密接に協力し、最先端の思考と技術からAIソリューションを生み出し、幅広い産業やセクターを変革するという共通の目標に向かって共に前進することを楽しみにしている。この投資は、2015年にQuantumBlackを買収したマッキンゼーの長期的なAI戦略に合致している。QuantumBlackは、買収以来大幅に成長しており、弊社グループを代表してElement AIとのコラボレーションをリードしていく」。

画像クレジット:sorbetto / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)