フードテック

人が食べる限りなくならない、フードテック投資機会の現在とこれから

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この地球上に、食料と農業ほど大きな産業はない。70億人という安定した忠実な顧客数を誇る。実際、世界銀行は全世界のGDPに占める食料と農業の割合を10%と見積もっている。つまり食料と農業は、2019年の全世界のGDP予測88兆ドル(約9500兆円)に対して、およそ8兆円(約960兆円)になる計算だ。

食料に関して言えば、2018年に食料品店やその他の小売店で飲食料に支出された金額、および外食やスナックに支出された金額の総計は、米国内だけで1兆7100億ドル(約184兆7000億円)が記録された。同年、米国人の可処分所得の9.7%が食品に費やされている。そのうちの5%が自宅、4.7%が自宅外での出費だ。経済が大きく変動する中、この割合は過去20年間で一定水準を保っている。

不動の顧客数を誇る食品産業だが、消費者の傾向に起因する、生産、需要、規制において、いまだかつてない難題に直面している。この数年で、消費者の要求と関心が変化した。持続可能性、健康、鮮度への消費者の関心が高まり、食品産業のイノベーションを求める圧力が非常に大きくなっているのだ。

避けられないイノベーション

近年、アグテック分野の革新を進める者たちは世界の食料供給量を増やそうと、大変に面白く斬新なテクノロジーの使い方を生み出している。アグテックのイノベーションは、穀物を守り、生産量を高める。それは、農業システムの構造変革を促し、温室効果ガスの削減、水の使用量の削減、森林伐採の阻止、さらには二酸化炭素の土中への隔離といった重要な持続可能性の目標達成にもつながる。

しかし、これはまだ序の口だ。人が食べなければならない限り(しかも1日に何度も!)、飲食料の技術革新への巨大な投資機会はなくならない。それは、よりよい食品流通、保存、アクセスを通じて、革新的な食材や栄養価の改善による食料エコシステムの健全化をもたらすフードテックだ。

食料の改善にテクノロジーを利用する機会は膨大にあり、その範囲は世界人口の増加にともなう環境破壊を最小化するために不可欠な食料消費方法の改善から廃棄量の削減にわたっている。この巨大な好機を認識したベンチャー投資家たちは、この分野に密着して観察を行っている。PitchBook(ピッチブック)によれば、フードテックへの投資は2008年のおよそ6000万ドル(約65億円)から2015年の10億ドル(約1080億円)以上へと激増している。またCB Insightsによれば、この分野に特化したベンチャー投資家やプライベート・エクイティ・ファンドからの投資は、2015年の223件から2017年の459件へと倍増している。投資総額とイグジットの動きを見てみると、フードテックは今や両方の分野でアグテックを超えている。フードテックセクターの全世界の潜在顧客数が70億人(さらに増加中)であることを考えると、まだまだ規模は小さい。

フードテック投資を牽引する投資家たち

消費者は、自分たちが食べるものに関して神経質になってきている。忙しい仕事と個人の生活を両立させようとすれば、自分たちの食事には利便性を求めたくなる。だが、便利であっても品質は落としたくない。これまでになく人々は、食品に何が含まれているか、原産地はどこか、その収穫と加工の方法は環境に悪影響を与えていないかを気にするようになっている。

数年前、消費者向けパッケージ製品(CPG)の既存メーカーは、消費者の高まる要求に応じようと、こぞって便利で高品質な食品の提供を約束した。しかし、原材料のマージンが低下して企業統合なども重なると、その努力は腰折れとなって多くの企業は方向転換を余儀なくされた。だが門戸は開かれたままだったので、腹を空かせた投資家やスタートアップに新しい波が沸き立つことになった。

現在の消費者が求めるのは利便性と安定性だけではない。簡単に手に入り、食品ロスが少なく、自己ブランドに合致する栄養価の高い食品も求められている。実際、今ほど食品会社が厳しい思いをする時代はないだろう。消費者の需要は、倫理的な信念にまで広がっているが、利便性は決して落としてはならない。しかしその出費傾向を見ると、消費者は、利便性、健康、環境への影響への高まり続ける要求に応えてくれるフードテックイノベーションのためなら、喜んで高い金を払う覚悟でいることがわかる。革新的な食品業者がこの市場の要求を逆手に取れるチャンスは増え続けているのだ!

フードテックの存在

世界的に食事の出前サービス業界には、ベンチャー投資家に支えられた株式非公開のフードテック系スタートアップがもっとも多く存在しており、今では最大のフードテック分野となっている。去年は、フードテックにとって投資額169億ドル(約1兆8300億円)を記録した特別な年だった。Crunchbaseによれば、その年の投資額トップ3は、インドを代表するオンラインレストランマーケットプレイスSwiggy(スウィギー)の10億ドル(約1080億円)、米国の食品配達サービスInstacart(インスタカート)の6億ドル(約650億円)、ブラジルを拠点とするレストランマーケットプレイスiFood(アイフード)の5億9000万ドル(約640億円)だった。

消費者の食事の出前や食品配達サービスに対する食欲は衰えないものの、食事キットサービスのBlue Apron(ブルー・エイプロン)などの大失敗の余波を受けて、投資家たちは警戒感を強めた。その失敗例は、規模の拡大、役に立たない食品特許、サプライチェーンでの腐敗や汚染といった課題を強調している。この失敗により、多くの投資家は、新しいフードテックの未開拓地に目を向けるようになった。

フードテックのこれから

フードテックのイノベーションにより、まったく新しい画期的なアプローチをバリューチェーンに即して提供する3つの重要な分野が誕生した。これらは、食品産業における深刻な問題点に対処する技術的なアプローチを代表するものであり、今後数年で目覚ましい成長を遂げ、投資家の注目を集めることが期待されるセクターだ。

消費者向けフードテック

消費者向けフードテックは、おもに消費者に向けてマーケティングされる技術開発に焦点を当てたフードテック投資の中のセグメントだ。例えば、植物由来の肉、画期的な配送システム、栄養学に基づくテクノロジーなど、消費者の要求を満たすことを目的としている。消費者向けフードテックのイノベーションを進める企業には、代替タンパク質、代替乳製品、栄養キットや食事キットを配送するものなどが含まれる。

オーガニック食品の流行がピークに達し、商品化が始まると、その隙間に新しい食品の流行が始まった。植物由来、肉を含まない、アニマルフリーなど、呼び方はどうあれ、人々は肉を食べないことに熱狂し始めているようだ。肉を使わない肉が登場したというニュースや広告を見ない日はない。

バーガーキングもマクドナルドも、肉を使わないハンバーガーをメニューに加え、トレーダー・ジョーズやホール・フーズといった自然食品スーパーでよく買い物をしている人たちを呼び込むようになった。バーガーキングはImpossible Foods(インポッシブル・フーズ)の製品を、マクドナルドはBeyond Meat(ビヨンド・ミート)の製品を使っている。もうひとつはMemphis Meats(メンフィス・ミーツ)だ。小売大手のIKEA(イケア)で出しているような悪名高いスウェーデン・ミートボールのベジタリアンバージョンの開発を行っている。

それだけではない。代替タンパク質の商品化を目指す企業がいくつもある。細胞培養で卵白を作るClara Foods(クララ・フーズ)、乳製品やナッツを含まないミルクの代替品の開発に特化したRipple Foods(リップル・フーズ)やOatly(オートリー)など。UBSの見積もりによれば、植物由来タンパク質の市場だけでも、現在の50億ドル(約5400億円)以下の規模から、今後10年で850億ドル(約9兆1800億円)あたりの規模にまで拡大するという。年間およそ28%の成長率だ。

一方、Brightseed(ブライトスティード)、Just(ジャスト)、Renaissance Bioscience(ルネサンス・バイオサイエンス)といった企業は、生物学と栄養機能食品の新しい道を開拓し、清潔で小規模、そして持続可能性のある方法での食品やサプリの製造方法を研究している。

業務用フードテック

食品そのものに取り組む企業もあれば、持続可能で健康で革新的なこのニューウェイブの食品を、どのように加工、パッケージング、配送するかに取り組む企業も数多い。業務用フードテックは、食品産業における基本的なビジネスモデルとB2Bの弱点に対処することを目的としたフードテックのサブセグメントだ。これに携わる企業には、加工とパッケージングの革新的テクノロジーや、栄養、ラベリング、製法が改善された新しい、または機能性のある食材に取り組むところが含まれる。

Apeel Sciences(アピール・サイエンセズ)やHazel Technologies(ヘイゼル・テクノロジーズ)などの食品保存技術を開発する企業は、輸送中の食品の質を保ち、食品の無駄をなくす努力を牽引している。そこはイノベーションを待ち望んでいる分野だ。消費者の手に届く前に無駄になる食品は、米国でのすべての食品ロスのうちの40%を占めている。食品ロスの削減は、必要とされる耕作面積の削減にもつながる。

食品加工と品質評価の技術も、このセグメントの先頭に立つ分野だ。例えば、食品調査のスタートアップであるP&P Optica(ピー・アンド・ピー・オプティカ)は、食品の品質評価と異物検出の技術に投資を受けている。そのハイパースペクトル技術には、異物の自動検出による食品の安全性向上のみならず、食肉の等級付けを標準化し、時間をかけて改善できる可能性がある。

乳化剤、甘味料、安定剤、その他の食品添加物などの業務用素材を扱う急成長中のセクターと合わさり、大手食品加工業者が革新的になること、さらにずっと革新的であることを消費者から強く望まれている中で、このセクターも急成長している。Aromyx(アロミックス)などの企業は、味や匂いといった要素を評価することで、調剤、化学、農業、飲食品、PCGなどさまざまな産業で製造工程を強化することができる。

サプライチェーンと調達

メキシコ料理のファーストフード、チポトレの集団食中毒事件やそれに準ずる問題により、食品サプライチェーンの透明化が重視されるようになった。Safe Traces(セーフ・トレーセズ)をはじめとするスタートアップは、食品原産地の新しい追跡モデルを商品化することで、食品のトレーサビリティーを高めようとしている。食品偽装、トレーサビリティー、さらに原産地表示の必要性から、消費者の意識は高まっている。これが、その問題に対処する食品サプライチェーンのイノベーションという強力なビジネスケースを生み出した。消費者の、食品サービスにおける品質、利便性、グルメ商品に関する好みが変化したことで、ファストカジュアルレストランというカテゴリーが誕生し、ファストフード店はそのデリバリーモデルの再考を迫られることとなった。

Finistere Ventures(フィニステア・ベンチャーズ)のポートフォリオにも含まれているFarmer’s Fridge(ファーマーズ・フリッジ)やBingoBox(ビンゴボックス)といったスタートアップは、シェフが厳選した食事やスナックをパッケージ化して、便利な場所に置かれた自動販売機や無人コンビニで販売している。6D Bytes(シックスディー・バイツ)は、AIと機械学習を使い、スムージーなどの健康的な食品をオーダーメイドしてくれる。Starship Electronics(スターシップ・エレクトロニクス)は、地域の店舗やレストランと提携して人々に食品を配達するロボット軍団を提供している。

このセグメントでのイノベーションは、トレーサビリティー、持続可能性、鮮度の改善、食品ロスの削減に焦点が当てられている。例えば、Good Eggs(グッド・エッグズ)とFarmdrop(ファームドロップ)は、新鮮で持続可能な方法で入手した食品を再利用可能な容器で届けてくれる。Full Harvest(フル・ハーベスト)は、食品サプライチェーンにそのままでは捨てられてしまう規格外または余剰作物を利用する、いわゆるShop Ugly(ショップ・アグリー、不格好なものを買うこと)を推奨している。

テクノロジーは、私たちが食べるものがどのように作られ、どのようにパッケージ化され、どのように届けられ、どんな味、食感、匂いがして、どのように再利用されるかに関して、ますます重要な役割を果たすようになる。フードテックへの投資は、より健康的で、より持続可能な食品システムを世界に届けることを期待して、これからも増え続ける。つまるところ、私たちは私たちが食べたもので作られているのだ。

【編集部注】著者のIngrid Fung(イングリッド・ファン)は、Finistere Ventures(フィニステア・ベンチャーズ)のアソシエイト。

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(翻訳:金井哲夫)