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デバイス側で学習・予測が完結できるエッジAI開発のエイシングが3億円を調達

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エイシング代表取締役CEO 出澤純一氏

エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(以下DBT)」を提供するエイシングは11月20日、約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は三井住友海上キャピタル株式会社が運営するMSIVC2018V投資事業有限責任組合。2016年12月設立のエイシングは、2017年にも約2億円を調達しており、今回の調達により、累計調達金額は約5億円となる。

エイシングが開発・提供するDBTは、産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」だ。画像認識などで知られる従来のディープラーニングをはじめとしたAIは、容量が大きく、クラウド側で情報処理が行われることが多い。これに対し、エッジAIは導入機器側にエンベッドして情報処理を実行し、学習と予測を完結して行う。このため、クラウドサーバーとエッジの通信による遅延が回避でき、高速なデータ処理が可能だ。

特に産業ロボット、自動運転車など、エッジデバイス上でのリアルタイムかつ高精度な制御が求められる領域では、エッジAI実装へのニーズが高まっているという。こうした背景を踏まえ、エイシングではエッジ側でリアルタイムに自律学習・予測が可能な独自のAIアルゴリズムDBTを開発・提供している。

DBTの特徴は高精度、軽量でオンライン学習ができる点だ。現在、エイシングではマイクロ秒単位での高速動作が特徴の「DBT-HT(High Speed)」と、精度を向上させた高精度型の「DBT-HQ(High Quality)」の2種をリリース。速度重視、精度重視とユーザーニーズに応じて、ソリューションを提供している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「既存アルゴリズムのDBTに加えて、新しいアルゴリズムの発明も行っており、エッジ側で逐次的にリアルタイムで学習して予測制御を行うエッジAI技術『AI in Real-time(AiiR)』として、プロダクト群を展開していく」とのこと。

エイシングでは、一時は金融工学への応用なども検討していたが、現在は、強みである機械工学の領域での開発に集中している、と出澤氏。オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業ともPoC実施、共同開発を進めているそうだ。技術レベルの向上により、セキュアで、データ的に軽量な実装も実現してきているという。

実証実験済みのユースケースでは、トンネルなどの掘削に使われるシールドマシンの制御において、熟練工の指示に代えて、リアルタイムでのフィードバックと予測制御をエッジAIが行うことで、掘削効率と精度の向上を図っている例や、プログラムに記述しきるのは難しいクレーンの制御を、ディープラーニングによる画像解析との組み合わせにより、エッジ側でリアルタイムに学習しながら動作に反映することで実現する、といった例などがある。

また現状ではシミュレーター上での再現だが、クルマのスリップを事前予測して、制御側にアラートするという例もあるそうだ。従来のセンシングではスリップをしてからいかに早く戻れるか、という制御を行っているのだが、エイシングのエッジAIはスリップをする状況を事前に学習させておくことで、「このままの速度、ハンドル操作では何ミリ秒後に滑る」という情報を制御側に教えて、スリップを回避することができるという。

クルマの制御ではタイヤの摩耗や気温、路面温度などの環境が大きく影響するが、全てをセンシングするわけにはいかず、条件ごとの制御をやり切るのが難しいという事情もある。そこをエイシングのエッジAIでは、センシングが簡単な加速度センサーと車速計、ステアリングの角度だけを参照して学習することができ、さらに積載量、人数による変化も追加で学習して補正し続けることも可能だという。

出澤氏はさらに「工場の機械などで、経年劣化による変化を反映して制御することや、モーターなど製品の微妙な個体差を補正すること、スマートウォッチなどのウェアラブル端末で生体情報の個人差を補正するといった、リアルタイムで学習しながら補正して出力をする、個体差補正についてはエイシングのエッジAIしかできない部分だ」と述べている。

今回の調達資金により、エイシングではDBTをはじめとするエッジAI技術、AiiRの研究開発の強化と、顧客のシステムへの実装までを技術的にカバーする体制づくりを図る。

出澤氏は「顧客からのヒアリングを重視することで、課題・ゴールを明確にしてPoCを実施してきた。現在はパートナーとしての共同開発まで進んでいるところ。今後、この技術のライセンス提供を目指している」と話しており、既に数社へのライセンス提供は見込めそうだという。また、中長期的には、DBT以外のプロダクトも含めたデバイス側AIの市場獲得を図っているとのことで、「3〜5年のタームでグローバルにも展開していき、工業製品AIのデファクトスタンダードを目指したい」と語っている。