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スマートロックをサブスクで提供するビットキーが39億円超の資金調達、ID連携・認証などの基盤も整備

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通販サイトで注文した商品が、今日配送できると通知が来た。あなたは配送業者に、配達時間帯の一度きりのオートロック解除の許可を送り、自宅マンションの玄関ドア前まで届けてもらうよう指定する。今夜は楽しみにしていた人気アーティストのコンサートがあり、帰宅は遅くなる予定だからだ。

終業時間になり、オフィスを出る。ライブ会場はオフィスから地下鉄で数駅。駅のゲートは最近、顔認証に対応したので、ゲートを通るだけで運賃が自動的に電子マネーで精算されるようになった。あなたは会場の最寄り駅で降り、コンビニエンスストアに立ち寄る。少し喉が渇いたので、商品の水を棚から取り、店を出た。万引きしたわけじゃない。ここでも精算は顔パスになっているのだ。

コンサートチケットを顔認証とひも付けておいたので、ライブ会場への入場もゲートを通るだけ。スマートフォンの電子チケットを確認して席に着く。と、スマホから軽いアラート音が響く。どうやら1列ズレた席に座ってしまったようだ……。

——こんな感じの未来を、デジタルID連携・認証と権利処理のプラットフォームで実現しようとしているスタートアップがある。独自の「鍵」テクノロジーを開発するビットキーだ。

写真左からビットキー代表取締役CEOの江尻祐樹氏、代表取締役COOの福澤匡規氏

スマートロックにちょっと詳しいTechCrunchの読者なら、ビットキーは初期費用ゼロのサブスクリプションモデルで電子錠を提供する、IoTハードウェア企業としてのイメージが強いかもしれない。だが「カギとトビラ」はビットキーがやりたいことのほんの一面に過ぎない。

1月23日、ビットキーはシリーズAラウンドで総額39億300万円の資金調達を、2019年12月末に完了したと発表した。ゴールドマン・サックスをはじめとする10社を引受先とした約34.4億円の第三者割当増資と、りそな銀行、みずほ銀行からの4.6億円の融資が調達金額の内訳だ。2018年8月創業(会社設立は同年5月)の同社の累計調達額は約50億円となった。

シリーズAラウンドで第三者割当増資に参加した企業・ファンドの一覧は下記の通りだ(五十音順)。

  • HHP共創ファンド1号投資事業有限責任組合
    (阪急阪神不動産のCVCファンド)
  • グッドパッチ
  • グローバル・ブレイン7号投資事業有限責任組合
  • ゴールドマン・サックス
  • サイバニクス・エクセレンス・ジャパン1号投資事業有限責任組合
    (CYBERDYNE子会社のCEJキャピタルが運用するファンド)
  • 新生ベンチャーパートナーズ1号投資事業有限責任組合
    (新生企業投資が運営に関与するファンド)
  • フルタイムシステム
  • マーキュリア・ビズテック投資事業有限責任組合
    (マーキュリアインベストメントが伊藤忠商事と共同組成したファンド)
  • 31VENTURES Global Innovation Fund 1号
    (三井不動産が運営するCVCファンド)
  • 他1社

物理扉+デジタル上のカギ認証・ID連携も支える「鍵テック」

2019年4月にビットキーが発売を開始したスマートロック「bitlock LITE(ビットロック ライト)」は、初期費用なし、月額300円(年間一括払いの場合・税別)の低費用のサブスクスタイルとしたことが功を奏し、9カ月で12万台を受注。国内でのシェアを一気に拡大した。

また、同社のコアプラットフォームで、bitlock LITEをはじめとする「bitlockシリーズ」にも応用されている、ID連携・認証と権利処理のデジタルキー基盤「bitkey platform(ビットキープラットフォーム)」は、2019年2月にプロトベータ版が発表された後、開発が進み、12月には正式版が公開されている。

ビットキー代表取締役CEOの江尻祐樹氏は、bitkey platformを「安全で、便利に、気持ちよく、鍵の共有やID連携・認証、権利の受け渡しができるようにする基盤」と説明する。技術的には各種のP2P・分散技術や暗号化技術を組み合わせて開発されているbitkey platformだが、「何に使えるか」を説明した方が分かりやすいだろう。

「カギとトビラ」の領域では、bitkey platformは自宅やオフィスなどの出入りのほかに、自宅不在時の配達や家事代行業者の入室、不動産の物件のセルフ内見、民泊など宿泊施設の鍵システムなどに応用できる。ここまでは他社の提供するスマートロックでカバーできる範囲でもあり、想像も付きやすいところだ。

さらにbitkey platformでは、物理的な「トビラ」を開くだけでなく、デジタルな認証によりセキュリティのゲートを開くID認証、各サービスのIDをセキュアにつなぐID連携と、ユーザーの持つ権利を安全・正当に保証・移動する基盤としての利用が構想されている。具体的には、金融取引でのID認証とセキュリティの強化、クルマや交通機関などのモビリティや買い物での利用、チケット購入者の本人確認などへの応用が考えられている。CES 2020でのトヨタによる発表で話題となったスマートシティも、ID連携・認証が活用できそうな舞台のひとつだ。

「bitkey platform」の4つの機能

今回の調達資金について、江尻氏はまず「bitlockシリーズをあらゆる扉に物理的に広げていくために、セールス、マーケティング体制の強化を図る」と使途を説明している。サブスクリプションモデルで提供するbitlockのカスタマーサクセスおよびサポートを充実させるため、人材やシステム、仕組み面も強化していくという。スマートロックのプロダクトそのものについても「9カ月の展開でノウハウが蓄積してきた」として、「ハードウェア面でも、ソフトウェア面でも、さらに開発を進める」と江尻氏は述べ、「2020年中にbitlockシリーズの受注台数100万台を狙う」と話している。

さらにビットキーでは、bitkey platformを活用できるような事業者を対象にした、提携先の拡大も重視している。「(デジタル完結型の)SNSが勃興した2000年代に比べて、2010年代は、AirbnbやUBERなどのシェアリングエコノミーをはじめ、入口はデジタルで出口がリアル、というサービスが広がった時代だった。今後一般にもこの流れが広まると見ている。不動産会社やECサイトなどで、入口がデジタルなサービスを展開する企業をパートナーとして連携し、bitkey platformをリアルの出口につなげるID連携・認証のハブとして提供するため、研究・開発も進めていきたい」(江尻氏)

bitkey platformはプロトベータ版公開以降、国内外から想定以上の引き合いがあり、正式版リリースから1カ月ほどだが「既にかなり多くのパートナーが決まっている」(江尻氏)とのこと。今後、システムやオペレーション体制を整えて、連携を実装していくと江尻氏は述べている。

その他、スマートロック開発の中で採用しようとしている、顔認証などの生体認証についても研究・開発がなされているところだと江尻氏。「生体認証は個人情報の固まり。システムなどを整備して情報保護に強い仕組みを作ろうとしている。これができれば、KYC(Know Your Custmer:顧客の本人確認)についてもbitkey platformで、ID認証とeKYCの仕組みを入れて実現することができる。チケット認証のためのスマートIDなどについては、数カ月で実装したいと思っている」(江尻氏)

「データセラーはやらない」「強者総取りは目指さない」

江尻氏は「初期費用ゼロのbitlockばらまきが注目されがちだが、ビットキーは創業以来、最初からBtoBに力を入れてきた企業だ」と語る。「社会インフラとしてのデジタルキープラットフォームを展開するために、強い営業力で取り組み、事業提携を実現してきた」(江尻氏)

toBでの強さの実例として江尻氏が挙げたのが、集合住宅のオートロックを解除できるbitlock GATEの普及ペースだ。2019年7月、月額2000円からの定額制で発売されたbitlock GATEは、既に数千を受注しているという。「販売数が数万レベルになれば、オートロックを顔認証で開くことも実現できるようになるだろう」(江尻氏)

競合について江尻氏は、アメリカのAmazonで不在配達の課題を解消するために取り入れられたスマートロック「Amazon Key」など「局所競合はある」というが、「いずれもオープンな取り組みではなく、エコシステムやプラットフォームの一部が被っているだけ」と話している。そして「ビットキーでは、それぞれの入口となるサービスを倒すつもりはない。またパートナーが別のパートナーと組んでもよいと考えている」として、各サービスと手を結び、そのハブとしての役割を担いたいとの考えを強調した。

スマートID、スマートシティの行き着く先として「スマート国家」のようなものも考えられる。実際、日本でも出入国審査で顔認証が導入されたし、中国では顔認証その他の生体認証によるIDチェックが広がっている。ただ、その活用が「政府、または企業によるプライバシーの把握、管理」にまで及ぶと、ディストピアっぽい気持ち悪さが拭えない。

江尻氏は「データセラーはやらないと決めているし、社内にもそれを徹底している」とビットキーのポリシーを宣言。今後もこのポリシーは貫くつもりだ、と述べている。加えて「サービサーをインフラ(プラットフォーム)に従わせるのは良くないと考える」とも話している。「強者総取りでなく、緩くつながることを目指す。1社による囲い込みではなくオープンにすることで、サービス提供者は互いの許諾さえあれば連携でき、コントロール権はそれぞれにある形が作れる。これなら、国をまたいでも連携がしやすくなる」(江尻氏)

この考え方はハードとして提供するスマートロックにも及んでいる。「bitlockシリーズも良いものにしたいとは考えているし、そのための開発もしているが、ビットキーのベースはそこではない。僕らとしては他社とも組んで、プラットフォームを提供したいと考えている。パートナリングが進めば進むほど、ネットワーク外部性が効いてきて、事業者間の連携も作りやすくなる。そこで各社をブリッジする存在になりたい」(江尻氏)