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KITASANDO COFFEE
TAILORED CAFE
カンカク

元メルペイ松本氏が手がけるキャッシュレスカフェが麻布十番に開店、月額3800円のコーヒーサブスク機能も

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バリスタが丁寧に抽出したスペシャルティコーヒーとこだわりのホットサンドを、専用アプリから事前に注文しておくことで決済や待ち時間のストレスなくスムーズに受け取れる——そんな今風のカフェが本日2月21日、麻布十番にオープンした。

このカフェの名前は「TAILORED CAFE(テイラード カフェ)」、仕掛け人は松本龍祐氏だ。スタートアップ界隈の人にはもはや説明不要かもしれないけれど、松本氏は2012年にヤフーが買収したコミュニティファクトリーの創業者であり、2015年5月にメルカリへ参画後はソウゾウの代表取締役やメルペイの取締役CPOを務めた。

その松本氏が昨年メルペイを離れた後に立ち上げたのがTAILORED CAFEを運営するカンカクだ。同社では昨年8月に北参道にて「KITASANDO COFFEE」をスタート。今回麻布十番に開設したカフェはそれに続く2つ目の店舗となる。

アプリで事前注文すれば待ち時間なし、特徴は月額3800円のサブスク

両店舗に共通するのは、専用のモバイルアプリと連動したOMO(Online Merges with Offline)型であること。店頭で注文することもできるが、アプリ上でドリンクやフードメニューを事前注文しておけば、店舗では待ち時間も決済の手間もない。なお完全キャッシュレスシステムのため、店頭で決済する場合はQRコード決済アプリや電子マネー、クレジットカードなどを用いる。

目玉機能は今回新たにアプリに搭載された月額3800円のメンバーシップだ。これは月額3800円を払えば通常1杯400円のスペシャルティコーヒーが飲み放題になるサブスクプランのような機能。加入すればそのほかのドリンクメニューも全品200円引きで注文できる。

サブスク機能はどの店舗でも使えるため、現在は北参道と麻布十番の2店舗だが今後店舗が増えるほど対象となる場所も増える。しかも今のところは「1日に1杯まで」といった上限もなく、まさに飲み放題だ。

今回のタイミングでは実装されていないものの、“テイラード”という名の通り個人の好みに合わせてコーヒーやフードをカスタマイズできる「パーソナライズ機能」も春頃に搭載する計画。コーヒー豆などの素材に加えてミルクやトッピングを細かくアプリ上で設定し、7万通りを超える種類の中から自分の好みの商品を選べるようになるという。

「自分自身がオフィスビルで働いて、毎日のようにカフェに通っていた中で感じた課題を解消したいという思いが根本にある。本当はカフェラテが好きだけど、人がたくさん並んでいて待ち時間が気になるからアイスコーヒーを頼んだり、毎日通っていると気づいたら月に何万円も使っていたり。無駄な待ち時間は無くしたいし、毎日飲むなら美味しいコーヒーを定額で飲めた方がいい。そんな考えを取り入れた」(松本氏)

TAILORED CAFEは麻布十番駅や赤羽橋駅から徒歩数分の場所にあり、エウレカやC CHANNEL、Rettyなども入居する大型のオフィスビルのすぐ近くだ。メインターゲットはIT業界を始めとしたビジネスパーソン。たとえば美容や健康に気を使う人向けに「MCTオイル」をオプションで加えるなど、ビジネスパーソンのニーズに合わせて味以外のカスタマイズにも対応していく予定だ。

とはいえ味が美味しくなければ誰も頻繁に通いたいとは思わないだろう。カンカクのカフェでは味にもこだわり、旬なコーヒー産地を選び新鮮なコーヒー豆をセレクト。オペレーション部分ではテクノロジーを導入して常に高いクオリティを担保できるようにしている。

たとえばラテを入れる場合、ボタンを押すだけで豆が必ず20gぴったりになるようにエスプレッソマシーンの下に秤をつけて微調整もできるように設計。その豆をマシーンに入れる前にギュッと押しかためる工程では、常に10kgの圧力で押されるように手作業ではなく機械化した。

「その時々によってブレが生じないように定量化できる部分は徹底的に定量化しつつ、味には直接関係ないかもしれないが接客やラテアートのように人がやることでプラスアルファの価値が生まれる部分は人が担当している」(松本氏)

注文できるメニューの一部。豊富なドリンクのほかホットサンドやスコーン、パウンドケーキなどのフードメニューも用意している

麻布十番の「TAILORED CAFE」は1Fが注文スペースで2Fがイートインスペース(20席ほど)。全座席にはコンセントを設置しているそうで、Wi-Fiも使える

リアルなビジネスにはまだまだ変革の余地がある

それにしてもコミュニティファクトリー時代に開発した「DECOPIC」を筆頭に、これまで複数のC向けアプリを手がけてきた松本氏が次のチャレンジとしてリアルなカフェを選んだのはなぜか。

「メルペイの準備中に中国や東南アジアなどのスーパーアプリを複数研究する中で、急速に成長しているプラットフォームの中核を担うのはやはり決済だと感じていた。一方で決済はコモディティ化しやすい領域。その中でプラットフォームとしてどう戦っていくかを考えたときに、自分の強みも活かして決済と紐づくキラーコンテンツを作りたいと思った」(松本氏)

モバイル決済を使い倒すようなサービスを作るのであれば、利用頻度が高く「高トランザクションで低単価なもの」が適している。そう考えて開発したものの1つがシェアサイクルの「メルチャリ」だったそうだ。

事業を模索する中で、最終的には自身でチャレンジしたい気持ちが抑えきれず、独立を決断。領域を決める際に松本氏が重視したのが「オフライン」かつ「毎日使うサービス」であることだった。アプリに例えるなら「MAUではなくDAU」を追っていくような分野だ。

「今はSNSやLINEなどが普及して多くの人がインターネットありきで生活をしているのに、それでもリアルとネットの世界は分断されていて、何か意思決定する際にもスマホ経由でできないことも多い。リアルビジネスにはオンラインを融合することで変革できる余地がたくさん残されていると感じていたし、そこを1つずつ解決していくと、世の中の生産性を上げることにも繋がる」

「毎日行く店のポイントカードならまだしも、たまにしか行かない店のポイントカードを常に持ち歩きたいと思う人はほとんどいない。アプリをインストールしてもらうこと、会員登録をして使ってもらうこともそれと同じこと。そこには心理的なハードルがあり、乗り越えてもらうためには毎日触れるようなサービスが最適。その観点で複数の選択肢を考える中で、最終的には自分自身が毎日のように利用していて、1番やれそうな感覚のあったカフェを選んだ」(松本氏)

インターネットと融合した新たなカフェの創出へ

2019年8月にオープンした「KITASANDO COFFEE」

領域を定めてからは中国の「luckin coffee(ラッキンコーヒー)」や米国の「Cafe X」などを現地で視察。カフェ以外にも注目されているリテール事業者の現場を自らの目で確かめてきた。

松本氏によると実は当初「luckin coffeeの日本版」のような事業を考えていたそう。ただ視察を繰り返す中で国ごとの違いや特性を感じ、日本で同様のモデルを採用するのではなく別のアプローチに切り替えたという。

「中国の場合はスターバックスより安いコーヒーチェーンが存在しないことに加え、日本に比べて既存のスーパーやコンビニの質も高くなく、数自体も足りない。一方で日本の場合は低価格のコーヒーチェーンも複数存在する上に、安くて美味しいコンビニコーヒーの存在が大きい」(松本氏)

luckin coffeeの仕組み自体も優れたものではあるが、中国で爆発的に普及したのは国内の小売環境などが大きく影響しているというのが松本氏の見立て。luckin coffeeの場合はデリバリーの比率も高いが日本の人件費で同じように拡大するのは難しいし、キャッシュレスの文脈でもモバイルペイメントが広く浸透している中国とは状況が異なる。

実際に1号店舗となるKITASANDO COFFEEでは、安さを重視するのではなく豆や製法にこだわり味も追求。アプリからの注文を推奨するものの店頭での注文・決済も受け付け、デリバリーに関してはUber Eatsを通じて対応する形をとった。

今回新たに実装したメンバーシップや今後実装予定のパーソナライズ機能も日本で新しいモデルのカフェを広げていくために当初から構想していたもの。特にメンバーシップは事業モデルを確立させる上でも1つのカギとなりそうだ。

「サブスクをやることで遠くからでもお客さんが通ってきてくれたり、必ずしも大きな通りに面していなくても定期的に人が入ってきたりといったことを実証できれば、新しい価値を生み出せたと言える。そこまでいけばビジネスとしてもPMF(プロダクトマーケットフィット)に近づいた状態だ」(松本氏)

松本氏は学生時代に起業してカフェを経営した経験もある。その時に楽しかったのも今回カフェを選んだ1つの理由になったそうだが、特に固執することなく今後は別の領域に進出することも検討しているそうだ

まずは既存の2店舗を軸にパーソナライズ機能に向けた開発や体制整備を進める計画。今後はポップアップ型の店舗などを検討しているほか、中長期的には新規の出店に加えカフェ以外の領域に進出することも視野に入れている。

「インターネットとリアルを掛け合わせた取り組みをやっていくというのが会社としてのテーマ。サービスの視点ではニューリテールがキーワードになるかもしれないし、既存の産業にインターネットを組み込むという文脈ではDXにもなる。ネットとリアルを融合させることで心地いい体験を生み出せる領域はまだまだたくさんあるので、そこで大きなチャレンジをしていきたい」(松本氏)