AIとビッグデータが新型コロナとの戦いで奇跡を起こすことはない

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かなづちを持っている人には、あらゆる問題が釘のように見える。予想通り、テクノロジーセクターは目に入るすべての釘を一生懸命かなづちで叩いている。だが、現代のデータエコシステムの分析力は、新型コロナウイルス治療への対応の点では非常に限られている。

企業が持つ莫大な量のコンピューティングリソースを、何らかの形でウイルスと戦うための世界的な取り組みに向けることは、もちろん期待すべきことであり、称賛すべきでもある。

うまく使えば非常に価値ある取り組みができる。例えば、既知のコロナウイルスに関する何千もの記事Semantic Sc​​holarのコンテキスト認識テキスト分析を適用すれば、世界中の研究者が検索できる。研究所や保健当局が世界中で利用できるデジタルコラボレーションツールは、最後にこの規模の公衆衛生上の危機があった際に利用可能だったものをはるかにしのぐ。

だが、進歩に関して誤った印象を与えかねない分野もある。AIとテクノロジーが大きく進歩した分野の1つに創薬がある。数多くの企業が設立され、数億ドル(数百億円)の資金を集めたのは、AIを使用すれば特定の条件下で効果を発揮する新物質を発見するプロセスを高速化できるという期待があったからだ。

当然、新型コロナも研究の対象となる。すでに複数の企業や研究機関が新型コロナに10とか100の有効な物質を発見したと喧伝している。そうした発表は見出しを飾りやすい。「AIが新型コロナに効く可能性がある10個の物質を発見」といった類いだ。

AIを応用することが悪いわけではないが、実用的な結果はほとんど得られていない。例えば交通手段の選択肢を絞るという政策提案に対して、交通量のビッグデータを分析し、提案を支持したり低評価を付すというのは1つのあり方だ。 だが分析によって多数の選択肢が提示されても、いずれも行き詰まってしまったり、現在の取り組みに有害でさえあるなら、話はまったく異なってくる。

これは、AIを応用するのがハイテク企業であり、解決策を提案した後は必然的に彼らの手を離れてしまうからだ。治療の手がかりというものは、選択肢から除外する場合でさえ、過酷なテストを必要とする。有効性を確認するならなおさらだ。すでに他の用途に承認されている薬でさえ、責任を持って大規模に展開しようとするなら、新しい適用方法について再び審査する必要がある。

さらに、この種の創薬プロセスを経て新物質を発見したとしても、何十億という製造量はおろか、何千という規模でさえも、製造にこぎつける保証はない。それはまったく別問題だ。(断っておく必要があるが、取り組んでいるAI企業もある

リード(新薬候補となる化合物)を生成するメカニズムとして非常に重要なアプローチだが、問題はリードがないということではない。リードを発見し、フォローアップする体制は世界中にある。繰り返すが、新薬候補の探索活動を誰も行うべきではないと言っているのではない。仕事の内容をよく考えるべきだと言っているのだ。不確実な結果を伴う一連の課題にもっとふさわしい人々がいる。

同様に、例えば胸部X線をアルゴリズムによって自動的に分析する「AI」による手法は、将来的には価値がある可能性もあるため追求する必要があるが、期待を現実に合わせることが重要だ。今から1〜2年後に、AI分析を行う遠隔医療研究施設が設立されるかもしれない。だがこの春の時点で、新型コロナの診断を提供する「AIドクター」はまだ存在しない。

将来、アルゴリズムがもたらす予測と効率化が歓迎される分野であっても、現在の緊急事態では使えない。求められるのは賢さや斬新さではない。緊急事態では物事が慎重に進められ、三重にチェックされる必要がある。動きの速いスタートアップにとって最も魅力的で人気のあるアプローチは、数百万もの命がかかり、数千もの物事が相互作用するような世界的な危機にはほぼ適さない。

自動車メーカーがマスクや人工呼吸器の製造に工場を活用するのはありがたいが、新薬発見は期待していない。同様に、創薬に取り組んでいる人々がそれ以上のものであると期待するべきではない。AIは原理的に超人的な結果を出すという点から、魔法のようにとらえられる向きがある。以前にも述べたが「より良い」プロセスは、間違った答えをより早く出すだけということもある。

バイオテクノロジー産業におけるデジタル分野の最先端の研究は、基本的にはなくてはならない。だがその性質から、迫り来るヘルスクライシスの緩和には向いていない。見出しだけを読む一般市民も、テクノロジーの進歩がもたらす成果を当て込むテクノトピアンも、そのような期待を持つべきではない。

画像クレジット:Peter Zelei Images / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi