分母効果

新型コロナショックによる「分母効果」のVCへの影響は?

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資産運用会社にとってこの数週間はとにかく恐ろしかった。過去数週間市場が停滞していただけでなく(米国の財政出動法案の署名以降わずかに回復した)、さまざまな資産の日々のボラティリティ(資産価格の変動の激しさを表すパラメータ)が大きく、ポートフォリオのバランスを保つことが非常に難しくなっている。例えば、原油のベンチマークは米国では1バレル20ドル未満と、この20年近くで初めて目にする水準だ。

それに関連して、多くのVC(ベンチャーキャピタル)にとって大きなストレスとなっている、いわゆる分母効果(デノミネーターエフェクト)について書いてみたい。

分母効果のVCへの影響を語る前に、まず定義したい。LP(リミテッドパートナー)は資本を配分する役割がある。つまりLPは戦略に基づき多様な資産に資金を投資する。例えばあるLPの戦略は「株式60%、債券40%」、また別のLPは「株式40%、債券30%、VC 10%、ヘッジファンド10%、天然資源10%」といった具合だ。

すべてのファンドに独自の目標がある。大学基金のように、通常業務で発生する支払いのために手元流動性を必要とするファンドもある。一方、政府系ファンドのようにはるか将来に目線を置き、資産の長期保有を気にしないファンドもある。ポートフォリオマネージャーの役​​割は、ファンドの目的に沿って資産に投資することだ。

ファンドマネージャーは運用の一環として定期的にポートフォリオのバランスを見直し、採用した戦略に沿って資産を運用する。Wealthfrontのような最新の資産管理サービスを個人で使用している人なら慣れ親しんでいるはずだ。毎期(数カ月、四半期、年度など)、異なる資産の間で振替を行ってポートフォリオを調整し、元々の戦略に立ち返る。株式は60%が目標だが、実際のポートフォリオが70%になっているなら、サービス側で10%を自動的に売却し他の資産に投資する。

つまり割合は「あるアセットクラスに投資した資金」を「ポートフォリオの総資金」で割って算出する。実に簡単な算数だ。ここからが複雑になる。例えば、あなたが100万ドルのポートフォリオを管理していて、比較的流動性の高いNasdaq(ナスダック)に70%(70万ドル)を投資し、残りの30%(30万ドル)はVCファンドに投資しているとしよう。VCファンドは非常に流動性が低く、投資資金の回収に10年以上かかることもある。

Nasdaqが9817.18の史上最高値を記録した2月19日の時点で、あなたの資金はバランスが取れていたとする。Yahooファイナンスによると、Nasdaqはその後20.57%下落した。つまり、ポートフォリオ全体の価値は約85万6010ドル(株式は55万6010ドル、VCは30万ドルのまま)になる。

VCへの投資を増減させていないのに、ポートフォリオはVCのアセットクラス(投資対象としての資産の種類)に大きく偏ってしまう。株式は556010÷856010=ポートフォリオの約65%を占めるが、VCは約35%となり、当初の戦略で計画した30%から増加している。

歪んでしまったバランスを元に戻す必要があるが、それはできない。VCファンドには10年の資金サイクルがあるため(もっと長い場合もある)、VCへの投資資産を一部売却し、株式を購入してポートフォリオのバランスを取り直すことはできない。ポートフォリオマネージャーは事実上行き詰ってしまう。

これが「分母効果」だ。ある資産の価値が下がったら、他の資産を売却してポートフォリオを適切に再調整すべきだが、VC、プライベートエクイティ、不動産、天然資源などの資産は、短期や中期での売却が極めて難しい。

ポートフォリオの一部としてのVC投資

以上が分母効果の概要だ。VCや、回り回って創業者にとってこれは実際のところ何を意味するのか。

VCにとって今日の大きな課題は、LPの多くがまさに上記の状況にあるということだ。アセットクラスとしてのVCが過剰投資になっているだけでなく、LPは巨大な流動性危機と戦っている。LPは資金に働いてもらうために、VC投資の縮小を望んでいる(場合によってはそれが必須だ)。LPは新しいファンドへの投資を削減するだけでなく、既にコミットしたファンドへの投資も控えたい。

皮肉なのは、多くのスタートアップのバリュエーションが下がっていることを考えれば、まさに今がもっと投資をすべき時期だという点だ。それが分母効果がもたらす根本的な緊張関係だ。恐れが引き起こす心理状態や投資家の無関心の問題ではなく、戦略的思考がもたらす問題であって、ファンドの目的からすれば合理的なのだ。

LPには対処方法に関して2つの戦略がある。まず、GP(ゼネラルパートナー)に嵐が去るのを待つよう持ちかける。そうすればLPには若干の余裕が生まれるかもしれない。キャピタルコールの金額を減らすべく、投資のペースを遅くするようGPに働きかけるわけだ。また、新しいファンドへの投資を中断したり、投資にかける時間を引き延ばし、投資のタイミングをもっと分散させることもできる。

次にセカンダリーマーケットでVCファンドの投資持ち分を売却し、流動性を確保する方法がある。マーケットは小さいが非常に興味深い手段だ。筆者の同僚のConnie Loizos(コニー・ロイゾス)が先週、このアングルについて書いた内容は、マーケットがスタートアップの価値を見極めるまで時間がかかるため、セカンダリーマーケットで取引が始まるのはしばらく先だということだ。

要するに、分母効果により、LPは今後数カ月以内にポートフォリオ再調整のために必要なことはすべて実行することになる。市場が急速に回復すれば、VCやその他のオルタナティブアセットへの投資をすぐに再開する可能性がある。だがマーケットの厳しさが長引けば、ポートフォリオマネージャーがポートフォリオをあるべき姿へ戻すため、VCのアセットクラスにはさらに下落圧力がかかると予想される。5年生の算数と複雑な金融システムが支配する世界だ。

画像クレジットRalf Hiemisch / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi