10回のピボットで最適解を探し続ける妊活支援のファミワンが1.5億円を調達

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新型コロナによるカオスの中でテック企業の誤情報対応は

「私自身が妊活に取り組んでいたときには、病院に行く行かないをどう判断するか、また何をすれば妊活によいのかが分からず、あいまいな情報に惑わされて夫婦でたくさん喧嘩もしました」

そう語るのは、LINEで妊活支援サービス「famione(ファミワン)」を提供するファミワン代表取締役の石川勇介氏だ。同社は4月6日、総額約1.5億円の資金調達をプレシリーズAラウンドで実施したことを明らかにした。KVP、Aflac Ventures、ベンチャーユナイテッド、AGキャピタルのほか、西川順氏や守屋実氏ら複数のエンジェル投資家が第三者割当増資を引き受け、また日本政策金融公庫からは融資も受けている。

「何が分からないのか分からない」妊活ユーザーが受け身でも使える

石川氏は起業前、医療関係者向け情報提供サービスのエムスリーに在籍し、新規事業の企画・開発に携わっていたが、自身が当事者として体験した妊活での課題を解消すべく、2015年6月にファミワンを設立した。

写真前列中央:ファミワン代表取締役 石川勇介氏

妊活のために検査・治療を行う夫婦・カップルは、現在6組に1組に上る。そのうち150万〜200万組ほどが病院で治療する(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査」)。人工授精や体外受精は保険が適用されない自由診療のため、治療のステップが上がるにつれて時間や費用の負担も上がる。費用は全体平均でも50万〜70万円、体外受精なら1度の治療で30万〜50万円がかかり、中には「クルマが2台買えるほど費用がかかったという人もいる」(石川氏)という。

年間の体外受精件数は約44万回となっており、2015年時点で体外受精により、5万人が誕生している(日本産科婦人科学会アートデータブック:PDF)。これは新生児の17人に1人という割合で、今や「クラスに1人は体外受精で生まれた子がいる」という時代になっている。

一方で、多額の費用をかけて不妊治療や体外受精を行っても、必ず子どもが授かるわけではないのも確かだ。妊活に取り組む人は、噂や個人の体験談など信頼性の低い情報にさらされ、半数以上の夫婦が「妊活・妊娠に関する情報を正しく理解できているかどうか、自信がない」と不安を感じている。

「Googleのアルゴリズムが変わり、今では検索結果1ページ目は医療機関や専門家からのちゃんとした情報が表示されるようになっているが、階層が深くなると、いまだに真偽のあやふやな情報も多い。『待ち受けにすると子宝に恵まれる画像』など、まあ害がないものならばいいのかもしれないが、こうした情報に踊らされて(妊活のための)時間を無駄にして、後悔する人も多い。1人でもそういう人を減らすサービスを提供したいと考えた」(石川氏)

famioneは、妊娠を望む夫婦・カップルや将来の妊娠を考える女性向けに、LINEを活用して、アドバイスや情報提供により妊活を支援。妊活に必要な知識や思考のサポート、精神面での改善サポートを行うことで、夫婦・カップルの話し合いや継続的な行動を支える。サービスが現在の形になったのは、約2年前の2018年6月のことだ。

「LINEで提供されている“相談”サービスは、妊活領域に限らずいろいろ出ているが『悩んだら使う』というものが多い」と石川氏はいう。「しかし、妊活ではそもそも『何が分からないのかが分からない』というところからスタートする人が多い。また他人には相談しない人が多い。自分もまさにそうだった」(石川氏)

これを「何を聞いていいか分からなくても、妊活を始めたら誰でもすぐ使えるようなサービスにしたい」と考えた石川氏。「LINEで友だち登録して、チェックシートに回答すると、専門家からのアドバイスが無料でLINEに届く」という3ステップで、受け身で質問に答えるだけでアドバイスが得られる形を取ることにした。ライフスタイルや妊活のステージに応じて質問やアドバイスが変わり、回答とアドバイスのやり取りを数カ月程度、継続する形になっている。

アドバイスの内容は、パートナーと妊活についてどう話せばよいか、といったユーザーの行動に関するものや、医療機関の選び方など。プラットフォームとしてLINEは利用しているが、「リアルタイムチャットではなく、適度な利用頻度で、必要なタイミングで情報提供している」(石川氏)とのことだ。国内で171名という妊活専門の不妊症看護認定看護師や、臨床心理士、胚培養士、妊活経験者のピアカウンセラーと連携して、さまざまなカテゴリーで専門性の高い回答が行えるような体制を取っているという。

2020年1月現在、累計登録者数が1万2000人を超えたfamioneは、これまでの利用者のフィードバックをもとにアドバイスの自動化を含め、プロダクトをアップデートしてきた。回答のアルゴリズムも構築できてきたとのことで、「サービス開始当初は、チェックシートからのユーザーの入力に対して2〜3時間ぐらいかけて回答していた。その後、よく書けたアドバイス、ユーザーの反応がよかったアドバイスをアルゴリズム化して、現在は40問のチェックシートに対する答えを8割方、自動で出力し、15分程度でアドバイザーが追記して返すことができるようになった」と石川氏は話している。

アルゴリズムのロジック改善により、始めは15ユーザーほどにしかアドバイスを返せなかったところが、今では約300ユーザーに向けて返信。ユーザーフィードバックの反応は維持・向上しながら、効率化も実現しているとのことで、「手動と自動化とのバランスをうまく取りながら、サービス提供している」と石川氏は述べる。現在、93%のユーザーが「次もアドバイスを受けたい」と答えているそうだ。

妊活開始からの継続利用を目指してサービスを設計

ファミワンが、2016年に最初の「famione」をリリースしてから現在の形のサービスに落ち着くまでには、同じ妊活領域で10回ものピボットを繰り返したと石川氏は語る。

「価値あるサービスを検証して改良し、自動化できるようになってようやく、より多くの人に届けられるところまでたどり着いた。昨年10月ぐらいからは、サービス連携やメディアへの記事提供などでグロースを仕掛けているところだ」(石川氏)

基本サービスは無料で提供されているfamione。収益源は医療機関マッチングによるユーザー送客、企業の福利厚生メニューや顧客特典としての有料版サービス提供、そして一般ユーザーへの有料プラン提供が主なものと想定されている。送客先のクリニックからは治療費の10%程度を手数料として得る考え。また一般ユーザー向け有料版のプレミアムプランは月額3980円で提供されている。

医療機関とのマッチングについては「ただ収益が上がればいいというのではなく、ユーザー本位の選択を重視し、利用フェーズや考え方に合わせて一番適切なところへ結び付けるようにしている」と石川氏はいう。

妊活を始めた時点から、病院や治療方法の選択、体外受精をするかどうかの検討や、妊活の“やめ時”の判断まで、継続的に利用してもらうことを前提に設計しているというfamione。「妊活を始めたばかりで検査・治療まではまだ考えていない人と、医療機関を検討し始めた人、既に通院している人では、ニーズが違う。コンバージョンを求めるのではなく、継続利用を目指している」(石川氏)

ファミワンでサービス設計を担当する、不妊症看護認定看護師の西岡有可氏も「不妊クリニックに長く勤めてきたが、ファミワンが大きく違う点は未受診者のユーザーが多いこと。妊活を始めたばかりの人にとっては、クリニックを予約すること自体が大きなステップとなる」として、次のように話している。

「妊活を始めてみて少し経つと、次に考えるのは、いつ受診したらいいのか、病院はどういうところがいいのか、といったこと。実は病院によって治療方針には結構違いがある。ライフスタイルや症状によっては、治療方針が合う・合わないが出るので、個々に合わせたアドバイス、マッチングができるようにしている。クリニック勤務のときには患者さんに勝手に転院を勧めることはできなかったが、ファミワンでは第三者的にアドバイスができるので、看護師として納得のいく仕事ができる」(西岡氏)

また、石川氏は、病院選びのマッチング精度についても、医療機関との連携とデータ解析により向上を図っていると述べている。

「学会認定医師の有無、不妊症看護認定看護師やカウンセラーの在籍状況や、クリニックサイトの掲載情報などから医療機関をリストアップするところから始めて、医療機関・医師からの情報提供、ファミワンによるヒアリングと見学評価により、情報の提示内容を改善している。最終的にはユーザーの属性ごとの選択結果や受信後の印象・成績、医療機関からの反応をフィードバックとしたビッグデータ解析により、夫婦で受診を考える際のよりよいサポートを実現していく」(石川氏)

妊活のフェーズが同じでも「夫婦・カップルにより考え方はいろいろ」と石川氏はいう。「まずは話を聞いてみたいだけの人、夫婦で話し合ってゆっくり妊活したいという人から、始めから体外受精をやりたいという人まで、多様なニーズがある。医療機関のほうも方針はいろいろなので、そこのギャップを埋めるために、システムやアルゴリズムを開発している」(石川氏)

こうした対応により、ユーザーから病院選びについての相談も多く、実際に通院を報告するユーザーも増えているというfamione。医療機関へのアプローチも始まっているそうだ。また鍼灸院やサプリメントといった代替治療でもアプローチを進めていくという。

「当社では送客の部分での市場規模は、医療で約2000億円、代替医療で約1500億円で、市場全体では全体で約3500億円と見ている」(石川氏)

famioneを妊活・出産領域のプラットフォームに

一般ユーザー向け有料版のプレミアムプランでは、病院選びのアドバイスが利用可能。また、LINEからの自由相談が回数無制限でいつでもできるほか、予約制で電話相談も可能となる(自由相談については、新型コロナウイルスの感染拡大にともない、妊活ユーザーの不安に応えるため、4月末まで無料で利用できる。一方、電話相談は一時休止されている)。

「一般ユーザーへの有料サービスは、直接のコンバージョンとしては捉えていないが、より深い個別サポートが必要なユーザーのために用意している。また、消費財メーカーなどとの連携により、サブスクリプションモデルとしての提供を検討しているほか、企業の福利厚生の一環としての(有料プランの)導入、セミナー実施も進んでいる」(石川氏)

一例として、小田急電鉄には2018年9月から従業員向け福利厚生プランを提供。管理職向けに妊活・不妊の理解促進を目的としたセミナーも実施している。福利厚生プログラムとしては、ミクシィグループでも導入されており、ほか、伊藤忠労働組合、全日本空輸(ANA)、ソニー、メルカリなどにはセミナー提供も実施。企業との連携ではウェディング会場で挙式するカップル向けのワークショップ開催なども行われており、今後、女性向けサービス、生命保険会社とも提携を協議し、検討していくという。

石川氏は「famioneを妊活・出産領域のプラットフォームとして展開していきたい」と語る。医療機関などへの送客や広告、物販支援と個人課金、大学・病院と共同での研究解析を核に、妊活情報の提供・サポートから、出産後まで含めた長期的なサポートへの展開、海外進出なども図っていきたいとしている。

直近では調達資金により、採用による組織拡大とプロモーション活動の強化を予定しているという。ファミワンでは2021年末をめどに、累計登録者100万人超を目指すとしている。