環境破壊のパーム油廃液から人間の必須栄養素DHAを産出、筑波大の研究から生まれたMoBiolのテクノロジー

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パーム油と聞いて何を連想するだろうか。シャンプーやマーガリンを思い浮かべる人も多いだろう。アブラヤシから取れる植物性のオイルで、液体でも固体でも扱いやすい性質から出荷量の71%が食品に、24%が洗剤・芳香剤などに使われている。主な産出国はインドネシアとマレーシアで、この2国で世界の出荷量のほぼ100%となる。

パーム油は単位あたりの脂抽出量が多いのも特徴で、インドネシアとマレーシアでは現在プランテーションでのアブラヤシ栽培が盛んだ。2国ともそれまで栽培していた天然ゴムからは2000年に入ってからアブラヤシに切り替え、世界的な需要の高まりを受けて売上高が3倍程度に伸びているという。

産出国にとっては売上が伸びることで国が豊かになるというメリットがある半面、農地拡大による森林伐採とアブラヤシからパーム油を搾取したあとの廃液(残りかす)が重大な環境問題になっている。この問題は、COP23(国連気候変動枠組条約第23回締約国会議)でも取り上げられたので知っている読者もいるかもしれない。

森林伐採については各国政府が計画性をもって農地の拡大に制限を設けるべきだが、パーム油廃液(パームオイル生産工場廃液、Palm Oil Mill Effluent)の処理については悩ましい問題となっている。というのも、パーム油廃液をそのまま河川や海に流すと富栄養化によるプランクトンの大量発生など引き起こすからだ。

そのためパーム油の生成工場ではパーム油廃液を専用の池に流し込み、水に油が浮く性質を利用して上澄みを除去することで油分を回収する作業が必須だ。この作業を4回程度繰り返したあとに河川や海に放流するのだが、放流するまでにかかる日数は50日程度と長い。また、上澄み液については肥料としての使い道があるものの、廃液処理の最中にCO2やCH4(メタンガス)が発生するほか、温室効果ガスであるとともにオゾン層破壊物質であるN2O(亜酸化窒素)も生み出してしまう。パーム油の世界的な需要の高まりの裏で、深刻な環境破壊が問題になっているのだ。

前置きが長くなったが、今回紹介するのは茨城県つくば市を拠点とするMoBiolというスタートアップ。同社は筑波大学の藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターでセンター長を務める渡邉 信教授の研究成果を社会実装したテクノロジーを利用して、このパーム油廃液問題の解決に取り組んでいる。

写真に向かって左から、MoBiolの高田大地氏、同社代表取締役を務める筑波大学の渡邉 信教授

渡邉教授は、国立環境研究所で赤潮問題などを研究していた藻類のスペシャリスト。同教授は自身のこれまでの研究を「規制をかけるための実験、つまりどのような影響や問題が出てくるかという研究が多かった」と振り返る。そして「問題提起のみで解決策を示さない研究だけでは人生に悔いが残る思った」と続ける。MoBiolはそんな渡邉教授の研究が地球規模の環境問題を解決する手段として社会実装されるわけだ。

渡邉教授は藻類のスペシャリスト

実は藻類からエネルギーなどを生み出す研究は学会でも過去に何回かブームになったそうで、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が130億円を投資したプロジェクトもあったが、実用化のメドが立たず2000年代に終了してしまったという。その後の藻類人気は下火なっていたが、近年SDGs(持続可能な開発目標)というキーワードをもと、産業界で環境問題を考える機運が高まったことから渡邉教授は自身の研究を加速させたそうだ。そんなとき、後に渡邉教授と共同でMoBiolの代表取締役を務めることになる中島敏秀氏を出会い、自らの研究成果の社会実装の道が開けたという。

渡邉教授の研究室にある試験プラント

渡邉教授が見つけ出した藻類を特殊な方法でパーム油廃液に投入することで、その藻類がパーム油廃液を栄養素として取り込んでDHAを排出する。この藻類によるパーム油廃液の処理時間はたった2~4日で、専用池を使った処理方法に比べてオゾン層破壊物質を産出しないほか、処理時間は大幅に短縮される。もちろん、パーム油廃液を摂取した藻類からDHAを取り出す技術もMobioilが保有している。同社はこれら一連の技術の国際特許を取得済みであり、現在追加で一部を申請中とのこと。ちなみに、藻類はこれまで約4万種が確認されているが、実際には1000万種類以上にいると推定されるほど多種多様とのこと。藻類を長年研究してきたからこそ、廃液処理に適した藻類を見つけ出せたといえるだろう。

  1. Dryalgae_spraydryer

  2. Dryalgae_Sample

  3. Dryalge_Microscope


藻類が生み出すDHAとはもちろん、ドコサヘキサエン酸のこと。人間に必須の栄養素で、EPA(エイコサペンタエン酸)とともにオメガ3とも言われている不飽和脂肪酸だ。人体では生成できないことから、EPA-DHAを多く含む青魚を摂取したり、これらを含んだ健康食品を利用したりして体内に取り込む必要がある。EUでは、DHAを1日100mg摂取することで乳幼児の正常な視力に発達に寄与するという研究結果などから、乳幼児用ミルクにDHAを入れることを義務化する動きを見せている。

インドネシアにあるテストプラント

同社ではすでにテストプラントを建設済みで、2年以内にDHAの供給元として事業を展開する計画を進めている。すでにテストプラントからはDHAの原料となる乾燥藻の取り出しに成功しており、商用培養プラントおよび抽出プラントを設置、事業化を急ピッチで進める予定だ。その背景には、日々深刻化していくパーム油廃液の問題が念頭にある。渡邉教授は「MoBiolが利用する藻類を使うことで、パーム油廃液では2万~6万ppmほどになるBOD(Biochemical Oxygen Demand、生物化学的酸素要求量)を2000~5000ppmまで落とせる」と語る。この2000~5000ppmというのがMoBiolの藻類が栄養素を摂取してBODを落とせる限界だそうだ。「そこから従来の専用池の処理方法を併用してBODを100以下にしてから池から川へ放流するが、今後はこの2000~5000のBODの処理水までも別の藻類を使って安価かつ環境に優しい方法で処理する方法を考えたい」と渡邉教授。

MoBiolの技術を使えば、パーム油の生産者にとってもこれまでは厄介者で処理にコストと手間がかかったパーム油廃液を、DHAを生み出す栄養素として販売できることで、経営基盤の強化や低賃金労働者の給与アップが可能になるのだ。